目次 -INDEX-

失語症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

失語症の概要

失語症は、脳の言語中枢に損傷を受けることで発症する言語障害です。主に脳卒中や頭部外傷、脳腫瘍などが原因となります。患者さんは、話す、聞く、読む、書くなどの言語機能の一部または全部に障害が現れます。失語症にはさまざまなタイプがあり、具体的には以下の通りです。

  • ブローカ失語 運動性失語とも呼ばれ、言葉の理解は出来ますが、話すことが困難になります。
  • ウェルニッケ失語 感覚性失語とも呼ばれ、自分から話すことはできますが他人の話を理解することが難しくなります。
  • 全失語 最も重度で、言語機能のほぼ全てが障害されます。
  • 伝導失語 聞いた言葉を繰り返すことが困難になります。

症状の程度は個人差が大きく、軽度から重度までさまざまです。治療は言語聴覚士による言語療法が中心となり、失われた機能の回復や代償的な方法の獲得を目指します。 失語症は患者さんの日常生活や社会生活に大きな影響を与えるため、家族や周囲の理解と支援が重要です。コミュニケーション方法の工夫や、環境調整なども効果的です。

失語症の原因

失語症の主な原因は、脳の言語中枢に影響を与えるさまざまな脳障害です。具体的には以下のようなものが挙げられます。

  • 脳卒中 一般的な原因で脳梗塞(虚血性脳卒中)や脳出血(出血性脳卒中)により、言語中枢の血流が遮断されたり、圧迫されたりすることで発症します。
  • 頭部外傷 交通事故や転落事故などによる脳への直接的な衝撃で、言語中枢が損傷を受けることがあります。
  • 脳腫瘍 良性・悪性を問わず、腫瘍が言語中枢を圧迫したり、浸潤したりすることで失語症を引き起こす可能性があります。
  • 神経変性疾患 アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの進行性疾患によって、言語機能が徐々に失われることがあります。
  • 感染症 脳炎や髄膜炎などの中枢神経系の感染症が、言語中枢に影響を与えることがあります。
  • 代謝性疾患 肝性脳症や低血糖症など、代謝異常が脳機能全体に影響を与え、結果として言語機能にも障害が生じることがあります。
  • てんかん 特に言語中枢付近に焦点を持つてんかん発作が、一時的または持続的な言語障害を引き起こす可能性があります。
  • 脱髄疾患 多発性硬化症などの脱髄疾患が、言語中枢を含む脳の広範囲に影響を与えることがあります。

これらの原因により、ブローカ野やウェルニッケ野といった言語中枢、またはそれらを結ぶ神経回路が損傷を受けると、失語症が発症します。原因によって発症のパターンや予後が異なるため、正確な診断が重要です。

失語症の前兆や初期症状について

失語症の初期症状は、脳の言語中枢の損傷部位や程度により多様ですが、主に以下のような特徴が見られます。

語想起障害

症状のひとつに言葉の想起に関する問題が挙げられます。適切な単語が思い出せない、特に名詞や動詞の想起が困難になる、文章を組み立てるのに時間がかかるなどの症状が現れます。また、言葉がスムーズに出てこない、音の置き換えや省略が起こるといった発話の問題も生じます。

単語理解障害

言語理解の障害もあります。会話の内容を把握するのに時間がかかる、複雑な指示や説明が理解できない、冗談や比喩表現の意味が分からなくなるなどの症状が見られます。 また、読み書きの能力にも影響が出ます。文字を読むのに時間がかかる、または読めない、書こうとしても文字が思い出せない、文法的な誤りが増えるなどの問題が生じます。数字の扱いも困難になることがあり、計算や電話番号、日付の扱いに支障をきたす場合があります。

これらの症状により、コミュニケーションの困難さからくるストレスや焦り、社会的場面を避ける傾向なども初期症状として現れることがあります。症状は突然現れることもあれば徐々に進行することもあり、早期発見と適切な対応が重要です。 失語症が疑われる場合は、脳神経外科、神経内科、あるいは総合病院の救急外来を受診するのが望ましいです。

失語症の検査・診断

失語症の検査は、言語機能の障害を評価し、その種類と程度を特定するために行われます。以下に、具体的な検査方法をいくつか紹介します。

  • 言語理解の評価 患者さんが指示に従って行動できるか、文章を読んで理解できるかを確認します。例えば、「ペンを取ってください」や「この文章を声に出して読んでください」といった指示を出します。
  • 発話の評価 自発的な会話能力を評価します。例えば、患者さんに「あなたの名前は何ですか?」や「昨日の出来事を話してください」と尋ね、流暢さ、文法の正確さ、語彙の適切さを観察します。
  • 復唱能力の評価 短いフレーズや文章を復唱できるかを確認します。例えば、「今日は晴れです」や「私は医者です」といった簡単な文を復唱してもらいます。
  • 命名の評価 画像や物体を見せて、それらの名前を言えるかを確認します。例えば、ペンや時計の画像を見せ、「これは何ですか?」と尋ねます。
  • 読字・書字の評価 患者さんが文字を読んだり書いたりできるかを確認します。例えば、簡単な文章を読んでもらったり、指定された言葉を書いてもらったりします。
  • 音韻処理の評価 音韻意識を評価します。例えば、音の同定、音の追加・削除、韻を踏む言葉を見つけるなどの課題を通じて行います。
  • 視空間認知の評価 失語症の種類によっては、視覚的な空間認知にも影響が出る場合があります。図形を模写するなどの課題で評価します。

これらの検査を実施し、総合的な評価に基づいて失語症の種類(例:ブローカ失語、ウェルニッケ失語など)やその重症度が診断され、適切な治療計画が立てられます。検査の結果は、患者さんの治療とリハビリテーションの重要な指針となります。

失語症の治療

失語症の治療は、患者さんの言語能力を回復または改善するために行われます。治療は、失語症の原因や重症度、患者さんの個別のニーズに応じて異なりますが、以下に主要な治療法を具体的に紹介します。

言語療法

言語療法士による個別指導が主な治療法です。治療は以下の要素を含みます。

  • 発話練習:患者さんが言葉を発音し、正確な発話を練習する
  • 語彙訓練:言葉を思い出し、正しい言葉を選ぶ訓練
  • 文法練習:正しい文法で文章を作成し、発話する練習
  • 読字・書字訓練:文字を読んだり書いたりする能力を回復するための練習

グループ療法

ほかの失語症患者さんと一緒に言語練習を行うことで、社交的なスキルやコミュニケーション能力を向上させます。グループ療法は、ほかの患者さんからの励ましや支援を得る場としても機能します。

テクノロジーの活用

コンピュータソフトウェアやアプリを使用して、発話、理解、読字、書字の練習を行います。これにより、治療の多様性とアクセス性が向上します。

コミュニケーション支援技術

絵カード、通信ボード、電子デバイスなどの補助具を使用して、言語能力が制限されている患者さんがコミュニケーションを図る手助けをします。

家族の関与

家族が治療に参加し、患者さんの日常生活でのコミュニケーションを支援することが重要です。家族は、患者さんがストレスを感じずにコミュニケーションできる環境を整える役割を果たします。

薬物療法

脳卒中や脳損傷が原因である場合、神経伝達物質のバランスを調整する薬物が使用されることがあります。しかし、薬物療法は言語療法と併用されることが一般的です。

心理サポート

失語症は心理的にも影響を与えるため、心理カウンセリングや精神的サポートも重要です。患者さんが自尊心を取り戻し、社会復帰を果たすための支援が行われます。

失語症の治療は長期的な取り組みであり、患者さんとその家族の忍耐と協力が求められます。個々の患者さんに合わせた包括的な治療計画が成功の鍵となります。

失語症になりやすい人・予防の方法

失語症になりやすい人

失語症は、脳の言語を司る領域に損傷を受けた結果として発生するため、以下の条件やリスク要因を持つ人々が失語症になりやすいとされています。

  • 脳卒中を経験した人 失語症の最も一般的な原因は脳卒中です。特に、左半球の言語中枢(ブローカ野やウェルニッケ野)に影響を与える脳卒中は、失語症を引き起こすリスクが高いです。
  • 脳外傷を受けた人 交通事故、転倒、スポーツ事故などによる頭部外傷は、脳の言語中枢に損傷を与え、失語症を引き起こすことがあります。
  • 脳腫瘍を持つ人 脳腫瘍が言語中枢に発生するか、その近くに位置する場合、腫瘍の圧迫や拡大により言語機能が障害されることがあります。
  • 感染症や炎症性疾患を持つ人 脳炎や髄膜炎などの感染症や多発性硬化症などの炎症性疾患は、脳の特定部位に損傷を与え、失語症を引き起こすことがあります。
  • 一部の神経変性疾患を持つ人 アルツハイマー病やピック病などの認知症は、進行するにつれて言語能力に影響を及ぼし、失語症を伴うことがあります。
  • 既往歴や家族歴がある人 脳卒中や脳疾患の家族歴がある人、過去に軽度の脳卒中を経験した人は、再発のリスクが高くなり、結果として失語症を発症する可能性が高まります。
  • 生活習慣病を持つ人 高血圧、糖尿病、高コレステロールなどの生活習慣病は、脳卒中のリスクを高め、それに伴って失語症のリスクも増加します。

これらの要因を持つ人々は、失語症のリスクが高いため、定期的な健康チェックや生活習慣の改善が重要です。また、早期発見と早期治療が、失語症の予防と管理において重要な役割を果たします。

失語症の予防方法

失語症の予防は、主にその主要な原因である脳卒中や頭部外傷を予防することに焦点を当てます。以下に具体的な予防方法を説明します。

  • 健康的な生活習慣の維持 適切な食事 バランスの取れた食事を摂り、特に果物、野菜、全粒穀物、魚などの摂取を増やし、飽和脂肪やトランス脂肪を避けることが重要です。 定期的な運動 週に少なくとも150分の中程度の有酸素運動や75分の激しい有酸素運動を行うことが推奨されます。 禁煙 喫煙は脳卒中のリスクを高めるため、禁煙が重要です。 アルコールの節度 過度な飲酒は脳卒中のリスクを増加させるため、適度な飲酒を心がけます。
  • 定期的な健康チェック 血圧の管理 高血圧は脳卒中の主なリスク要因の一つです。定期的な血圧測定と、必要に応じた医療管理が重要です。 糖尿病の管理 糖尿病も脳卒中のリスクを高めるため、血糖値の管理と適切な治療が必要です。 コレステロールの管理 高コレステロールは動脈硬化を引き起こし、脳卒中のリスクを増加させます。定期的な血液検査と必要な治療が推奨されます。
  • 頭部外傷の予防 安全対策 交通事故や転倒のリスクを減らすため、適切な安全装備(シートベルト、ヘルメットなど)の使用を徹底します。 家庭内の安全対策 家庭内での転倒防止策を講じることも重要です。特に高齢者の場合、手すりの設置や滑りにくい床材の使用が推奨されます。
  • ストレス管理 リラクゼーション技術 瞑想、ヨガ、深呼吸などのリラクゼーション技術を取り入れて、ストレスを軽減します。 十分な睡眠 良質な睡眠は脳の健康に重要です。規則正しい睡眠習慣を維持することが推奨されます。
  • 早期の医療介入 前兆の認識 脳卒中の前兆(顔の片側の麻痺、言葉の困難、突然の視力喪失など)を認識し、迅速に医療機関を受診することが重要です。

これらの対策を講じることで、失語症のリスクを減少させることが可能です。

関連する病気

この記事の監修医師