

監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
目次 -INDEX-
ストレス性胃腸炎の概要
ストレス性胃腸炎とは、精神的なストレスが原因で胃や腸の粘膜に炎症が生じる疾患です。現代のストレス社会において、子どもから大人まで幅広い世代の人々がこの疾患に悩まされています。症状は軽い胃の不快感から激しい胃痛、下痢など多岐にわたり、日常生活に支障をきたすこともあります。一時的な症状で治る人もいれば、長期的に症状が続く人もいます。長期間にわたるストレスにより、症状が慢性化し、ほかの消化器系疾患を引き起こすリスクも高まります。
胃は特にストレスに敏感な臓器です。胃に穴があくという慣用句があるほど、感情の変化による影響を受けやすい臓器です。ストレスにより自律神経のバランスが乱れ、交感神経が優位になると胃酸の分泌や胃の運動が低下します。副交感神経が優位になると、胃酸の分泌や胃の運動が過剰になります。この状態が繰り返されることで、胃酸による胃粘膜障害が生じ、炎症を引き起こして痛みが生じます。
ストレス性胃腸炎の原因
ストレス性胃腸炎の主な原因は、精神的なストレスや心理的な負担です。学校や職場、家庭における不安、緊張、恐怖、怒りなど、心理的および社会的な要因が大きく関わります。
ストレスにさらされると、自律神経の影響で脳と腸の相互作用が変化し、以下のような影響が胃腸に及ぶことが報告されています。
- 胃腸運動性の変化
腸の動きが過剰または低下することがあります。 - 内臓知覚の増加
腹部の痛みや不快感が増します。 - 胃腸分泌の変化
胃酸の分泌が増加し、胃粘膜を傷つけることがあります。 - 腸粘膜透過性の増加
腸壁が過剰に通過性を持つことで炎症が進むことがあります。 - 胃腸粘膜および粘膜血流の再生能力への悪影響
粘膜が再生しにくくなり、損傷が治りにくくなります。 - 腸内細菌叢への悪影響
腸内のバクテリアバランスが崩れ、消化機能が低下します。
また、不規則な食生活やアルコールの過剰摂取、喫煙などの生活習慣も、ストレス性胃腸炎の発症を助長する要因となります。これらの要因が重なることで、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)、機能性ディスペプシア(FD)、消化管潰瘍、胃食道逆流症(GERD)など、さまざまな胃腸障害のリスクが増加します。
必ずしも原因がストレスではありませんが、特に基質的な変化が認められない場合、胃の症状に対しては機能性ディスペプシア(FD)、腸の症状では過敏性腸症候群(IBS)と診断されることもあります。これらは胃や腸の粘膜に炎症などの変化が認められないにも関わらず、胃痛や膨満感、みぞおちの痛み、下痢症状を呈します。
以下に機能性ディスペプシアと過敏性腸症候群の診断基準を掲載します(ローマIV基準)。
機能性ディスペプシア(FD)の診断基準
心窩部痛、心窩部灼熱感、食後のもたれ感、早期飽満感の4つの症状のうち、いずれか1つ以上の症状があり、症状が6ヶ月以上前に発症し、3ヶ月以上持続していること。
過敏性腸症候群(IBS)の診断基準
最近3ヶ月の間に、週に1日以上繰り返しお腹の痛みが起こり、その痛みが以下の2項目以上の特徴を示すこと。
- 排便に関連する
- 症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
- 症状とともに便の形状(外観)が変わる(柔らかくなったり硬くなったりする)
ストレス性胃腸炎の前兆や初期症状について
ストレス性胃腸炎の初期症状には、胃痛や胃もたれ、食欲不振、吐き気、下痢などがあります。症状の程度は人によって異なります。胃潰瘍が進行して胃に穴が開く(穿孔)まで気がづかないケースもあれば、軽い粘膜表層の変化でも激しい胃痛が伴うケースもあります。消化管症状が続く場合は、早めに消化器内科や内科を受診することがすすめられます。場合によっては心理カウンセリングや精神科、心療内科を受診することも重要です。特にストレスが主な要因となっている場合、総合的なアプローチが効果的です。わかりづらければ、まずはかかりつけ医や近くの内科を受診してください。
受診するタイミングとしては、以下の症状を参考にしてください。
- 胃痛や胃の不快感が1ヶ月以上続いている
- 吐き気や嘔気がある
- 血便やタール便(上部消化管出血の場合、タールのような黒っぽい便が見られます)
吐血 - 市販薬を服用しても症状が改善しない
- 激しい痛みを感じることがある
市販薬を選ぶ際のポイントとしては、胃痛や胸焼け症状に対しては胃酸の分泌を抑える薬を選ぶと良いでしょう。食後の胃の痛み、胃液・苦いものが上がってくる感じがある場合は、胃酸が過剰に分泌されているサインかもしれません。
胃もたれや消化不良のような不快感のある場合は、消化酵素が含まれる薬を選ぶと良いでしょう。特に暴飲暴食や過度な飲酒をしていないのに胃もたれを感じる場合は、胃の運動を調整する成分や、胃の粘膜を保護する成分が含まれているものを選びましょう。粘膜保護成分、消化酵成分配合などの記載があるものです。
お腹が張る、ガスが溜まっている、便秘もしくは下痢症状がある場合は整腸剤も選択肢の一つです。
市販薬は成分や配合割合が多岐にわたるため、迷った際は薬剤師に相談してから購入しましょう。1週間以上服薬しても症状が改善しない場合は、早めに病院を受診することを念頭に置いてください。また、受診の際にこれまで服用していた薬を持参することで、より的確な医師の診断に役立ちます。
ストレス性胃腸炎の検査・診断
ストレス性胃腸炎の診断では、まず問診と身体検査が行われます。患者さんの症状や生活習慣に応じて、胃カメラ(内視鏡)検査や血液検査、便検査が実施されます。これにより、ほかの胃腸疾患との鑑別が行われ、適切な診断が下されます。
日本人は胃がんや胃潰瘍の主要な原因であるピロリ菌感染率が高いことが知られています。一度もピロリ菌の検査や胃カメラ検査を受けたことがない場合、特に有病率が高い中高年の場合は、一度胃カメラ検査を行うことがすすめられます。
ストレス性胃腸炎を疑う症状が続くにも関わらず、検査で明確な器質的異常が認められない場合、上述した機能性ディスペプシア(FD)と診断されることがあります。機能性ディスペプシアの主な原因は胃の運動機能や感受性の異常です。一方、ストレス性胃腸炎は精神的ストレスが直接的な原因となって胃粘膜が損傷する疾患です。両者の治療法には違いがあり、それぞれの原因に応じたアプローチが必要です。
ストレス性胃腸炎の治療
ストレス性胃腸炎の治療は、まずストレスの軽減を図ることが重要です。ストレスコントロールのために、早めにカウンセリングを受けることも一つの方法です。また、食事や生活習慣の改善も欠かせません。例えば、バランスの取れた食事や規則正しい生活リズムを心がけることが推奨されます。
臨床症状に応じて、制酸剤(H2ブロッカーやプロトンポンプインヒビター)や胃粘膜保護剤が処方されることがあります。重症の場合は、さらに専門的な治療が必要となることもあります。ピロリ菌感染が確認された場合には、一旦症状を落ち着けた後に除菌治療が行われます。
ストレス性胃腸炎になりやすい人・予防の方法
ストレス性胃腸炎になりやすい人は、日常的に強いストレスを感じている人や、不規則な生活を送っている人です。
予防のためには以下の方法が有効です。
- 規則正しい生活を心がける
- 睡眠時間を十分に確保する
- バランスの取れた食事を摂る
- 適度な運動を行う
- ストレス管理法を身につける
- アルコールやタバコの摂取を控える
- 暴飲暴食を避ける
- 胃に負担がかかるものの摂取を控える(コーヒーなどのカフェイン、過度な香辛料など)
これらの対策を日常生活に取り入れることで、ストレス性胃腸炎の発症リスクを減らし、健康な消化器系を維持するようにしましょう。
参考文献
- Douglas A Drossman, William L Hasler; Rome IV-Functional GI Disorders: Disorders of Gut-Brain Interaction; gastroenterology. 2016 May;150(6):1257-61. doi: 10.1053/j.gastro.2016.03.035.
- Peter C Konturek , T Brzozowski, S J Konturek; Stress and the gut: pathophysiology, clinical consequences, diagnostic approach and treatment options; J Physiol Pharmacol. 2011 Dec;62(6):591-9.PMID: 22314561
- 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト




