

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
心房細動の概要
心房細動は、臨床診療においてよく見られる不整脈の一つです。心房細動とは心房が適切に収縮せず細かく震えることで脈が不規則になる状態を指し、これによって動悸や息切れ、倦怠感などの症状が現れます。
年齢とともにその発症率は上昇し、高齢化が進む日本では心房細動の患者数は増加しています。
心房細動の重大なリスクの一つは、脳梗塞を引き起こす可能性があることです。心房細動により心房内の血液が滞留することで血栓が形成され、それが血流にのって脳の血管を詰まらせることで脳梗塞が発生します。
心房細動による脳梗塞は、一般的な動脈硬化による脳梗塞と比べて大きな血管が急に閉塞して重篤な症状を引き起こしやすく、場合によっては死に至ることもあります。
心房細動の原因
心房細動は、加齢・飲酒・喫煙・過労・睡眠不足・脱水・ストレスなどが主な原因です。さらに、心臓弁膜症・心筋症・狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患がある場合は、心臓に負担がかかり心房細動を併発するリスクが高まります。
甲状腺機能亢進症・高血圧・糖尿病・感染症などの疾患も不整脈の形成に関わる可能性があり、心房細動を引き起こすため注意が必要です。
これらの基礎疾患がなく、心房細動が発症する場合は孤立性心房細動と呼ばれます。
心房細動の原因・症状・検査方法・治療法・予防策などは以下のとおりです。
心房細動の前兆や初期症状について
心房細動の典型的な症状は動悸です。通常安静時の心拍数は50〜100回/分ですが、心房細動では心房(心臓の上の部屋)が400〜600回/分の速さで小刻みに震え、十分に機能しなくなる状態です。心房が小刻みに震えた結果、心拍数は最大180回/分程度まで上昇します。
これにより、胸の不快感・めまい・息切れ・倦怠感などが現れます。一方まったく自覚症状がなく、健康診断などで偶然見つかることもあります。
心房細動自体で致死的になることはまれですが、脳梗塞や心不全を招くことがあるので注意が必要です。早期に適切な治療を受けることで、症状を抑えるだけでなく、後々の生活の質を向上させることが期待できます。
症状があった場合、循環器内科を受診してください。
心房細動の検査・診断
心房細動の検出には、心電図検査が必要です。通常の心電図検査では、5秒から1分程度の心電図記録を行います。
持続性心房細動や永続性心房細動の場合はこの検査で診断がつくことがありますが、発作がまれにしか起こらない発作性心房細動の場合は、心電図記録時に心房細動が出ていなければ診断がつきません。
このような場合には、長時間記録可能な24時間ホルター心電図や、発作時に患者さんが自身で記録可能な携帯型心電計を使用して心房細動を検出します。
また、弁膜症・心筋症・心筋梗塞などの心臓疾患のチェックのためには心エコー検査や血液検査も必要です。甲状腺機能亢進のチェックを行うこともあります。
心房細動の治療
治療の選択肢は大きく2つに分けられます。
内科的治療の薬物療法やアブレーション治療です。いずれも循環器内科で治療が可能です。
薬物療法
心臓の電気活動を抑制する抗不整脈薬を使用し、心房細動を正常リズムに戻すか、正常リズムを保つために使うのが一般的な治療です。ベータ遮断薬やカルシウム拮抗薬は、心房細動の電気興奮が心室(ポンプ)に伝わる頻度を減らし、心房細動の脈拍数を低下させます。
また、抗凝固薬も使用することもあります。これは血栓の形成を抑制し、脳梗塞を予防するためです。従来使われているワルファリンは、ビタミンKの減少によって血栓形成を抑制しますが、ワルファリンの適切な量は個人によって異なります。
またほかの薬剤や食事内容にも影響されるため、量を調整するためには定期的に血液検査が必要です。ビタミンKを多く含む食品(納豆・青汁・クロレラなど)を摂取すると、薬の効果が低下しますが、2011年からはこのような食事制限の必要のない新しい作用機序の抗凝固薬も利用可能になりました
アブレーション治療
カテーテルで治療が可能です。心房細動の多くは、肺静脈からの異常な電気信号がきっかけとなり発生します。電極がついたカテーテルを脚の付け根の血管から挿入し、心臓のなかまで入れて左心房と肺静脈の境界を焼灼して、異常な電気信号が心臓内に入り込むのを防ぐことが目的です。この方法は肺静脈隔離術と呼ばれます。必要に応じて、そのほかの部位にも焼灼を加えることや、ペースメーカーと組み合わせて房室結節への焼灼を行うこともあります。
心房細動になりやすい人・予防の方法
心房細動は、加齢・飲酒・喫煙・過労・睡眠不足・脱水・ストレスのある人などによく見られます。さらに、心臓弁膜症・心筋症・狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患がある場合や、甲状腺機能亢進症・高血圧・糖尿病・感染症などもリスクがあります。
特に糖尿病の患者さんは症状が不明確で、胸痛ではなく胸の違和感や息苦しさといった曖昧な症状が出やすいため、注意が必要です。
食事内容の改善・運動不足の解消・喫煙や飲酒量の削減・ストレス軽減など、生活習慣の見直しが心房細動の予防に役立ちます。
食事の工夫
野菜や魚を中心とした食事は、動脈硬化の予防につながり、特にカリウムを豊富に含む野菜や果物を摂取することで高血圧の予防に効果的です。食事の量を腹八分目にすることで肥満や糖尿病のリスクを減らせます。具体的には以下のように食事を工夫するとよいです。
- 減塩する(1日6g以下)
- 低脂肪を心がける
- 糖質を控える
- 適正カロリーの摂取にする
- 肉の摂取を少な目に心がける
- 不飽和脂肪酸が豊富な青魚を食べる
- 野菜から食物繊維・ビタミン・ミネラルを補う
- アルコールやカフェイン摂取を適度にする
このような食生活を心がけることが、生活習慣病を防ぐことにつながります。
適度な運動習慣
生活習慣を改善するためには、適度な運動も取り入れることが大切です。 心房細動の病状により運動量や種類も異なるため、必ず医師と相談して運動を始めます。急激な運動や激しいスポーツは避け、軽いウォーキングやラジオ体操などから始め、徐々に運動量を増やしていくのがおすすめです。運動が苦手な人でも、少しずつ身体を動かすのを習慣にすることで、無理なく続けられます。日常生活のなかで、少しずつ身体を動かす習慣を身につけることもおすすめです。例えば、家事で意識的に身体を動かしたり、エスカレーターを使わずに階段を利用する習慣をつけます。 庭の草むしりやお風呂の掃除は、軽い体操と同等の運動効果が期待できます。
飲酒・喫煙を控える
飲酒については、個人によって摂取可能な量は異なりますが、健康を考える上で程々の量に抑える必要があります。お酒にはリラックス効果もあり、適度な飲酒は問題ありませんが、飲み過ぎには注意が必要です。一方、たばこについては禁煙が推奨されます。喫煙は動脈硬化だけでなく、肺・心臓・脳など全身に負担がかかります。受動喫煙も同様に健康へのリスクを高めるので、喫煙を控えるか、完全に止めることが重要です。
ストレスや睡眠の管理
心房細動のような心疾患を発症しやすいタイプの人は、仕事熱心・凡帳面・負けず嫌いなどの特徴があり、過度のストレスにさらされがちです。強いストレスがかかると、心臓の筋肉が一時的に血流不足となり、胸に痛みや圧迫感を生じます。趣味を持つ・気分転換をする・癒される時間を作る・十分な睡眠をとるといった、自分を労わる時間を作ることで健康な生活を続けてください。
参考文献




