

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
習慣流産の概要
習慣流産とは、3回以上続けて流産を繰り返してしまう状態を指します。妊娠超早期の流産(生化学的妊娠と呼ばれます)は、この定義には含まれません。日本では流産は妊娠22週未満までと定義されており、実際の流産の約90%は妊娠10週未満の早い時期に起こります。子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)によると、習慣流産を経験する方は100人に約1人(1.1%)とされています。この数字は、決して珍しい状態ではないことを示しています。習慣流産の原因
習慣流産の主な原因は四つあることが分かっています。一つ目は、抗リン脂質抗体症候群という、体の免疫系に関係する病気です。この病気では、血液が固まりやすくなることで、胎盤の血流に影響が出る可能性があります。二つ目は、生まれつきの子宮の形の異常です。中隔子宮や双角子宮など、子宮の形が通常と異なる状態があてはまります。三つ目は、ご夫婦のどちらかの染色体の構造が通常と異なっている場合です。四つ目は、赤ちゃんの染色体に数の異常がある場合です。実はこれが最も多い原因とされています。 流産した組織を調べると、1回だけ流産を経験した方では約72%、複数回流産を経験した方でも約51%で、赤ちゃんの染色体に異常が見つかっています。このほかにも、糖尿病や甲状腺の機能低下などのホルモンの異常が原因となることもありますが、これらは比較的少なく、糖尿病は不育症全体の約1%程度です。また、子宮頸部が妊娠中期に開きやすい状態や、破水によって繰り返し流産する場合もあります。習慣流産の前兆や初期症状について
習慣流産そのものの特徴的な前兆や初期症状はありませんが、個々の妊娠において性器出血が見られることがあります。これは重要な症状の一つとされています。習慣流産の検査・診断
習慣流産の原因を調べるために、いくつかの重要な検査が行われます。抗リン脂質抗体という特殊な抗体の有無を調べる血液検査は、12週間の間隔を空けて2回行い、2回とも陽性だった場合に診断が確定します。超音波検査では子宮の形を調べ、生まれつきの形の異常があるかどうかを確認します。 ご夫婦お二人の染色体検査も大切な検査の一つです。これは血液検査で染色体の構造を詳しく調べるものです。また2022年4月からは、2回目以降の流産の場合、流産した組織の染色体検査が保険で受けられるようになりました。この検査により、流産の原因が赤ちゃんの染色体の異常だったのか、それ以外の原因だったのかを知ることができ、次回の妊娠に向けた対策を立てる重要な情報となります。 また必要に応じて、甲状腺機能や血糖値の検査なども行われます。これらの検査結果をもとに、それぞれの方に合った治療方針が立てられます。習慣流産の治療
治療は見つかった原因に応じて個別に行われます。抗リン脂質抗体症候群と診断された場合は、低用量アスピリンと血液をサラサラにする薬(ヘパリン)を組み合わせた治療が標準的に行われます。この治療により、70〜80%の方が赤ちゃんを無事に出産できることが分かっています。 子宮の形に異常がある場合、以前は手術が積極的に行われていましたが、最近の研究では手術による効果は明確ではないことが分かってきました。例えば、中隔子宮に対する手術を行った場合でも、手術をしなかった場合と比べて出産率に大きな違いは見られなかったことが報告されています。 ご夫婦の染色体に構造異常がある場合は、着床前診断という特殊な治療を選択することもできます。しかし、自然妊娠でも時間をかければ約68%の方が出産できることが報告されています。妊娠中に性器出血がある習慣流産に対しては、天然型プロゲステロン腟座薬が出産率改善に有効だったと報告されています。習慣流産になりやすい人・予防の方法
習慣流産のリスクは、女性の年齢と過去の流産回数が最も強く影響します。また、男性の年齢が40歳以上の場合や喫煙習慣がある場合もリスクが高くなることが分かっています。過去の流産回数が多いほど、次回の妊娠で流産する可能性は高くなりますが、それでも多くの方に妊娠を継続できる可能性があります。 原因が分からない場合でも、年齢が若い方であれば、次の妊娠での出産の可能性は比較的高いことが分かっています。2回流産を経験した方の約80%、3回経験した方の約70%、4回経験した方の約60%、5回経験した方の約50%が、次の妊娠で無事に出産できています。 また習慣流産を経験された方は、その後の妊娠でも注意が必要です。流産、早産、胎児の発育が遅れるなどのリスクが高くなる可能性があります。ただし、妊娠が順調に進んだ場合、生まれてくる赤ちゃんに先天的な異常が増えることはないことも分かっています。 お母さんの健康面では、妊娠高血圧症候群や深部静脈血栓症(血液の塊ができやすい状態)などのリスクが高くなる可能性があるため、定期的な健診が重要です。また長期的には心血管系の病気になりやすいことも報告されているため、継続的な健康管理が大切です。 習慣流産を経験された方は、身体的にも精神的にも大きな負担を感じることが多いと思います。しかし、適切な検査と治療、そして医療スタッフのサポートにより、多くの方が赤ちゃんを授かることができています。関連する病気
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 抗リン脂質抗体症候群
- 全身性エリテマトーデス
- 解剖学的異常
- 血液凝固障害
- トキソプラズマ感染
- 風疹
- サイトメガロウイルス感染
参考文献
- Quenby S, et al. Miscarriage matters: the epidemiological, physical, psychological, and economic costs of early pregnancy loss. Lancet 397:1658–1667, 2021
- Coomarasamy A, et al. Recurrent miscarriage: evidence to accelerate action. Lancet 397:1675–1682, 2021
- Sugiura-Ogasawara M, et al. Abnormal embryonic karyotype is the most frequent cause of recurrent miscarriage. Hum Reprod 27:2297–2303, 2012
- Coomarasamy A, et al. A randomized trial of progesterone in women with bleeding in early pregnancy. N Engl J Med 380:1815–1824, 2019
- Miyakis S, et al. International consensus statement on an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost 4:295–306, 2006




