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微小血管狭心症
豊島 大貴

監修医師
豊島 大貴(医師)

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昭和大学卒業。関東圏の総合病院で勤務。専門は循環器内科・一般内科。心筋梗塞、狭心症、心不全、弁膜症、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などの患者さんの診察をしている。
【資格】
日本心エコー図学会 SHD心エコー図認証医
【所属学会】
日本内科学会、日本循環器学会、日本心エコー図学会、日本超音波医学会、日本心血管インターベンション治療学会など

微小血管狭心症の概要

微小血管狭心症とは、心筋に血液を送る微小な血管(直径500μm以下)が十分に拡張しなかったり、過度に収縮したりすることにより、十分な血流を心臓に供給できない心筋虚血が一時的に生じる疾患です。
2018年に国際的な診断基準が提唱された、比較的新しい疾患概念です。

微小血管狭心症は、心臓の周囲にある太い冠動脈には狭窄や収縮がみられず、弁膜症や心筋症などの心臓の病気がまったくないにもかかわらず、胸の痛みとそれにともなう心筋虚血がみられるのが特徴です。胸痛は運動時だけでなく安静時にも生じ、10分以上持続することもあります。

微小血管狭心症は男性よりも女性に多く、とくに閉経前後の方に多く認められます。一般的な心臓の検査(心電図、血管造影検査など)で発見できないことも多く、診断がつきにくいこともあるため注意が必要です。

微小血管狭心症の治療には、カルシウム拮抗薬やβ遮断薬などが推奨されており、治療効果も高く、症状の改善が期待できます。心筋梗塞などに移行するケースは少ないとされているものの、症状が抑えられない場合は薬剤の追加が必要になることがあります。

微小血管狭心症

微小血管狭心症の原因

微小血管狭心症はまだ不明な点が多い疾患ですが、心筋に血流を送る微小な血管の器質的・機能的な異常が原因だと考えられています。

微小血管は直径500μm以下の小さな血管ですが、心筋の血流を調整するのに中心的な役割を担うことが明らかになっています。微小血管が過度に収縮すること(収縮性の亢進)や、血管の拡張が不十分でないこと(拡張不全)、微小血管の狭窄により血流の抵抗性が大きくなることなどが、単独あるいは組み合わさることによって、十分に心臓に血流を供給できない心筋虚血が生じます。

微小血管狭心症の前兆や初期症状について

微小管狭心症では、胸の痛み、息苦しさ、吐き気、胃痛などの消化器症状、背中の痛み、首・のど・耳の後ろの痛み、動悸などさまざまな症状がみられます。

胸痛は夜間や早朝の安静時のみに出現することもあれば、運動など身体を動かしているとき(労作時)に出現することもあり、持続時間は10分以上になることもあります。

微小血管狭心症の検査・診断

微小管狭心症は比較的新しい疾患概念で、2018年に国際的に統一された診断基準が提唱されました。この診断基準によると、心筋虚血による胸の痛みなどの症状があり、それが心電図などの検査で証明できること、心臓周囲の太い冠動脈には狭窄や収縮がみられず、弁膜症や心筋症などの心臓病がないことなどが診断要件となっています。

微小管狭心症は通常の狭心症とは異なり、冠動脈造影検査では明らかな異常が認められず、発作時の心電図の変化もあまりみられないため、診断が難しくなっています。

微小管狭心症を診断するための検査には、以下のような検査があります。しかし、診断のための検査が複雑かつ煩雑であることから、微小管狭心症を確定診断することなく治療を行うこともしばしばあります。

冠動脈造影検査

造影剤を用いて冠動脈に異常(狭窄、閉鎖)がないか確認する検査で、狭心症の診断に用いられます。微小管狭心症では、心臓周囲の太い冠動脈に異常はみられないことを確認するために行います。

冠攣縮誘発試験

薬物(アセチルコリン、エルゴノビン)を冠動脈内に注入し、冠動脈の攣縮(痙攣)を確認する検査です。冠動脈に明らかな異常がない場合に、冠動脈の攣縮による狭心症(冠攣縮性狭心症)を除外することを目的として行います。

冠血流予備能(CFR)の測定

安静時の血流に対し、最大でどの程度血流が増えるか冠血流が増加する能力を測定する検査です。微小血管狭心症では冠血流予備能(CFR)が低下しており、CFR<2であることが診断基準のひとつとなっています。

微小血管抵抗指数(IMR)の測定

微小血管の血流の抵抗を測定する検査です。冠血流予備能(CFR)が太い冠動脈も含めた全体の冠循環を反映するのに対し、微小血管抵抗指数(IMR)は冠微小血管の循環を反映するとされています。微小血管狭心症では、IMR>25であることが診断基準のひとつとなっています。

微小血管狭心症の治療

微小血管狭心症では、狭心症の治療に使用されるニトログリセリンは、半数の症例で効果が乏しいことが明らかになっています。国内において確立された微小血管狭心症の治療方法はありませんが、欧州心臓病学会のガイドラインに基づき、カルシウム拮抗薬やβ遮断薬を第一選択薬として使用することが推奨されています。

カルシウム拮抗薬には微小血管の過度な収縮(攣縮)を抑制する効果、β遮断薬には心拍数や心筋の収縮を抑制させる効果があります。
カルシウム拮抗薬やβ遮断薬を使用しても症状が抑えられない場合は、血管拡張作用のあるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などを追加することがあります。

また、生活習慣の改善が微小血管狭心症の治療における前提となります。
高血圧、脂質異常症、糖尿病などは、血管の内腔を覆う細胞群(血管内皮)に障害をきたす要因になるため、適度な運動や適切な食事、禁煙など生活習慣を改善することが重要です。

微小血管狭心症になりやすい人・予防の方法

微小血管狭心症は女性、とくに閉経前後の女性に多いことが報告されています。女性ホルモン(エストロゲン)との直接的な因果関係は明確になっていませんが、エストロゲンには血管弛緩作用など心血管の保護的作用があり、閉経前後のエストロゲンの減少が心疾患の発症に関連する可能性も指摘されています。

また、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、運動不足や喫煙習慣のある方は、微小血管狭心症の発症リスクが高まる可能性があります。先述の通り、これらは血管内皮に障害をきたす要因となることが知られています。

したがって、微小血管狭心症の予防には、禁煙、適度な運動、体重の管理、飲酒を控えることが推奨されます。定期的な健康診断で血圧や血糖値を管理し、生活習慣病の予防に努めることが重要です。


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