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急性心不全
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

急性心不全の概要

心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしています。心臓の中に血液を充満させて、その血液を全身に送り出す働きです。何らかの原因で心臓がポンプとしての働きを果たせない状態を心不全と呼びます。
心不全は急性心不全慢性心不全に分かれます。急速に心臓のポンプとしての機能が果たせなくなった状態を急性心不全と呼び、慢性的にポンプとしての機能がうまくいかず、日常生活に支障をきたしている状態を慢性心不全と呼びます。本稿ではこの中の、急性心不全について記載します。

急性心不全の原因

心不全の原因疾患はさまざまですが、日本で多い原因疾患は、虚血性心疾患高血圧弁膜症です。虚血性心疾患は心臓に栄養を送る血管である冠動脈の流れが悪くなり心臓に栄養が送られなくなる疾患です。
心臓は4つの部屋に分かれており、部屋と部屋の間には逆流防止のための弁がついています。弁膜症はこの弁の不具合により、血液の流れが悪くなる疾患です。こうした原因疾患を背景に、肺炎などの感染症や食生活の乱れ(塩分の過剰摂取)などが引き金となって急性心不全を発症します。

急性心不全の前兆や初期症状について

急性心不全の症状は主にうっ血の症状と低心拍出量の症状に分かれます。うっ血とは血液の流れが悪くなり滞ってしまうことです。肺の血管の血液が滞る肺うっ血と全身の血管の血液が滞る体うっ血があります。肺うっ血があると疲れやすくなる、階段を上ると息が苦しくなる、起座呼吸(横になると息が苦しくて眠れないので座ってしまう)などの症状が出現します。体うっ血があると身体のむくみや体重増加を認めます。低心拍出量とは心臓から出てくる血液が少なくなることです。低心拍出量の症状として、疲労感、脱力感、乏尿(尿が少なくなる)、末梢冷感(手足が冷たくなる)などがあります。
急性心不全の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、循環器内科です。急性心不全は心臓の機能不全による緊急疾患であり、循環器内科での迅速な治療が必要です。

急性心不全の検査・診断

急性心不全の診断基準には明確なものは存在しません。急性心不全はある特定の検査のみで診断することは困難であり、複数の指標を用いて総合的な判断をしなければならないからです。具体的には、身体所見、バイタルサイン、血液検査、胸部X線検査(レントゲン検査)、心エコー検査などの検査から総合的に診断します。

身体所見とバイタルサイン

身体所見では胸の雑音や脚のむくみ、頸静脈の腫れなどが見られます。外来では身体所見の取得とともに、体温、血圧、脈拍、酸素飽和度などのバイタルサインを測定します。血圧は急性心不全の病態による分類(クリニカルシナリオ分類)に必要な項目です。急性心不全は収縮期血圧の高さによって、肺水腫全身的な体液貯留低心拍出・低灌流の3つのタイプに分かれます。急性心不全の病態は必ずしもこれらの中の一つのみに絞られるわけではなく、また、この3つに属さない特殊な病態もありますが、大まかな病態の把握には有用な分類です。

血液検査

血算、肝機能、腎機能、電解質などの一般的な検査に加えて、BNPNT-proBNP、トロポニンなどの心臓に特有の検査も行います。この中で心不全において重要なのはBNP、NT-proBNPです。診断、治療、予後の指標として重要ですが、これだけで心不全と診断したり、心不全を完全に除外したりすることはできません。

胸部X線写真(胸部レントゲン検査)

放射線によって心臓の大きさや肺への水の溜まり具合を見る検査です。左心不全により肺水腫や胸水貯留などの所見が見られることがあります。また、心不全になると心臓が大きくなることがあり、胸部X線検査を用いて大きさを確認します。

心電図検査

胸に電極をつけて、心臓の電気の流れを見る検査です。心不全の原因となる不整脈や急性冠症候群の診断に有用です。急性冠症候群では緊急心臓カテーテル検査の必要があり、重要な検査です。

心エコー検査

超音波によって、心臓の動きを調べる検査です。心臓の厚みや内腔の大きさ、左室収縮能、弁膜症の有無などがわかります。左室収縮能は、全身に血液を送り出している左心室がどのくらい収縮できるかを表した指標であり、心不全の治療方針や予後の推定に重要です。

心臓カテーテル検査

急性冠症候群(急性心筋梗塞や不安定狭心症など)を疑う場合は、緊急で心臓カテーテル検査(左心カテーテル検査)を行います。冠動脈と呼ばれる、心臓に栄養を送る血管に造影剤を流して血管に狭い部分がないかを見る検査です。病変があった場合はそのままカテーテルによる治療を行うこともあります。
また、心臓内の圧力を測るため、右心カテーテル検査を行うこともあります。

急性心不全の治療

急性心不全では急速に心原性ショック(急激な心臓のポンプ機能の低下により組織に必要な血流を保てなくなった状態)や心肺停止に移行する可能性があるため、まずは循環動態と呼吸状態の安定化を図ります。治療と並行して、基礎疾患の診断や特殊な病態の把握を行います。

薬物療法

病態によって細かい治療は変わりますが、利尿剤(ループ利尿薬、バソプレシンV2受容体拮抗薬)、血管拡張薬(硝酸薬、α型ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチド製剤)、強心薬を用います。全身的な体液貯留を認める場合は利尿剤を使います。身体の中に溜まっている水分を外に出すのが目的です。血管拡張薬は血管を広げることで、心臓から出る血液を出しやすくする治療です。強心薬は主に低心機能、低心拍出量の場合に使用します。心臓の動きを強くして、心臓から出る血液を増やす目的です。強心薬の長時間の使用はかえって予後を悪化させると言われており、使用はできるだけ短時間にする必要があります。
急性期を乗り切ったら、徐々に慢性心不全の治療に移行します。具体的には、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬などの薬を使います。

非薬物療法

酸素投与

肺うっ血があると身体の中の酸素飽和度が低下します。足りない酸素を補うために、酸素投与を行います。軽度の酸素飽和度の低下であれば、鼻や口の外からカヌラやマスクを用いて酸素を流します。それよりも重症度の高い心不全に対しては、非侵襲的陽圧換気や、気管挿管による人工呼吸管理を行います。

補助循環装置

血行動態を保てないような重篤な急性心不全に対して、大動脈バルーンポンプ(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)などの補助循環装置を用いることがあります。

手術療法

急性弁膜症(急性大動脈弁逆流症、急性僧帽弁閉鎖不全症)、急性心筋梗塞による機械的合併症(左室自由壁破裂、心室中隔穿孔、僧帽弁乳頭筋不全)などによる急性心不全の場合は、根本的な原因を治療しないと血行動態を保てない可能性があり、外科的な手術を行うことがあります。

急性心不全になりやすい人・予防の方法

高血圧や糖尿病、冠動脈疾患をお持ちの方は心不全になりやすく、それらの疾患の管理が心不全予防になります。肥満も心不全の発症と関連していると言われており、運動は心不全予防に有効です。喫煙は心血管疾患の危険因子です。アルコール摂取は少量なら大きな問題はありませんが、多量飲酒は心不全の発症リスクを増やします。
心不全と診断された方は、悪化予防のために減塩が重要です。過剰な水分摂取は心不全を悪化させるため、水分制限をすることがあります。また、感染症(とくに肺炎やインフルエンザなどの呼吸器感染症)は急性心不全発症の要因であり、インフルエンザや肺炎球菌に対するワクチンを接種することは心不全予防となります。

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