外陰部パジェット病
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

外陰パジェット病の概要

外陰パジェット病は、主に高齢の方の外陰部(女性の性器の外側部分)に発生するめずらしい皮膚のがんです。この病気では、皮膚の一番外側の層に、パジェット細胞という特別な種類のがん細胞が現れて増えていきます。この細胞は顕微鏡で見ると、通常の皮膚の細胞より大きく、中が明るく見える特徴があります。
この病気は、イギリスの外科医であるジェームズ・パジェット博士が1874年に、最初は乳首の部分に発生する似たような状態として報告しました。その後、1901年にフランスの皮膚科医のデュブルイユ博士が、外陰部でも同じような病気が起こることを初めて報告しました。

外陰パジェット病の原因

現在でも完全には解明されていません。最も有力な説として、表皮に存在する多機能幹細胞が何らかの原因で異常を来すことで発症するという考え方があります。また、アポクリン腺やバルトリン腺などの皮膚付属器から発生するという説や、乳房外パジェット病の一部は近接する臓器の腺癌が表皮内に進展したものであるという説もあります。さらに、まれに大腸癌や尿路上皮癌などの近接する臓器の悪性腫瘍が外陰部の皮膚に広がることで発症する二次性のパジェット病も存在することが知られています。

外陰パジェット病の前兆や初期症状について

この疾患の臨床症状として最も多いのが外陰部のかゆみです。多くの患者さんが、まずこの症状に気付きます。その他にも、外陰部の不快感や灼熱感、痛み、皮膚の色の変化などの症状が現れることがあります。病変は通常、紅斑性で境界が不明瞭な局面として始まり、次第に表面が湿潤してびらんを形成することもあります。また、特徴的な所見として「ケーキのアイシング様」と表現される白色の鱗屑を伴うことがあります。症状が出現する場所は主に大陰唇であり、会陰部にまで及ぶことがありますが、症状がまったくない無症状の症例も存在します。多くの場合、症状の出現から診断までに平均して約2年かかるとされています。

外陰パジェット病の検査・診断

まず医師による詳しい視診と触診から始まります。外陰パジェット病は湿疹のように見える赤い斑点として現れ、わずかに隆起していることが特徴です。しかし、臨床所見だけでは他の皮膚疾患との鑑別が困難なことが多く、確定診断のためには生検による病理組織学的検査が必須です。生検では、表皮内に特徴的なパジェット細胞の存在を確認します。また、病変の広がりを正確に把握するために、周囲の正常に見える皮膚の複数箇所から少しずつ組織を採取するマッピング生検が行われることがあります。この際、免疫組織化学染色による検査も重要で、CK7やCEAなどの特異的なマーカーの発現を確認することで、より正確な診断が可能となります。
さらに、全身検索として、乳房の検査や消化管内視鏡検査、尿路系の検査なども必要に応じて実施されます。これは、乳癌や消化器癌、尿路上皮癌などの悪性腫瘍が合併している可能性を除外するためです。画像診断として、CT検査やMRI検査なども、病変の深達度や所属リンパ節転移の有無を評価するために行われます。また、PET-CT検査が、遠隔転移の有無の評価に有用な場合もあります。

外陰パジェット病の治療

病気の進行度によって異なります。最も一般的な治療法は手術による切除です。表皮内にとどまっている初期の段合は、病変部分とその周囲の健康な皮膚を含めて切除します。この際、切除範囲を正確に決定するために目で見える病変の端から1cm程度離れた箇所を複数生検し参考にします。一方、深部に浸潤している場合は、より広範囲な切除と所属リンパ節の郭清が必要となることがあります。高齢や他の病気のために手術が難しい場合は、放射線治療が選択肢となります。

外陰パジェット病になりやすい人・予防の方法

外陰パジェット病の患者の特徴については、主に閉経後の女性に好発することが報告されています。年齢層としては60歳以上の高齢者に多く見られ、アジア人女性での発症例も複数報告されています。しかし、疾患の根本的な原因や予防法は十分に解明されておりません。
そのため予防法として最も重要なのは、定期的な自己観察と早期発見です。外陰部のかゆみや違和感が続く場合は、早めに医師に相談することが推奨されます。


関連する病気

参考文献

  • 日本皮膚科学会誌「外陰部パジェット病診療ガイドライン」2019
  • Wilkinson E, Brown H. (2002). Vulvar Paget disease of urothelial origin: a report of three cases and a proposed classification of vulvar Paget disease. Human Pathology, 33(5), 549-554.
  • van der Zwan JM, et al. (2012). Invasive extramammary Paget’s disease and the risk of secondary tumours in Europe. European Journal of Surgical Oncology, 38, 214-221.
  • Hatta N, et al. (2008). Extramammary Paget’s disease: treatment, prognostic factors and outcome in 76 patients. British Journal of Dermatology, 158(2), 313-318.
  • Crum CP, et al. (2014). WHO Classification of Tumours of Female Reproductive Organs, 4th edition.

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