監修医師:
勝木 将人(医師)
目次 -INDEX-
脳動静脈奇形の概要
脳動静脈奇形は、脳のなかで動脈と静脈が異常な血管でつながる先天性の病気です。
血管がつながり合って塊(ナイダス)になり、一部の動脈や静脈、毛細血管が正常に発達せず、血管壁が弱い状態になります。
脳動静脈奇形が存在するだけでは症状が現れませんが、血管が突然やぶれて脳出血やくも膜下出血を起こしたり、脳の一部が虚血状態になることでてんかん発作が起こったりすることがあります。
脳動静脈奇形によって脳出血やくも膜下出血などの症状が現れるのは、20〜30代の男性に多く、50歳までに発症することが多いとされています。
脳出血やくも膜下出血が起こるのは年に1〜2%の割合だと言われており、初回出血による死亡率は約10%、再出血による死亡率は約13%です。
脳出血やくも膜下出血などが発症する前に、人間ドックなどの検査で初めて脳動静脈奇形が判明することもあります。
(出典:小児慢性特定疾病情報センター「36 脳動静脈奇形」)
脳動静脈奇形の存在がわかり、無症状で経過する場合は、血圧管理などの内科治療をしながら経過を見ていきます。
一度出血した場合は、手術や放射線治療などが適応され、単独もしくは組み合わせて治療します。
治療方針は、脳動静脈奇形の大きさや部位などの条件を考慮しながら決定します。
脳動静脈奇形の原因
脳動静脈奇形の原因は不明で、遺伝によって発症する病気でもありません。
胎児期の発達過程で脳の血管網が正常に形成されないまま出生することが、主な要因と考えられています。
血管の塊は出生後も残存し、徐々に拡大していきます。
脳動静脈奇形の前兆や初期症状について
脳動静脈奇形の多くは特別な症状は出現せず、画像検査で偶然発見されることも少なくありません。
症状が出現した場合は、激しい頭痛が生じることがあり、これは脳出血やくも膜下出血の前兆である可能性があります。
その他はてんかん発作やめまい、視覚障害、吐き気などが起こることもあります。
症状が現れた場合、早急に救急外来に受診することが重要です。
適切な処置を受けることで、命が助かるケースも多いですが、手足の麻痺や言語障害、四肢のしびれなどの後遺症が残る可能性もあります。
持続する頭痛などの症状がある場合は、脳神経外科で一度診察を受けることも大切です。
脳動静脈奇形の検査・診断
脳動静脈奇形の検査では、CT検査やMRI検査、脳血管撮影、脳血流シンチグラフィ、脳波の検査をおこないます。
それぞれの検査によって脳動静脈奇形の確定診断や、治療方針の決定を進めていきます。
CT検査・MRI検査
CT検査はX線を用いて脳の状態を即時に撮影し、出血の有無や範囲を確認する検査です。
MRI検査は強力な磁場と電波を使用して、脳の断面をより詳細に撮影します。
CT検査とMRI検査で、脳動静脈奇形の存在や大きさ、位置、周囲組織との関係を正確に把握します。
脳血管撮影
脳血管撮影は足の血管からカテーテルを挿入し、血管内に造影剤を流し入れて脳血管の状態を撮影する検査です。
X線で連続的に撮影することで、脳血管の詳細な構造を把握します。
脳動静脈奇形の大きさや場所、形、塊をつくっている動脈や静脈について詳しく確かめられます。
脳血管撮影は脳動静脈奇形の確定診断や、治療方針の決定に必要です。
まれに合併症が起こるリスクがあるため、経験のある専門医師によって慎重におこなわれます。
脳血流シンチグラフィ
脳血流シンチグラフィは放射線を放出する検査薬を注射し、脳に取り込まれた検査薬から放出される放射線をカメラで撮影して脳血流の状態を確かめる検査です。
脳動静脈奇形では、血管の塊や周りの脳組織の血流低下を確認できます。
脳出血やくも膜下出血、てんかん発作などの病態もより明確に把握できます。
脳波の検査
脳波の検査はてんかん発作の診断に必要で、頭部に電極を装着して脳の電気信号を測定します。
脳波を測定することで、てんかん発作の特徴や発生部位を特定することも可能です。
てんかん発作を繰り返す人は、発作が起きていないときでも特有の所見が見られることがあります。
脳動静脈奇形の治療
脳動静脈奇形の治療では、開頭摘出術や脳血管内塞栓術、ガンマナイフ治療をおこないます。
それぞれの治療は脳動静脈奇形の大きさや部位を考慮しながら選択され、併用する場合もあります。
出血するリスクが低い場合は、治療せずにしばらく経過観察するケースもあります。
開頭摘出術
開頭摘出術は全身麻酔下で頭部を切開して脳動静脈奇形を摘出する手術です。
顕微鏡を用いて血管の塊を周囲の正常脳組織から慎重に分離し、完全に摘出します。
根治可能な治療ではありますが、部位によっては神経症状が出現し、大きな危険性を伴う可能性があります。
脳血管内塞栓術
脳血管内塞栓術は、脳動静脈奇形に血液を送る動脈を閉塞させる手術です。
大腿動脈からカテーテルを挿入し、金属コイルなどの塞栓物質を動脈に流し入れて選択的に閉塞させます。
開頭摘出術と比べリスクの低い施術ですが、根治は難しく、ほかの治療法を併用するケースが多いです。
ガンマナイフ治療
ガンマナイフ治療は頭に専用のヘルメットを装着し、脳動静脈奇形に対して放射線を照射する非侵襲的な治療です。
脳内のどの部位に対しても治療できるため、手術のリスクが高いケースでも適応できます。
医療機関によっては外来で治療できることもあり、通常の日常生活にすぐ戻れる利点があります。
しかし、効果はゆっくり現れるため、完全に治癒するまで3年程度時間がかかったり、ほとんど反応が見られない場合もあります。
脳動静脈奇形になりやすい人・予防の方法
脳動静脈奇形になりやすい人や予防の方法はわかっていません。
しかし、脳動静脈奇形がみつかった場合は脳神経外科で定期的な検診を受け、脳出血やくも膜下出血などのリスクを減らすように努めましょう。
激しい頭痛や嘔吐、めまい、手足の麻痺、ろれつ不良、意識障害などの症状が現れた場合は、すぐに救急要請するか、救急外来に受診しましょう。