監修医師:
佐藤 綾華(医師)
性器ヘルペスの概要
性器ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス」によって引き起こされる性感染症です。女性の性器ヘルペスは外陰部や子宮頸部などの感染部位に痛みを伴う水疱が発生します。
単純ヘルペスウイルスは、主に性行為を通じて感染します。感染力が強く、症状が出ていない時でも人に感染する可能性があります。性行為の経験がある人であれば誰でも感染する可能性があり、特に女性は男性よりも感染しやすい傾向にあります。
性器ヘルペスで発生する水疱は強い痛みを伴うため、排尿や歩行などの日常生活動作に支障をきたすこともあります。一度感染したウイルスは排除されることがなく、神経節に潜伏してストレスや疲労、免疫力の低下によって再活性化し、症状が再発することがあります。
再発時よりも初発時の方が症状が重症になる傾向があります。分娩時にヘルペスウイルスが新生児に感染した場合は、新生児が重篤な状態に陥ることもあるため、妊娠時期(特に妊娠後期)に感染しないことが重要です。
性器ヘルペスの原因
性器ヘルペスは、主に「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」と「単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)」によって引き起こされます。
主な感染経路は性器、肛門、口腔を介した性行為です。
また性行為以外でも、乳幼児期に保護者の唾液などから感染することもあります。
ヘルペスウイルスは、皮膚や粘膜にある小さな傷から侵入します。一度感染すると、治療をして症状が落ち着いてもウイルスは神経節に潜伏し、長期間活動を停止します。そして、免疫力の低下やストレスなどの要因で再び活性化し、不快な症状を引き起こします。
性器ヘルペスの感染リスクを高める要因には、以下のものが挙げられます。
- 不特定多数のセックスパートナーがいる
- 性行為の際にコンドームを使用しない
- 他の性感染症に感染している
- 免疫力が低下している
性器ヘルペスの前兆や初期症状について
性器ヘルペスは、初めて感染した時に症状がでる「急性型」と、感染後無症状で経過して免疫力の低下などを機に初めて症状が現れる「誘発型」、過去に感染して再発を繰り返す「再発型」の3つに分けられます。
急性型は感染から2日〜10日程の潜伏期間を経て外陰部のかゆみや不快感などの前兆が現れます。その後、発熱や足の付け根のリンパ節の腫れ、全身倦怠感などの症状とともに外陰部や子宮頸部に痛みを伴う水疱が発生します。性器のほか、お尻や太ももに水疱が発生することもあります。
誘発型や再発型の場合は、ストレスや疲労、月経、性行為などを機に感染部位に水疱が発生します。かゆみや痛みはあるものの、急性型に比べて症状の程度は軽く、1週間以内で自然に軽快します。(出典:国立感染症研究所所NIID 「「性器ヘルペスウイルス感染症とは」)
性器ヘルペスの検査・診断
性器ヘルペスの診断では、状態に応じて視診を行ったり感染部位からウイルスを検出する方法が行われます。視診では、医師が病変部位を視覚的に観察して浅い潰瘍性や水疱がないか確認します。感染部位からウイルスを検出する検査は、綿棒で水疱から検体を採取し、スライドグラスに塗布してウイルスの有無を顕微鏡で確認します。
場合によっては血液検査が行われることもあります。血液検査では、血液に含まれる単純ヘルペスウイルスの抗体(HSV抗体)を検出でき、過去の感染や現在の感染状況を判断することが可能です。
しかしどちらの検査も、感染していてもウイルスの存在を特定できない(偽陰性)こともあるため注意が必要です。
性器ヘルペスの治療
性器ヘルペスの治療では、主に症状の緩和を目的とした薬物療法が行われます。現在のところ、単純ヘルペスウイルスを完全に排除させる薬剤はありません。そのため、ウイルスの活動や増殖を抑える目的で抗ヘルペスウイルス薬が用いられます。
抗ヘルペスウイルス薬には、「アシクロビル」「バラシクロビル」「ファムシクロビル」などがあります。性器ヘルペスでは、一般的に抗ヘルペスウイルス薬の5日間の内服治療を行いますが、重症の場合には入院の上、抗ヘルペスウイルス薬を点滴で投与することもあります。再発型の場合には外用薬のみで症状が軽快するケースもあります。
再発の頻度が高い場合は、抗ウイルス薬を定期的に服用する「抑制療法」が行われることもあります。
性器ヘルペスになりやすい人・予防の方法
不特定多数のセックスパートナーがいる人や、免疫力が低下している人、性行為の際にコンドームをしない場合などは性器ヘルペスウイルスに感染するリスクが高まります。
性器ヘルペスの感染予防には、コンドームを適切に使用し、複数のセックスパートナーを避けることが重要です。しかし、水疱が広範囲に及んでいる場合などはコンドームを使用しても感染を予防できない可能性があります。
再発を予防するためには、疲労やストレスを溜めないようにし、十分に睡眠を取ることが重要です。再発の頻度が高い場合は、医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。分娩を控えている場合は、分娩方法について医師と相談してください。
参考文献