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認知症
勝木 将人

監修医師
勝木 将人(医師)

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2016年東北大学卒業 / 現在は諏訪日赤に脳外科医、頭痛外来で勤務。 / 専門は頭痛、データサイエンス、AI.

認知症の概要

認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって徐々に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態を指します。認知症は、記憶力や判断力、思考力などの認知機能が低下することで、日常生活が困難になります。

認知症は、加齢によるもの忘れとは異なり、脳の病変や障害が原因で発症します。例えば、アルツハイマー病や脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などが代表的な認知症の種類です。これらの病気は、それぞれ異なる病理学的特徴を持ち、症状や進行の仕方も異なります。

認知症は高齢者に多く見られますが、若年性認知症と呼ばれる65歳未満で発症するケースもあります。進行は個人差があり、ゆっくりと進行する場合もあれば、急激に悪化する場合もあります。早期発見と適切な治療が認知症の進行を遅らせ、患者さんの生活の質を向上させます。

認知症の原因

認知症アルツハイマー病で、脳内にアミロイドβやタウタンパク質が蓄積することによって神経細胞が破壊され、認知機能が低下します。アルツハイマー病は、記憶障害から始まる事が多いですが、徐々に見当識障害や遂行機能障害が進行します。

次に多いのが脳血管性認知症です。脳梗塞や脳出血などが原因で、脳の血流が途絶え、神経細胞が死滅し、認知機能が低下します。症状は脳血管障害の再発のたびに進行し、運動麻痺や歩行障害、言語障害、嚥下障害などが段階的に悪化していきます。

レビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が脳に蓄積することで発症します。このタイプの認知症は、認知機能の変動や幻視、パーキンソン症状が特徴です。

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症し、行動の変化や言語障害が目立ちます。

その他、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などの脳外科疾患や、ビタミン欠乏症、甲状腺機能低下症などの内科疾患も認知症の原因となることがあります。これらの原因が特定され、適切な治療が行われることで、認知症の症状が改善する場合もあります。

認知症の前兆や初期症状について

認知症の前兆や初期症状は、日常生活の中で見逃されがちですが、早期発見が重要です。初期症状として一般的なのは、記憶障害です。例えば、最近の出来事を忘れる、同じ話を何度も繰り返す、物を置き忘れるなどの症状が見られます。これらの症状は、加齢によるもの忘れとは異なり、日常生活に支障をきたすことが多いです。

見当識障害も初期症状の一つで、時間や場所、人の認識が困難になることがあります。例えば、日付や曜日がわからなくなる、自分の住んでいる場所がわからなくなる、家族や友人の顔を認識できなくなるなどの症状が見られます。

遂行機能障害は、計画を立てて物事を進める能力が低下する症状です。例えば、料理の手順がわからなくなる、買い物の際に計算ができなくなる、日常の家事ができなくなるなどの症状が見られます。これにより、日常生活の中でミスが増え、本人や家族にとって大きな負担となります。

言葉がうまく出てこない言語障害という症状もあります。話の内容が理解できない、書かれた文字が読めないなどの症状が見られます。その結果コミュニケーションが困難になり、社会的な孤立が進むことがあります。

その他に行動・心理症状(BPSD)も初期に現れることがあり、不安や抑うつ、興奮、徘徊などが見られます。これらの症状は、患者さん本人だけでなく、家族や介護者にとっても大きな負担となります。早めに症状に気づき、適切な対応をすることが重要です。

これらの症状がみられた場合、脳神経内科、精神科、脳神経外科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。

認知症の検査・診断

認知症の検査・診断は、複数のステップを経て行われます。まず、医師による問診が行われ、患者さんや家族から現在の症状や病歴について詳しく聞き取ります。問診では、記憶力や判断力、日常生活の状況などについて質問されます。

身体検査では、血液検査や尿検査、心電図検査、感染症検査などが行われ、他の疾患の可能性を排除します。これにより、認知症の原因を特定していきます。

神経心理学検査も重要な診断の1つです。代表的な検査には、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)があります。これらの検査では、簡単な計算や記憶のテスト、図形の描画などが行われ、認知機能の障害の有無を評価します。

画像検査も診断に欠かせません。CTやMRIを用いて脳の形状や萎縮の程度、脳血流の状態を調べます。特に、アルツハイマー型認知症では、海馬の萎縮が見られることが多く、これを確認するためにVSRAD検査が行われることがあります。また、SPECTやPETを用いて脳の血流や代謝を調べることもあります。

これらの検査結果を総合的に評価し、認知症の診断が下されます。診断が確定すれば、適切な治療やケアの方針が立てられます。

認知症の治療

認知症の治療には、薬物療法と非薬物療法の2つのアプローチがあります。薬物療法では、抗認知症薬が使用されます。代表的な薬には、アリセプト、レミニール、イクセロンパッチリバスタッチパッチ、メマリーなどがあります。これらの薬は、神経伝達物質の分解を抑えたり、情報伝達を整えたりすることで、認知機能の維持を図ります。また、行動・心理症状(BPSD)に対しては、抗精神病薬や抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などが使用されることがあります。

非薬物療法も重要な治療法です。認知リハビリテーションや認知トレーニング、回想法などがあります。認知リハビリテーションでは、ゲームやパズル、計算ドリルなどを使って脳を活性化させ、認知機能の維持や回復が目標です。回想法では、昔の残存記憶を思い出し、話すことで認知機能への直接的な効果より、気分、意欲の改善などにおいて有効性が示されています。

運動療法も非薬物療法の1つとして効果的です。散歩やラジオ体操、スポーツなどの有酸素運動を取り入れることで、脳への刺激を増やし、気分転換を図ります。これにより、筋力や心肺機能の低下を防ぎ、転倒や寝たきりのリスクを抑えることができます。

絵画療法や音楽療法も含めた芸術療法も有効です。音楽を鑑賞したり、演奏することでリラックス効果を得られ、感情の安定や自発性の改善に役立ちます。絵画や陶芸、折り紙などの芸術活動を通じて脳を活性化させることも効果的です。

他にはさらに、ペット療法やアロマセラピーなども取り入れると効果的です。動物とのふれあいを通じて感情の安定を図り、アロマセラピーでは香りによるリラックス効果と、中核症状である認知機能の改善にも効果があると言われています。

認知症になりやすい人・予防の方法

認知症になりやすい人には、いくつかのリスク要因があります。1つ目に、加齢は最も大きなリスクの1つです。年齢が上がるにつれて認知症の発症リスクも高まります。特に65歳以上の高齢者では、認知症の発症率が増加します。

遺伝的要因も影響していて、家族に認知症の患者さんがいる場合、そのリスクは高まります。特にアルツハイマー病は遺伝的要因が強いとされています。

生活習慣も認知症に影響を与える原因の1つです。高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、過度の飲酒などは、認知症のリスクを高める要因です。また、運動不足や不健康な食生活もリスクを増加させます。

社会的孤立や抑うつも認知症のリスクになります。社会的に孤立している人や、長期間にわたって抑うつ状態にある人は、認知症のリスクが上がります。

認知症の予防には、生活習慣の改善が大切です。まず、定期的に適度な運動を取り入れることが推奨されます。ウォーキングやジョギング、体操などの有酸素運動は、脳への血流を増やし、認知機能の維持に役立ちます。

健康的な食生活も予防に必要な要素です。バランスの取れた食事を心がけ、特に野菜や果物、魚、ナッツ類を積極的に摂取することが推奨されます。地中海食やDASH食は、認知症の予防に効果があるとされています。

社会的なつながりを保つことも予防に役立ちます。友人や家族との交流を大切にし、地域の活動やボランティアに参加することで、社会的孤立を防いで認知症予防につながります。

知的活動を続けることも予防に効果的です。読書やパズル、ゲーム、趣味の活動などを行い脳を活性化させることが推奨されます。新しいことに挑戦することで、脳の刺激を増やし、認知機能の低下を防ぐことができます。

ストレス管理も重要です。過度なストレスは認知機能に悪影響を与えるため、リラックスする時間を持ち、趣味や運動を通じてストレスを解消することが大切です。


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