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視神経脊髄炎
田頭 秀悟

監修医師
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)

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鳥取大学医学部卒業。「たがしゅうオンラインクリニック」院長 。脳神経内科(認知症、パーキンソン病、ALSなどの神経難病)領域を専門としている。また、問診によって東洋医学的な病態を推察し、患者の状態に合わせた漢方薬をオンライン診療で選択する治療法も得意としている。日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会専門医。

視神経脊髄炎の概要

視神経脊髄炎(NMO)は、主に視神経と脊髄に炎症を引き起こす病気です。近年、従来の視神経脊髄炎の診断基準を満たさない視神経脊髄炎があることが分かり、総称として「視神経脊髄炎スペクトラム障害」と呼ぶこともあります。

元々「多発性硬化症(MS)」の一部と考えられていましたが、治療に対する効果が異なることなどから、現在では視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)は別の疾患であると捉えられています。

視神経脊髄炎の患者は、10万人中3~5人程度、日本では約6,500人の患者がいると推定されています。
(出典:日本神経学会「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン 2023」

男性よりも女性で発症しやすく、小児から高齢者まで幅広くみられ、好発年齢は30~50歳代とされています。
(出典:日本神経治療学会「標準的神経治療:視神経脊髄炎(NMD)

視神経脊髄炎は再発を繰り返しやすく、後遺症を増やしてしまう場合があるため、早期診断と治療、再発予防が非常に重要です。

視神経脊髄炎

視神経脊髄炎の原因

視神経脊髄炎の原因は、体の免疫システムが誤って自分の神経系を攻撃する自己免疫異常が有力な説です。多くのケースで「抗アクアポリン4抗体」と呼ばれる自己抗体が関わっていることがわかっています。

しかし、すべての患者が抗アクアポリン4抗体を持つわけではないため、遺伝的要因、環境的要因が影響している可能性が指摘されています。

また、視神経脊髄炎は他の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群)を合併しやすいうえ、視神経脊髄炎を発症した患者が自己免疫疾患をもっていたという報告があります。そのため、なんらかの自己免疫疾患をもつ患者は視神経脊髄炎を発症しやすいと考えられています。

視神経脊髄炎の前兆や初期症状について

視神経脊髄炎では、病変が起こった部位によって幅広い症状が生じます。たとえば、視神経が障害されると、視力低下や視野欠損などが起こります。場合によっては完全に視力がなくなる可能性もあります。
他にも、脳に障害が起これば、運動機能や感覚機能、認知機能の障害が起こる場合があります。

さらに、脊髄で障害が起こると、手足のしびれや痛み、筋力低下が現れます。症状は身体の両側に影響がおよび、両腕や両脚が重く感じたり、動かしづらくなったりすることがあります。
初期の段階では感覚の鈍さや軽度の運動障害が現れることが多いですが、進行すると歩行困難や麻痺に至ることもあります。

視神経脊髄炎の検査・診断

視神経脊髄炎では、2006年にWingerchukらによって発表された診断基準が広く用いられています。視神経炎、急性脊髄炎に加え、以下のうち2つ以上を満たしている場合に、視神経脊髄炎と診断されます。

  • 背骨で3カ所以上連続して病変が確認できる
  • 抗アクアポリン4抗体が陽性である
  • 脳のMRIでPatyの基準を満たしていない
  • ※Paty基準は、4個以上の病変または3個の病変がありそのうち1個は脳室周囲にあること。
    (出典:難病情報センター「13 多発性硬化症/視神経脊髄炎」

ただし、抗アクアポリン4抗体が陽性のケースでは、視神経炎と急性脊髄炎のどちらかだけのケースもあります。

上記の診断基準を満たしているかどうかを確認するために、下記の検査を行います。

画像検査

MRIにて、脊髄や視神経の炎症や損傷、脳の病変数を確認します。また、脳のMRIで同心円状(弓道の的のような1つの中心を共有する2つ以上の円のこと)が見られる「Baló 病(バロー同心円硬化症)」との鑑別が行われます。

血液検査

抗アクアポリン4抗体の有無を調べることで、視神経脊髄炎の可能性があるかを確認します。抗体が陽性であれば視神経脊髄炎の診断が強く疑われます。ただし、抗体が陰性の場合でも他の自己免疫疾患や炎症性疾患である可能性があるため、必要に応じて追加の検査が行われることがあります。

視神経脊髄炎の治療

視神経脊髄炎の治療は、主に免疫の異常な反応を抑えることを目的としています。早期に適切な治療を行うことで、視力や運動機能の回復や症状の進行を防ぐことができます。以下に代表的な治療法を紹介します。

視神経脊髄炎は再発しやすい病気であるため、治療後も定期的な経過観察と、適切な治療の継続が重要です。早期の治療が視力や運動機能の維持に大きな影響を与えるため、症状が現れた際は速やかに医療機関を受診することが大切です。

ステロイドパルス療法

高用量のステロイドを点滴で投与するステロイドパルス療法は、炎症を強力に抑える作用があり、急性期の症状を抑えるために実施されます。症状が落ち着いた後も、飲み薬の形でステロイドを少量ずつ継続して使用することが一般的です。

血漿交換療法

視神経脊髄炎の急性期において、ステロイドパルス療法の効果が乏しい場合に血漿交換療法が行われることがあります。血漿交換療法は、血液中の有害な物質を取り除くことで、免疫反応を抑えることを目的にして行われます。

免疫抑制薬

免疫が自分の神経を攻撃するのを防ぐために、免疫抑制薬が使われます。免疫抑制薬は、長期的かつ再発予防治療として効果が期待できます。免疫抑制薬のなかでも、アザチオプリンやリツキシマブ、ミコフェノール酸モフェチルなどの薬が使われることが多いです。

再発予防としての薬物療法

視神経脊髄炎は再発を繰り返しやすい病気のため、再発予防としての治療も重要です。急性期には、ステロイドパルス療法が一般的に用いられた後、ステロイドの一種である「プレドニゾロン」を飲み薬として服用します。1~5錠の服用が推奨されており、再発から半年間内であれば3錠以上が推奨されています。
(出典:日本神経治療学会「標準的神経治療:視神経脊髄炎(NMD)

プレドニゾロンでの再発予防が難しい場合や副作用が懸念されるケースでは、免疫抑制薬を併用します。免疫抑制薬のなかでも、イムランと呼ばれる薬剤がよく使われます。ただし、免疫抑制薬の効果が出るまでには時間がかかります。

視神経脊髄炎になりやすい人・予防の方法

先述のとおり、視神経脊髄炎は男性よりも女性の方が発症しやすい傾向があります。加えて、他の自己免疫疾患を持つ人や、家族に自己免疫疾患の既往歴がある人も発症リスクが高いとされています。
また、年齢に関しては30~50歳代に好発しますが、それ以外の年齢でも発症することがあります。

自己免疫疾患のため確立された予防方法はありませんが、早期発見・早期治療にて症状の進行を抑えることができます。
そのため、視神経脊髄炎が疑われる自覚症状があらわれた場合には、早めに医療機関を受診することが重要です。


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