監修医師:
山本 佳奈(ナビタスクリニック)
目次 -INDEX-
VREの概要
VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)は、バンコマイシンと呼ばれる抗生物質に対する耐性を獲得した腸球菌の一種です。VREによって発症する感染症をVRE感染症と言い、現在は(2024年11月時点)感染症法上の5類に指定されています。
腸球菌は、人の腸内に自然に存在している常在菌で、通常は病気の原因になることはありません。しかし、免疫力が低下している人や手術を受けた後の人においては、感染症の原因となることがあります。
VRE感染症は、基礎疾患をもつ患者や免疫力が低下している患者に感染するケースが多いことから、治療が困難になる場合があります。そのため最も重要なのは、感染者(保菌者)から感染を拡大させないように対策することです。
VREは症状が進行すると全身に感染が広がり、多数の臓器に悪影響をおよぼす「敗血症」を引き起こす可能性もあるため、早期発見と治療が鍵となります。
VREの原因
VREが発生する主な原因は、長期的な抗生物質使用と感染管理が不十分な医療機関内での感染です。
抗生物質の長期使用
広範囲の細菌に対して作用する抗生物質を長期間にわたって使用すると、腸球菌が抗生物質に対して耐性を獲得することがあります。
なかでも抗生物質である「バンコマイシン」は、他の抗生物質が効かない感染症の治療によく使用されます。とくに医療機関では使う頻度が高いため、腸球菌が耐性を獲得し、VREとなるリスクが高まります。
医療機関内での感染拡大
VREは医療機関内で感染が拡大するケースが多くなっています。VREを保菌する人が触った物や医療器具を介して、患者に広がります。とくに、医療従事者が患者と接触した後、適切に手洗いや消毒などの感染対策を行わなかったことでVREに感染するケースが報告されています。
手術室や集中治療室など、免疫力が落ちている患者がいる場所では、徹底した感染対策が必要となります。
自己感染
自己感染は、患者自身の腸内で発生するVRE感染です。通常、健康な腸内ではさまざまな細菌が均衡を保って存在します。しかし、免疫力が低下している状態でバンコマイシンによる治療を受けると、均衡が崩れ、VREへと変貌する可能性があります。
VREの前兆や初期症状について
VREを保菌していても無症状のケースが多いです。しかし、VREによって感染症を引き起こすと、その感染症に応じてさまざまな症状があらわれます。
尿路感染症
尿路感染症はVRE感染症のなかでも比較的よく見られるものです。排尿時の痛みや頻尿、尿のにごり、悪臭などの症状があらわれます。
軽症のうちは尿路のみの感染にとどまりますが、進行すると腎臓にまで感染が広がる場合があります。
腎臓まで感染が広がると、腎盂腎炎という深刻な状態になる可能性があります。腎盂腎炎になると、高熱や腰痛、吐き気などの症状があらわれ、さらなる進行で敗血症にいたることがあります。
敗血症
敗血症では、高熱、悪寒、血圧低下、全身の倦怠感などの症状があらわれます。血液中に菌が侵入することで発症することが多いです。全身の臓器に重大な影響を及ぼすことがあるため、迅速な治療が求められます。
とくに免疫力が低下していると、急速に状態が悪化する可能性があり、生命の危険に直結する恐れがあります。
創傷感染症
創傷感染症は、手術部位や褥瘡(床ずれ)部分にVREが感染することで発症します。感染部位に腫れや赤みが生じ、痛みをともなうようになります。
進行すると、膿が出ることもあります。感染が広がると傷の治癒が遅れ、周りの組織に感染が広がる可能性があるため、他の感染症による症状と同様に、迅速な対応が求められます。
VREの検査・診断
VRE感染症の診断は、複数の検査方法を組み合わせて行われます。
薬剤感受性試験
薬剤感受性試験は、細菌が特定の抗生物質にどの程度反応するかを調べる検査です。VREの場合は、腸球菌がバンコマイシンに耐性を持っているかを確認するために、薬剤感受性試験が行われます。
PCR検査
PCR検査は、細菌がバンコマイシンに耐性を持つ遺伝子があるかどうかを調べる検査です。細菌が持っている遺伝子を短時間で調べられるため、迅速な診断が可能です。PCR検査は、従来の細菌培養検査よりも結果が早く出るため、治療を早めることができ、感染拡大を防ぐのにも役立ちます。
スクリーニング検査
医療機関内にて、一人でもVREの保菌者が確認された場合は、すべての患者に対してスクリーニング検査を行うことが望ましいとされています。ここで言うスクリーニング検査は、VREによる症状がない人に対してVREの保菌者を見つけるための検査です。
スクリーニング検査で早期にVRE感染者を見つけることができれば、感染拡大を防ぐことができます。
VREの治療
VREの治療は、バンコマイシンが効かないため、他の耐性を持たない抗生物質を中心に、治療を行います。
抗生物質
VREはバンコマイシンに耐性を持っているため、治療には他の抗生物質の使用が検討されます。VRE治療でよく使われる抗生物質には、リネゾリドやキヌプリスチン・ダルホプリスチン、テイコプラニンなどがあります。ただし、VREにはいくつかの遺伝子タイプがあり、それぞれのタイプによって抗生物質の効果が異なります。そのため、どの薬が効くかを確認しながら治療を進める必要があります。
感染管理
VREは院内で広がりやすいため、徹底的な感染管理が行われます。医療従事者や患者の家族が接触する際は、手袋やマスクを着用し、患者に触れた器具やリネン類も使った後は徹底的に消毒されます。感染拡大を防ぐために、患者が個室で隔離されることもあります。
VREになりやすい人・予防の方法
VREに感染しやすいのは、免疫機能が低下している人です。たとえば、がん治療中の方や臓器移植を受けた後で免疫抑制療法を行っている方、糖尿病や腎臓病などの慢性疾患を持つ方が感染リスクが高いと言えるでしょう。
もう一つ、長期にわたる入院や抗生物質の頻繁な使用もVREの感染リスクとなります。抗生物質を長く使用すると、その分、耐性菌が増えてしまいます。
予防には、医療機関内での感染管理が重要です。医療従事者は、患者ごとに器具を使い分けたり、手洗いや消毒を徹底したりして、接触感染のリスクを減らします。また、手袋やマスクの着用、患者が触れたリネン類の徹底的な消毒も欠かせません。患者自身も手指の衛生を心がけることで感染リスクを下げることができます。
また、抗生物質は必要な場合に限り使用し、むやみに使わないようにすることも耐性菌の増加を抑えるために大切です。
参考文献