目次 -INDEX-

産褥熱
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

プロフィールをもっと見る
兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

産褥熱の概要

産褥熱は、お産の後24時間以降から産後10日までの期間に、体温が38.0度以上の発熱が2日間以上続く状態を指します。最近の研究によると、1,000件のお産あたり、子宮内膜の感染が16人、傷の部分の感染が12人、重症な全身感染である敗血症が0.5人の割合で発生すると報告されています。産褥熱は、適切な治療を行わないと重症化する可能性があるため、早期発見と治療が重要です

産褥熱の原因

産褥熱は主に、妊娠中や出産時に子宮の入り口や腟の中にいた細菌が子宮の中に上がっていくことで起こります。通常、一つの細菌だけでなく、複数の種類の細菌が同時に感染することが多いのが特徴です。以前は特定の細菌が主な原因でしたが、最近では医療環境の改善や抗生物質の使用により、これまであまり問題にならなかった弱い細菌や、酸素を嫌う細菌などによる感染が増えてきています。また、抗生物質が効きにくい薬剤耐性菌による感染症も時々見られ、治療が難しくなることがあります。

産褥熱の前兆や初期症状について

産褥熱には以下のような症状が現れます。

  • 38度以上の発熱
  • 寒気や震え
  • 脈が早くなる
  • 下腹部の痛み
  • 子宮を触ると痛む
  • 悪臭のある産後の出血(悪露)
特に産後3日から5日目に症状が出ることが多く、初期の段階で適切な治療を受けないと、感染が子宮の周りの組織に広がっていく可能性があります

産褥熱の検査・診断

産褥熱の診断は、主に症状と診察所見によって行われます。医師は以下のような検査を行うことがあります。

  • 体温、脈拍、血圧などのバイタルサインの確認
  • 血液検査
  • 子宮からの分泌物の細菌検査
  • 超音波検査
  • 必要に応じてCT検査
特に感染が重症化して全身に広がった場合は、意識状態呼吸の速さ血圧などを総合的に評価して、集中治療が必要かどうかを判断します。

産褥熱の治療

治療の基本は、まず悪露、膿汁、血液などの培養・抗菌薬感受性検査の検体を採取し、その後に感染部位の可及的除去と抗菌薬の経静脈投与を行います。滞留している悪露は排出させる必要がありますが、産褥子宮は穿孔しやすいため、注意が必要とされています。 経腟分娩後の産褥熱では、90%以上の症例でアンピシリンゲンタマイシンの組み合わせ投与で軽快します。一方、帝王切開後では嫌気性菌による感染症を考慮して抗菌薬を選択し、培養・感受性結果を参照して抗菌薬スペクトラムの狭域化を行います。 劇症型A群溶連菌感染症が疑われる場合は、全身管理(補液、血圧維持、呼吸管理)とともに、早期からの多量のアンピシリン投与(12 g/日)とクリンダマイシン(2.7 g/日)の併用を考慮します。 付属器や骨盤内に膿瘍が形成された例や腹膜炎では、ドレナージや外科的切除が必要となる場合もあります。また、敗血症で静脈血栓症を合併した場合は、抗凝固療法を併用します。

産褥熱になりやすい人・予防の方法

産褥熱になりやすい人

産褥熱は、出産に関連するいくつかの要因によって発症リスクが高まることが分かっています。特に妊娠中に羊水の感染(絨毛膜羊膜炎)を経験した方や、早産の危険性があった方陣痛が長時間続いた方は注意が必要です。また、帝王切開での分娩、産道の損傷が大きい場合、胎盤を手で剥がす処置を行った場合なども、感染のリスクが上昇します。 母体の健康状態も重要な要因となります。糖尿病を合併している妊婦さん、栄養状態が良くない方、HIV感染がある方、自己免疫疾患で治療中の方は、免疫機能が低下している可能性があるため、より慎重な管理が必要となります。さらに、分娩時に頻繁な内診が必要だった場合や、陣痛の状態を測定するためのカテーテルを長時間使用した場合も、感染のリスクが高まることが知られています。

予防の方法

予防には、清潔な環境での出産管理が最も重要です。医療スタッフによる適切な手洗いと消毒、出産後の傷の丁寧な処置、そして十分な休息を取ることが基本となります。また、産後の体調変化には特に注意を払い、発熱や強い下腹部痛、悪臭のある出血などの症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが推奨されます。 なお、産褥熱は必ずしも明確なリスク要因がない場合でも発症することがあります。そのため、すべての産後の方において、体調の変化には注意深い観察が必要です。特に産後3日から5日目は発症しやすい時期とされているため、この期間は特に慎重な経過観察が重要です。予防と早期発見により、重症化を防ぐことができます

関連する病気

参考文献

  • Adair FL. The American Committee on Maternal Welfare: Meeting held at Atlantic City, June 12, 1935 Chairman's address. AJOG 30:868-871, 1935
  • Woodd SL, Montoya A, Barreix M, et al. Incidence of maternal peripartum infection: a systematic review and meta-analysis. PLoS Med 16:e1002984, 2019
  • Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 315:801-810, 2016
  • Vincent JL, Moreno R, Takala J, et al. The SOFA (Sepsis-related Organ Failure Assessment) score to describe organ dysfunction/failure. Intensive Care Med 22:707-710, 1996
  • Wong CJ, Stevens DL. Serious group a streptococcal infections. Med Clin North Am 97:721-736, 2013

この記事の監修医師