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佐藤 浩樹

監修医師
佐藤 浩樹(医師)

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北海道大学医学部卒業。北海道大学大学院医学研究科(循環病態内科学)卒業。循環器専門医・総合内科専門医として各地の総合病院にて臨床経験を積み、現在は大学で臨床医学を教えている。大学では保健センター長を兼務。医学博士。日本内科学会総合専門医、日本循環器学会専門医、産業医、労働衛生コンサルタントの資格を有する。

大動脈縮窄症の概要

大動脈縮窄症とは、主に大動脈弓峡部と呼ばれる部分が著しく狭くなることで、下半身への血液供給が障害されやすくなる先天性心疾患の一つです。
出生後しばらくは動脈管(胎児循環時に血液をバイパスする血管)によって血流が保たれていますが、動脈管が閉鎖するにつれ、下半身が虚血状態となりショックに陥る可能性があり、新生児期から注意が必要です。合併症としては、心室中隔欠損(VSD)や大動脈二尖弁、大動脈弁狭窄などが挙げられる場合もあります。

大動脈縮窄症の原因

大動脈縮窄症の原因は、胎児期の大動脈発生過程において血流の偏りや動脈管の組織が大動脈に迷入するなどの要因が重なって生じると考えられています。
代表的には下記の2つの仮説があります。

ductal tissue theory

動脈管組織が大動脈峡部に混在し、動脈管の閉鎖とともに狭窄を生じる

hemodynamic theory

胎児期に上行大動脈への血流が減少し、大動脈弓峡部が発育不全を起こす
また、遺伝的要因や染色体異常(例:Turner症候群など)に合併することも報告されています。

大動脈縮窄症の前兆や初期症状について

大動脈縮窄症の初期症状としては、下肢の冷えやチアノーゼ、尿量の減少、呼吸障害などが生後数日から1週間前後に現れることがあります。

特に新生児期は動脈管が急速に閉鎖することで、急激なショック状態になる可能性があるため、発育不良や呼吸苦などが認められた場合は早急に医師に相談する必要があります。
受診する診療科は小児科(特に循環器外来)となります。赤ちゃんの呼吸状態や下肢の血色不良に気付いた場合は、まずは小児科医に相談し、必要に応じて小児循環器科へ紹介してもらうのが一般的です。

大動脈縮窄症の検査・診断

大動脈縮窄症の診断には、まず上下肢の血圧差や脈拍の触知状態を確認します。上肢は血圧が高い一方で、下肢の血圧や脈拍が低い・弱いといった所見が見られます。さらに以下の検査などが行われます。

  • 心エコー検査
    狭窄部位の形状や血流の乱れ、合併奇形の有無を評価
  • CTやMRI
    大動脈全体の走行や重症度を詳細に把握
  • 必要に応じた心臓カテーテル検査

先天性の構造的問題であるため、出生前に見つかる例もあり、胎児エコーでの診断率が高まっています。

大動脈縮窄症の治療

治療の基本は、狭窄部位の外科的再建カテーテル治療による拡張です。
新生児期~乳児期は以下のようなステップを踏むことが多く、早期に適切な治療を行うことで長期予後を改善できます。

動脈管開存を保つためのプロスタグランジンE1(PGE1)製剤の投与

PGE1によって動脈管を開存状態に維持し、下半身への血流を確保します。新生児期の急性ショックを防ぐうえで重要な手段であり、高用量の持続静注が必要になる場合もあります。投与中は、血圧や呼吸状態などを綿密にモニタリングし、副作用(無呼吸など)に注意しながら管理を行います。

外科的手術(端々吻合術、拡大大動脈弓吻合術など)あるいはステント留置術

外科的手術では、狭窄部を切除し、上下の正常大動脈を直接吻合(端々吻合法)する方法がよく用いられます。大動脈弓の低形成が強い場合には、拡大大動脈弓吻合術などを検討します。カテーテルによるステント留置は、外科手術に比べて身体への負担が小さい一方、ステント周辺の大動脈瘤や解離のリスク管理が必要であり、症例によって向き不向きがあります。

合併奇形(例:心室中隔欠損など)がある場合、段階的な修復手術を検討

複雑な心奇形を伴う場合は、一度にすべてを修復するのではなく、肺動脈絞扼術や姑息手術によって血行動態を安定させ、成長した段階で本格的な修復手術を行うこともあります。僧帽弁狭窄や大動脈弁狭窄など、左心系に複数の狭窄があるケース(Shone複合)では、二心室修復が難しく一心室循環へ移行する可能性もあるため、専門医による綿密な評価が求められます。

術後

術後は再狭窄を生じる可能性があるため、定期的な心臓エコーやCT検査での経過観察が欠かせません。特に乳児期のうちに手術を受けた場合、成長に伴って縫合部やステント部分が再度狭くなることがあります。また、長期的に高血圧が残る場合もあるため、降圧薬の使用や運動制限を含む生活管理にも注意を払うことが大切です。学校生活や社会復帰においては定期的な通院と、主治医と連携したケアが重要となります。

大動脈縮窄症になりやすい人・予防の方法

大動脈縮窄症は、胎児期の血流動態や遺伝的要素など複合的要因によって発生します。先天性心疾患の一種であるため、明確な予防策は確立されていませんが、以下の点が挙げられます。

  • 妊娠中の定期検診で胎児エコーを実施し、異常の早期発見を目指す
  • 出産後の下肢の血色や脈拍をこまめにチェック
  • 小児健診時に上下肢の血圧を測定し、異常があれば速やかに検査
  • ターナー症候群など、関連が指摘される疾患をもつ場合は特に注意

早期発見と治療により、長期予後の改善が期待される病気です。発育や運動機能など、成長過程でのサポート体制を整えながら定期的に医療機関を受診することが重要です。

関連する病気

参考文献

  • 山岸敬幸・他編:大動脈弓離断,大動脈縮窄.新 先天性心疾患を理解するための臨床心臓発生学.メジカルビュー社,214-215,2021
  • 日本循環器学会・他:先天性心疾患並びに小児期心疾患の診断検査と薬物療法ガイドライン(2018 年改訂版).2019
  • 日本循環器学会・他:2021 年改訂版 先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン.2021
  • 山岸敬幸・他:小児期発生心疾患実態調査 2020 集計結果報告書.日本小児循環器学会

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