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大動脈弁閉鎖不全症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

大動脈弁閉鎖不全症の概要

大動脈弁閉鎖不全症は、心臓の大動脈弁が完全に閉じられなくなる病気です。通常、心臓が血液を送り出す際には大動脈弁が開き、送り出した後にはしっかりと閉じて血液が逆流しないようにしています。しかし、この閉鎖不全症では弁がうまく閉じないため、心臓から送り出された血液の一部が再び心臓に戻ってしまいます。この逆流が続くと、心臓は余計に働く必要があり、心臓に負担がかかります。初期段階では無症状の場合も多いですが、進行すると息切れや疲労感が出やすくなり、場合によっては胸の痛みや不整脈なども見られます。治療は病気の進行具合によって異なり、軽度の場合は経過観察が主ですが、重度の場合には手術や薬物療法が検討されます。 (参考文献1)

大動脈弁閉鎖不全症の原因

大動脈弁閉鎖不全症の原因は主に、大動脈弁輪 (大動脈弁が付着している部分の血管) が拡張することや、大動脈弁が石灰化して硬くなることなどにより大動脈弁が閉まりにくくなることです。

こうした大動脈弁輪や大動脈弁の形態の変化の原因の一つは加齢です。年をとるにつれて大動脈弁が徐々に硬くなり、弾力が失われたり、石灰化と呼ばれるカルシウムの沈着が進んだりすることで、弁の閉鎖が不完全になりやすくなります。 (参考文献2)

また、感染症も大動脈弁が傷つく原因の一つです。細菌が血流を通じて心臓に入り込む感染性心内膜炎や、A群溶血性レンサ球菌の感染後に関節炎や弁膜炎を起こすリウマチ熱などの結果として大動脈弁閉鎖不全症を引き起こすことがあります。リウマチ熱は特に子供や若者に多く見られます。 (参考文献3)

また、生まれつき大動脈弁が正常な形状でない「先天性」の場合があり、通常3つの弁があるべきところが2つだったり、形状が異常であることが最も多い原因です。弁自体に問題はなくとも、心室中隔欠損症などの先天性心疾患と合併することもあります。また、マルファン症候群など結合組織に異常がある場合や、ターナー症候群や骨形成異常症などの遺伝性疾患が原因となることもあります。弁の形状異常やマルファン症候群は、若年時には症状が出なくても、年齢を重ねるにつれて大動脈が拡張して逆流が生じやすくなることがあります。 (参考文献4)

大動脈弁閉鎖不全症は急激に発症することもあります。心内膜炎や大動脈解離、外傷などが原因となって生じる大動脈弁閉鎖不全症では、急な血圧低下や呼吸困難を呈することがあります。 (参考文献5)

大動脈弁閉鎖不全症の前兆や初期症状について

大動脈弁閉鎖不全症が生じていても心臓が逆流する血液量を補うように働くため、多くの人は症状を感じにくく、無症状のまま何十年も経過することもあります。しかし、逆流が進行し心臓に負担がかかるようになると、徐々に次のような症状が現れます。

まず、息切れが起こりやすくなります。また、胸の痛みなどの狭心症症状を呈することもあります。これは、冠動脈 (心臓に血流を送る血管) に血液が流れにくくなるため、心筋に負担がかかって痛みを生じます。特に、階段を上るなどの軽い運動や身体活動をした際に息苦しさや痛みを起こしやすくなります。

重症になると、足や腹部のむくみや夜間の息苦しさなどの心不全症状が現れることもあります。これは、心臓の機能が低下することで血液がうまく循環せず、体内に余分な水分が溜まりやすくなることが原因となります。横になると息苦しくなるため、夜寝る際に息苦しさで目が覚めるといったことも起きる可能性があります。 (参考文献2)

大動脈弁閉鎖不全症の検査・診断

まず、大動脈弁閉鎖不全症では、逆流する血液が原因で聴診器で胸の音を聞くと特有の心雑音が聞こえることが多く、これが診断の手がかりになります。そして診断のためには、心エコー検査 (超音波検査) が行われます。心エコー検査では、超音波を使ってリアルタイムで心臓の動きを映し出すことができ、大動脈弁がきちんと閉じていない状態や血液の逆流量を確認できます。この検査は、身体に負担が少ないため、広く行われています。心エコー検査で上手く評価できない場合には心血管系磁気共鳴画像 (CMR) という、心臓や血管の状態をMRIで観察することもあります。

また、逆流が心臓にどの程度の負担をかけているかを詳しく知るために心臓カテーテル検査を行う場合もあります。これは、細い管 (カテーテル) を血管を通して心臓に挿入し、血液の圧力や酸素の量を測定する方法です。心臓カテーテル検査は正確な血流の情報が得られるものの体にかかる負担が大きいため通常は行われず、他の検査で結論が出なかった場合に行われる可能性があります。

これらの検査結果を総合して、大動脈弁閉鎖不全症の重症度や治療方針が決定されます。 (参考文献2)

大動脈弁閉鎖不全症の治療

大動脈弁閉鎖不全症の治療は、軽度で症状がない場合には経過観察となり、定期的な検査で経過を見守り、悪化がないかを確認することが重要となります。

しかし、以下のような場合には、外科手術が強く推奨されます。

  • 症状がある場合
  • 症状がなくても、心臓の収縮機能 (LVEF) が50%以下に低下している場合

また、症状がなく心臓の収縮機能が保たれている場合でも、以下のような場合は外科手術が検討されます。

  • 心臓が収縮した時の左心室の直径(LVESD) が拡張している場合
  • 心臓が拡張した時の左心室の直径(LVEDD) が拡張している場合
  • 収縮した時に左心室内の容積が十分に小さくならない場合

手術では、損傷した大動脈弁を人工の弁に取り替える弁置換術や、逆流を防ぐために弁を修復する弁形成術があります。弁置換術では、人工弁として耐久性のある機械弁や、自然に近い動きをする生体弁が使用され、患者さんの年齢や健康状態に応じて弁の種類が選ばれます。

症状があったり心臓の収縮機能が落ちたりしているものの身体が手術に耐えられる状況ではない場合は薬物療法が行われます。薬物療法は主に心不全の治療と同じで、利尿薬や降圧剤の内服が中心となります。 (参考文献6, 7)

大動脈弁閉鎖不全症になりやすい人・予防の方法

大動脈弁閉鎖不全症になりやすい人

大動脈弁閉鎖不全症は、年齢と共に発症リスクが高まる病気で、軽度なものは70歳以上の約10% 、中等度以上のものは約2%に見られます。男女差は殆どありませんが、やや女性の方が多いと言われています。 (参考文献1)

予防の方法

予防方法としては、大動脈弁閉鎖不全症の原因の一つに感染症が挙げられることから、感染症予防は大動脈弁閉鎖不全症の予防にもつながるかもしれませんが、実際のところ効果的な予防方法はわかっていません


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