監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
直腸がんの概要
直腸がんとは、結腸がんとともに高頻度に発現する大腸がんの一種です。直腸がんは、腺腫という良性のポリープががん化するものと、正常な粘膜ががん化して発生するものに分けられます。。直腸は肛門から約15〜20cmの部分を指し、この領域にがんができると、排便機能に大きな影響を及ぼします。
直腸がんは、男女問わず40歳頃から発症率が高まり、最近では若年層にも直腸がんが増加傾向にあります。全国がん登録罹患データによると、2019年のデータでがんの罹患数は男性で5位、女性で7位となっており、男女の総数では6位となっています。また、2022年の死亡数のデータによれば、男性は7位で女性は10位、総数は8位と、がんの中でも非常に危険性の高い疾患です。罹患数が高まっている要因として、生活習慣の乱れや食生活の欧米化が影響していると考えられます。直腸がんの発症にはさまざまな要因が関与しているため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。
直腸がんの発症率は年々増加傾向にありますが、がんの早期発見と適切な治療により、直腸がんの5年生存率は男女ともに90%以上を超えます。また、進行がんに対する新しい治療法の開発も進められており、直腸がんに対する正しい知識を持ち、適切な予防策を講じることが大切です。
直腸がんの原因
直腸がんの発症にはさまざまな要因が関与しています。遺伝的要因として、家族に大腸がんの患者さんがいる場合には発症リスクが高まります。また、生活習慣とも大きな関わりがあると言われ、喫煙や飲酒、肥満、運動不足などが直腸がんの発症率を高めているのです。
食生活の例としては、赤身肉や加工肉の過剰摂取が直腸がんのリスクを高めることが示されています。一方で、野菜や果物、食物繊維を多く含む食物では直腸がんの発症リスク低下が期待できます。また、肥満は直腸がんのリスクを高める要因とされ、体重管理も大切です。
他にも、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の方や、過去に大腸にポリープが発見されたことがある方は、直腸がんの発症リスクが高まります。炎症性腸疾患の適切な管理や、ポリープを早期に発見・切除することで直腸がんの予防につながるのです。
生活習慣の改善や、定期的ながん検診を受けることが直腸がんの予防に有効です。特に、40歳以上の方や家族に大腸がんの患者さんがいる場合は直腸がんを罹患するリスクが高いため、初期症状が出ていないか日常生活から注意を払いましょう。
直腸がんの前兆や初期症状について
直腸がんは初期の段階では、他の消化器系の問題と似ていることが多く、発見されづらい場合があります。しかし、早期発見のためには、血便や下血などのサインを見逃さないことが重要です。
血便は直腸がんの代表的な症状の一つで、出血が微量であっても継続的に下血がある場合には専門医の診察を受けることをおすすめします。便秘や下痢を繰り返したり、便が細くなったりする場合には注意してください。
また、直腸がんが進行すると慢性的に腸が出血することによる、めまいなどの貧血症状が起きやすくなります。さらに症状が進行すると腸閉塞による腹痛や嘔吐などに悩まされる可能性もあります。
これらの症状がみられた場合、消化器内科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
直腸がんの検査・診断
直腸がんの検査方法は指診や造影検査、内視鏡検査などがあり、その情報をもとに診断していきます。まず問診をした後には、肛門から直腸内に指を入れて診察する「直腸指診」が行われます。その後、確定診断のためにバリウムと空気を肛門から注入してX線写真を撮る注腸造影検査や内視鏡を肛門から入れて腸全体を調べる「大腸内視鏡検査」などの検査が一般的です。内視鏡検査でポリープや異常な組織が見つかった場合には生検が行われ、組織の病理検査が実施されます。
また、CTやMRI、PETなどの画像診断も直腸がんの確定診断には有効です。これらの検査により、がんの進行度や転移の有無が評価され、最適な治療方針が決定されます。画像診断では、がんが周囲の組織や臓器にどの程度浸潤しているか、リンパ節や他の臓器に転移があるかを詳しく調べるために撮像された画像が用いられています。
血液検査で腫瘍マーカー(CEAやCA19-9など)を測定することで、がんの有無や進行度がどの程度か知ることができます。腫瘍マーカーはがんの治療の効果判定や再発のモニタリングにも使用されます。
直腸がんの治療
直腸がんの治療は、がんの進行度やがんの性質、患者さんの全身状態に応じて選択されます。主な治療法には内視鏡治療、外科手術、放射線治療、薬物療法があります。0〜Ⅲ期までの直腸がんであれば、内視鏡治療や外科手術を行うことが多いです。他の臓器に遠隔転移がみられるⅣ期のがんの場合、原発巣と遠隔転移巣の外科手術が行えるかどうかをはじめに精査します。その後、遠隔転移巣の切除が可能でも原発巣の切除が不可能な場合、原則として薬物療法や放射線治療が選択されるのです。また、肛門に近いところにがんができた時には、人工肛門(ストーマ)造設することもあります。
放射線治療には、補助放射線療法と緩和的放射線療法があります。補助放射線治療は術後の再発抑制や術前の腫瘍量減少、肛門の温存が目的です。また、緩和的放射線治療は痛みや吐き気、めまいなどのがんの再発や転移の症状を緩和などが期待できます。薬物療法は術前の再発を防ぎ、全身療法としてがんの進行を抑制し、症状の軽減や延命を目指して実施されます。最近では、分子標的薬や免疫療法などの新しい治療法も開発されており、患者さんの状態に合わせた治療が選択可能です。
直腸がんの治療においては手術の技術も予後に関係してきます。腹腔鏡下手術やロボット支援手術など、患者さんへの負担を軽減するために新しい技術が導入され、入院期間の短縮や早期回復が可能です。また、多職種の連携による包括的な治療が行われ、患者さんのQOL(生活の質)の向上が期待できます。
直腸がんになりやすい人・予防の方法
直腸がんになりやすい人の特徴
直腸がんになりやすい人にはいくつかの特徴があります。例えば、家族に大腸がんの患者さんがいる場合や、過去に大腸ポリープや炎症性腸疾患を患ったことがある場合はリスクが高い傾向にあります。喫煙や飲酒、食生活の乱れ、運動不足、肥満などもリスク要因といえるでしょう。
予防方法
予防のためには、減塩や野菜の摂取などの食事の見直し、適度な運動、禁煙、節酒、適正体重の維持が推奨されます。
肥満予防のために日常的に運動を取り入れ、健康的な体重を維持することで直腸がんのリスク軽減が期待できます。これに加えて、禁煙も直腸がんの予防において重要です。喫煙は多くのがんのリスクを高める要因であり、直腸がんも例外ではありません。
定期的な検査
40歳以上の方やリスクが高いとされる方は積極的に検査を受けることで、直腸がんの早期発見や予防につながります。年に一回はがん検診を受けることをおすすめします。
参考文献