監修医師:
小鷹 悠二(おだかクリニック)
心筋症の概要
心筋症は心臓の筋肉に異常が生じて心筋の収縮力が弱くなる病気です。
血液を全身へ送るポンプの役割を果たせなくなり、心臓の機能を維持できなくなります。
心筋症は心筋自体の病変が原因で生じる特発性心筋症と、全身疾患の一部に心臓病変がある二次性心筋症に分類されます。
特発性心筋症には、主に拡張型心筋症や肥大型心筋症、拘束型心筋症、不整脈原性右室心筋症があります。
二次性心筋症は心サルコイドーシス(心臓に肉芽腫ができる病気)や心アミロイドーシス(心臓に異常なタンパク質が沈着する病気)が挙げられます。心筋梗塞により心筋に血液が不足することが原因となる虚血性心筋症も二次性心筋症の一種です。
上記疾患のうち不整脈原性右室心筋症と虚血性心筋症以外のすべてが指定難病に認定されています。
心筋症の原因
心筋症は心筋の機能低下を引き起こしますが、発症の原因は心筋症の種類によってさまざまです。
特発性心筋症
特発性心筋症の原因はいまだ不明な部分が多いものの、遺伝による影響が大きいことが特徴です。
拘束性心筋症では稀ですが、肥大型心筋症では患者の50-60%、拡張性心筋症では20~30%、不整脈原性右室心筋症では30~50%程度が遺伝により発症すると言われています。
また拡張性心筋症では、ウイルス感染をきっかけとする自己免疫や慢性的な炎症が原因として考えられています。
二次性心筋症
二次性心筋症の原因は、心筋症を引き起こした主病変によって大きく異なります。
心サルコイドーシスの原因は、現在もわかっていません。
遺伝による発症も全体の1.8%程度と低いことが報告されています。
心アミロイドーシスでは、アミロイドのもとになるタンパク質の種類で原因が異なります。
原因となるタンパク質にはトランスサイレチンや免疫グロブリン軽鎖などがあり、トランスサイレチンでは遺伝や加齢、免疫グロブリン軽鎖では骨髄形質細胞の異常が原因です。
そのほかアミロイドを引き起こすタンパク質の原因として、関節リウマチをはじめとした慢性的な炎症や、透析があります。
虚血性心筋症は、慢性的な血流不足によって引き起こされます。
心筋を栄養する冠動脈に慢性的な狭窄や閉塞している箇所があることが原因です。
心筋症の前兆や初期症状について
軽症の心筋症では無症状であることが多いです。
ただし、いずれの心筋症も進行すると心不全を引き起こし、胸痛や息切れ、呼吸困難、足のむくみなどの症状が現われます。
また心筋症では不整脈を合併する場合も多く、動悸や立ちくらみ、めまい、失神などの症状が現れることもあります。
心筋症の検査・診断
心筋症の診断では、心電図やエコー、MRI、心臓カテーテル検査などのさまざまな検査が行われます。
心電図検査では、心筋症の症状に当てはまる心電図の異常や不整脈の合併の有無が確認可能です。
症状によっては、ホルター心電図(24時間心電図波形を記録する心電図)を用いて、夜間に心臓の発作や危険な不整脈が発生していないかを確認します。
胸部のレントゲン検査は胸部にX線を照射して撮影する検査です。心臓の大きさや胸水、肺うっ血などの所見から、心不全の有無を確認します。
血液検査では、心臓への負担を確認するBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)や、心筋が受けているダメージの指標となるトロポニンの数値を確認します。
これらの採血データから心筋症や心不全の重症度が判別可能です。
エコー検査は超音波を活用して心臓の様子を観察する検査です。
確認できる項目は左室の大きさや収縮の程度、心臓のポンプ機能、血流の異常、そのほか心臓の弁膜症の有無です。
MRI検査は磁気を用いて心臓の状態を確認する検査であり、エコー検査と同様に心筋の動きを確認します。高画質な動画で撮影できるうえ、エコー検査では確認が難しい部位の肥大型心筋症
の病変の評価ができることが特徴です。
また撮影中に薬を投与することで、ダメージを受けている心筋の部位や範囲を把握し、虚血性心筋症と拡張性心筋症を診断できます。
拡張型心筋症DCMや肥大型心筋症、そのほかの二次性心筋症を見分けるためには心臓のカテーテル検査が必要です。
心臓カテーテル検査では、四肢の動脈からカテーテルを挿入し、血管が詰まっている箇所がないかを確認します。
直接心筋の一部を切り取り組織を調べる心筋生検や、心筋を栄養する冠動脈を撮影も同時に行うことでより詳しい診断が可能です。
心臓カテーテル検査は身体への負担の大きい検査であるため、事前に心筋の状態を確認するために、心臓を栄養する冠動脈をCTで撮影する場合があります。
そのほか心サルコイドーシスの診断では、PET検査が選択され、炎症の分布や病期の評価が可能です。
心筋症の治療
心筋症の治療は、特発性と二次性で大きく異なります。
特発性心筋症
特発性心筋症の治療では、薬物療法が第一選択です。
薬物療法では、心不全の進行を抑えるβ遮断薬や、血圧を下げて心臓の負担を軽くするACE阻害薬が使用されます
ただし、ACE阻害薬に副作用がある場合にはアンジオテンシン受容体阻害薬(ARB)の検討が必要です。
心不全の症状が強い場合には、フロセミドという利尿剤の服用により症状を改善します。
心筋症で不整脈を合併している場合には、不整脈の内容に応じてペースメーカーやICDという装置を体内に埋め込む手術を行います。
脈が遅くなる徐脈症状にはペースメーカー、心室細動や心室頻脈のような突然死を引き起こす致死性の不整脈がある場合には除細動機能がついているICDが必要です。
心臓の電気信号に異常がある場合は、CRT(心臓同期両方)の機能がある心臓ペースメーカが使用されます。
肥大型心筋症では、厚くなった心筋を減らすために経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)というカテーテル治療が行われる場合があります。
PTSMAでは心筋を意図的に壊死させることで症状の改善が期待できるでしょう。
拡張型心筋症では、左室を形成する外科的手術(バチスタ手術)や、重症の場合には心臓移植により治療を行う場合があります。
また、心臓弁膜症を合併した場合には、人工弁置換術が選択されます。
二次性心筋症
二次性心筋症では主な要因である病気の治療が重要です。
虚血性心筋症では、冠動脈形成術(PCI)や心臓のバイパス手術が行われます。
PCI:冠動脈形成術。手首や足の付け根から細い管を入れて心臓の血管を広げて金属で支える。
バイパス手術:詰まった血管を体の他の部分から採取した血管で縫い合わせる手術
心サルコイドーシスの場合は過剰な免疫応答を抑制するためにステロイドの内服を行うこともあります。
心アミロイドーシスでは、化学療法や自己末梢血幹細胞移植による治療が必要となります。
化学療法:抗がん剤を用いた治療。タンパク質の減少や沈着したアミロイドの減少効果がある。
自己末梢血管細胞移植:さまざまな細胞に分化する能力を持つ幹細胞を自己で採取し、化学療法後に体内に戻すことで骨髄を再生させる治療法
心筋症になりやすい人・予防の方法
拡張型心筋症は、遺伝子変異やウイルス感染、自己免疫の低下との因果関係があり、肥大型心筋症は遺伝の影響が大きいと報告されています。
このため自己免疫疾患を抱えている方は注意が必要です。
ウイルス感染を引き起こさないよう、感染対策やワクチンの摂取をおこないましょう。
また、急性心筋炎の炎症が長引くことで、拡張型心筋症に移行する可能性があるため、診断され症状がある場合は無理をせず体を休めることが大切です。
二次性心筋症を予防するためには、減塩や適度な飲酒、禁煙といった生活習慣の見直しをおこない、過度なストレスは避けましょう。