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消化器がん
長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

消化器がんの概要

消化器がんとは、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、胆道(胆のうや胆管)、膵臓など、消化器系の臓器に発生する悪性腫瘍の総称です。これらを総合すると、日本人のがんによる死亡者数の約半数を占めています。 これらのがんは早期発見・早期治療が重要ですが、初期症状が少なく、進行してから発見されることも少なくありません。しかし、近年の医療技術の進歩により、内視鏡検査や画像診断の精度が向上し、早期発見の機会が増えています。 また、食生活の改善や禁煙・節酒といった生活習慣の見直しにより、リスクを軽減することが可能です。

消化器がんの原因

消化器がんの発生には、遺伝的要因と生活習慣などの環境要因が関与しています。具体的な原因は、がんの種類によって異なります。

食道がん

日本における食道がんの多くは扁平上皮がんであり、主な原因は喫煙飲酒です。 アルコールによる発がんリスクは、アルコール代謝に関わるアセトアルデヒド脱水素酵素やアルコール脱水素酵素の遺伝子によって異なります。少量の飲酒で顔が赤くなる、いわゆる『フラッシャー』の方は、飲酒による食道がんや咽頭がん、喉頭がんのリスクも高まります。 逆流性食道炎が長期間続いたことによる『バレット食道』から発生する食道の腺がんは、日本においては扁平上皮がんよりは頻度が少ないですが、喫煙だけでなく肥満や食道裂肛ヘルニアなど、胃酸逆流につながる異常が原因となります。

胃がん

胃がんの原因として多いのは、ヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染です。ピロリ菌は幼少期に飲食物などから胃の中に感染し、長期間胃の粘膜に炎症を起こすことで胃がんを発生させます。 そのほか、喫煙、飲酒、肥満、塩分、加工肉などが胃がんのリスクと考えられています。

大腸がん(結腸・直腸がん)

大腸がんの多くは、良性の大腸腺腫(大腸ポリープ)にさまざまな遺伝子異常が加わることで悪性化したものです。大腸がんのリスクとして、喫煙、飲酒、肥満、脂肪や肉類の摂取などが挙げられています。 特殊なものでは、家族性大腸ポリポーシスやリンチ症候群といった遺伝的疾患、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性疾患も、大腸がんの原因となります。

肝臓がん

肝臓がんの原因は、以前はB型肝炎やC型肝炎といったウイルス性慢性肝炎および肝硬変が主でしたが、近年では治療の進歩によりこれらのウイルス性肝疾患は減少しています。その代わり、アルコール、または肥満などアルコール以外が原因の脂肪肝から、肝硬変や肝臓がんを発症する方の割合が増加しています。

胆道がん

胆道がんは、その部位によって管内胆管がん、肝外胆管がん、胆のうがん、乳頭部がんに分類されます。 胆道がんの原因として、胆石による慢性胆のう炎や、原発性硬化性胆管炎、先天性胆道拡張症、膵胆管合流異常など、胆道に長期間炎症が加わることが考えられています。また、印刷工場などで使われる特定の化学物質に曝露されている方で、胆道がんの発生が多いことが分かっています。

膵臓がん

膵臓がんのリスクとして、糖尿病、肥満、喫煙、飲酒、アルコールによる慢性膵炎、膵癌の家族歴などが挙げられます。また、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)という病気も膵臓がんのリスクといわれており、健診などで偶然IPMNが見つかった方は、定期的な検査がすすめられます。

消化器がんの前兆や初期症状について

消化器がんの初期症状は軽微なものが多く、自覚しにくいことが特徴です。以下のような症状や検査異常がある場合は、早めに消化器内科を受診することがすすめられます。

食道がん 食べ物がつかえる感じ、嚥下困難、胸の痛み 胃がん 胃のもたれ、食欲不振、体重減少 大腸がん 血便、便秘や下痢の繰り返し、腹痛 肝臓がん 倦怠感、黄疸、右上腹部の違和感 胆道がん 黄疸、発熱、腹痛 膵臓がん 腹痛、背中の痛み、糖尿病の悪化

消化器がんの検査・診断

消化器がんの診断には、以下のような検査が用いられます。

1. 内視鏡検査

消化管のがんを発見したり評価するために行われ、必要に応じて組織を採取(生検)し、確定診断を行います。胆道や膵臓についても、超音波内視鏡(EUS)内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)といわれる検査で評価することが可能です。

2. その他の画像検査

CTやMRI、PET検査、超音波検査などにより、がんの進行度や転移の有無を評価します。

3. 血液検査・腫瘍マーカー検査

貧血や黄疸などの血液検査異常が、がんの診断のきっかけになる場合があります。また血液中の腫瘍マーカー(CEA、CA19-9など)を測定し、がんの進行度や治療効果を評価します。

消化器がんの治療

消化器がんの治療は、がんの種類や進行度によって異なります。

1. 手術療法

消化管の早期がんは内視鏡的切除が可能な場合がありますが、進行がんでは外科的手術により腫瘍を切除する必要があります。ただし、手術の適応になる条件は臓器によって異なります。

2. 化学療法(抗がん剤治療)

手術が困難な場合には、余命延長や症状緩和を目的として化学療法(抗がん剤治療)が選択されます。また術前にがんを縮小させる目的や、術後の再発予防目的にも、抗がん剤治療が行われる場合があります。 近年では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といったように、がんの遺伝的な特徴をターゲットにした治療薬も多く用いられるようになっています。

3. 放射線療法

特に食道がんや肝臓がん、直腸がんなどで手術が難しい場合に用いられることがあります。化学療法と組み合わせて放射線療法を行う場合や、その治療効果によっては手術が可能となる場合もあります。

消化器がんになりやすい人・予防の方法

これまで述べたように、消化器がんの多くで喫煙、飲酒、食生活、またこれらの生活習慣による肥満、糖尿病、肝硬変などが原因と考えられています。また、一部の遺伝的要因が強い病気を有している方は、特定のがんの発生率が高まります。

消化器がんを予防するためには、まずは喫煙や過度な飲酒をしないこと、脂質や動物性たんぱく質、塩分、加工食品などを摂りすぎないこと、食物繊維など腸内環境を改善させるものを多く摂取すること、肥満にならないことなどが挙げられます。 消化器がんのうち、消化管のがんの多くは内視鏡検査で診断可能で、早期発見できれば内視鏡での治療が可能になるため、症状がなくても内視鏡(胃カメラや大腸カメラ)の検診を受けることがすすめられます。 また、すでに何らかの生活習慣病や遺伝的要因のある病気を有している方は、かかりつけ医や必要に応じて医師と相談のうえ、定期的な検査を受けることが重要です。

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