監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
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無症候性心筋虚血の概要
無症候性心筋虚血は、胸の痛みや息切れなどの自覚症状がないものの、冠動脈が狭窄したり閉塞したりすることで、心臓に血液・酸素が十分に供給されない状態です。症状をきたすもので代表的な病気には狭心症と心筋梗塞があります。
無症候性心筋虚血は、高血圧や糖尿病などによって動脈硬化が進行し、冠動脈に十分な血流がいき渡らなくなり、心筋虚血が生じることで発症します。特に、高齢者や糖尿病の患者さんなどは、自律神経の機能が低下することによって痛みを感じづらい状況にあるため、心筋虚血が起こっても症状があらわれにくいです。若い人でも喫煙や運動不足などの生活習慣が原因で、無症候性心筋虚血を発生するリスクがあります。
心臓に酸素が不足している状態が続くと、長期間にわたり心臓の細胞がダメージを受けることになります。病状が進行すると、心筋梗塞によって深刻な症状があらわれる可能性があります。
ただし、無症候性心筋虚血は自覚症状がなく発見が遅れるケースも少なくありません。発見するためには、定期的な健康診断や心電図検査が重要です。
早期発見により適切な治療を受けられるため、心筋梗塞や心不全などの重大な合併症を予防できます。
無症候性心筋虚血の原因
無症候性心筋虚血の主な原因は動脈硬化で、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙などが進行するリスク要因になります。家族に心臓病の方がいる場合も無症候性心筋虚血のリスクを高めます。
動脈硬化によって血管の内壁にコレステロールが溜まって血液の流れが悪くなり、心臓に十分な血液がいき渡らなくなくなることで虚血状態が引き起こされます。冠動脈の攣縮(れんしゅく:異常に収縮すること)が原因になることもあります。
さらに、過度なストレスや睡眠不足、不健康な食事なども原因になることがあります。これらのリスクを減らすためには、バランスの良い食事を摂ったり、定期的に運動したりするなど健康的な生活習慣を維持することが大切です。
無症候性心筋虚血の前兆や初期症状について
一般的に心筋虚血が起こると、激しい胸の痛みや呼吸苦などの症状があらわれます。一方で、無症候性心筋虚血は、その名の通り自覚症状がないため、前兆が分かりにくいのが特徴です。
しかし、日常生活で疲れやすくなったり、少し動いただけでも息苦しさを感じたりするなど、わずかな違和感を覚えることもあります。
このような変化は加齢や疲労のせいだと考えられがちですが、見過ごさずに医師に相談することが大切です。無症候性心筋虚血は気づかない間に症状が悪化している可能性があるため、普段と異なる体調の変化を感じたら、なるべく早く検査を受けることが予防につながります。
無症候性心筋虚血の検査・診断
無症候性心筋虚血は問診や心電図検査、ホルター心電図検査(24時間連続で心電図を記録する検査)、運動負荷心電図検査(運動をしたときに心臓の状態を評価する検査)、心エコー検査などから、冠動脈に病気があるかどうかを判断します。
冠動脈に病気がある可能性が高いと考えられる場合は、詳細な評価として冠動脈CTもしくは心臓カテーテル検査(冠動脈造影)、心臓MRI、心筋シンチグラフィーなどの検査を追加します。
ただし、冠動脈CTでは造影剤を使う量が多くなるため、腎臓の機能が低下している方には選択することが難しいです。腎臓の機能が低下している方に対しては、冠動脈CTよりも少量の造影剤で検査できる心臓カテーテル検査をおこなうことがあります。
検査結果をもとに、無症候性心筋虚血と診断されたら医師と治療方針を決定します。
無症候性心筋虚血の治療
無症候性心筋虚血の主な治療は、薬物療法と手術です。治療をおこなう目的は、無症候性心筋虚血による突然死や心不全などを防ぐことで、患者さんの状態や希望などによって治療法が決まります。
薬物療法
無症候性心筋虚血が軽症の場合は、まずは薬物療法がおこなわれることが一般的です。
薬物療法では、血栓(血の塊)ができないようにするための「抗血小板薬」、心臓の酸素消費量を減らすことで負担を軽減させる「β遮断薬」、冠動脈を広げる「カルシウム拮抗薬」などを使います。
また、薬物療法と並行して、生活習慣の見直しが必要です。生活習慣を見直すことで、薬の効果がさらに高まることが期待できます。
手術
薬物療法をおこなっても検査結果が悪化したり、症状があらわれ始めたりした場合は、冠動脈の血流を改善するための手術が必要になることもあります。手術は主に「カテーテル治療(PCI」)と「冠動脈バイパス術(CABG)」があります。
カテーテル治療では手首や肘、足の付け根の動脈からカテーテルを挿入して、血管を広げるためのバルーン拡張術や、ステントと呼ばれる器具を使って血管の狭くなった部分を広げる手術がおこなわれることがあります。この手術は局所麻酔でおこなわれ身体への負担が比較的少なく、1時間前後の治療時間で済むことが多いのが特徴です。早期に日常生活に復帰できるメリットがあります。
冠動脈バイパス術では、自身の胸や胸などの動脈、もしくは足の静脈を使います。狭くなった冠動脈の先端を縫合し、新たな経路を作ることで血流がいき渡るようにします。この手術は全身麻酔下でおこなわれ、術後は一定期間の入院と経過観察が必要です。
いずれの治療後も、再発を防ぐために継続的な生活習慣の改善と定期的な検査が重要です。
無症候性心筋虚血になりやすい人・予防の方法
無症候性心筋虚血になりやすい人は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患を持つ方です。また、喫煙習慣や運動不足もリスクを高めます。
予防には、まず生活習慣を見直すことが重要です。バランスの取れた食事を心がけ、適度な運動をおこないます。特に、ウォーキングや軽いジョギングなど、日常的に無理なく続けられる運動が効果的です。
ただし、運動をおこなうことで体に負担がかかる可能性もあるため、特にさまざまな持病がある方は主治医に相談しながら進めることが重要です。定期的に健康診断を受けることで、早期発見と早期治療が可能になります。