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クッシング症候群
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

クッシング症候群の概要

クッシング症候群は、副腎で過剰にコルチゾールが生成、分泌されることによって引き起こされる疾患です。コルチゾールは、ストレスホルモンとして確認され、体内のさまざまな機能に影響を与えますが、過剰な分泌が続くと、体の正常な機能が損なわれます。この疾患は、糖質コルチコイドの長期使用が原因となる医原性クッシング症候群と、体内で異常にコルチゾールが生成される内因性クッシング症候群に分かれます。

クッシング症候群の原因

クッシング症候群は、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの過剰分泌によって引き起こされる疾患です。コルチゾールはストレス応答に関与し、体内の多くの機能を調節しますが、その過剰はさまざまな健康問題を引き起こします。クッシング症候群の原因は大きく分けて内因性と医原性の二つがあります。

内因性クッシング症候群

内因性クッシング症候群は、体内でコルチゾールが異常に増加することに起因します。これには以下のような原因があります。

  • 副腎腫瘍:副腎腫瘍は、副腎にできる腫瘍(良性や悪性)がコルチゾールを過剰に分泌します。特に、良性の副腎皮質腺腫がほとんどです。
  • ACTH産生腫瘍:ACTH産生腫瘍は、下垂体やその他の部位にできる腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰に分泌し、それが副腎を刺激してコルチゾールの生成を助けます。下垂体の腫瘍によるものはクッシング病と呼ばれます。
  • 異所性ACTH産生腫瘍:異所性ACTH産生腫瘍は、肺小細胞癌や膵臓腫瘍など、下垂体以外の部位でACTHを産生する腫瘍が存在する場合もあります。

医原性クッシング症候群

医原性クッシング症候群は、長期間にわたるステロイド薬の使用によって引き起こされます。ステロイド薬は多くの炎症性疾患や免疫疾患の治療に用いられますが、その使用が続くと体内のコルチゾールレベルが上昇し、クッシング症候群の症状を引き起こすことがあります。

クッシング症候群の前兆や初期症状について

クッシング症候群は、コルチゾールという副腎皮質ホルモンの過剰分泌によって引き起こされる疾患であり、初期症状は多岐にわたります。早期に発見し、適切な治療を受けることが重要です。以下のような症状がある場合は、内科、内分泌内科、脳神経外科を受診しましょう。

  • 中心性肥満:腹部に脂肪が集中し、顔や首にも脂肪が蓄積する傾向があります。特に顔は丸みを帯び、満月様顔貌と呼ばれる特徴的な外観になります。
  • 筋力低下と疲労感:腕や脚の筋肉が弱まり、日常的な動作が困難になることがあります。これに伴って、全身の倦怠感や疲労感が強く感じられることが多いようです。
  • 皮膚の変化:皮膚が薄くなり、容易にあざができるほか、傷の治りが遅くなります。また、赤紫色のストレッチマーク(皮膚線条)が腹部、大腿部、臀部に現れることがあります。
  • 高血圧:コルチゾールの過剰分泌は、血圧の上昇を引き起こし、高血圧をもたらすことがあります。これは、心血管系に負担をかけ、長期的には心疾患のリスクを高めます。
  • 月経異常:女性の場合、月経不順や無月経が見られることがあります。また、多毛症(体毛の異常な増加)も見られます。

クッシング症候群の検査・診断

クッシング症候群の診断は、血液検査や尿検査、唾液検査を通じて行われ、コルチゾールの過剰分泌が確認されます。さらに、画像診断(CTやMRI)を用いて、コルチゾール過剰分泌の原因となる腫瘍の有無を調べます。 治療は、原因に応じて異なります。副腎や下垂体の腫瘍が原因の場合、手術による摘出が一般的です。また、手術が困難な場合や再発した場合には、薬物療法(メトロピロンやケトコナゾールなど)や放射線療法が選択されることがあります。医原性クッシング症候群の場合は、ステロイド薬の使用量を減らすか、中止で改善が期待されます。

クッシング症候群の治療

クッシング症候群の主な原因が副腎や下垂体の腫瘍である場合、摘出手術が第一選択となります。副腎に腫瘍がある場合は、副腎摘出術が行われ、下垂体腫瘍の場合は経蝶形骨手術が一般的です。これらの手術により、過剰なコルチゾールの分泌を抑制することが期待されます。手術後は、ホルモンバランスの回復を図るために一時的に補充療法が必要となることがあります。 手術が困難な場合や、手術後に再発した場合には、薬物治療が選択されます。コルチゾールの生成を抑制する薬物としては、メトロピロンやケトコナゾール、まれにミトタンなどが使用されます。これらの薬物は、コルチゾールの生成や作用を抑える効果が期待でき、副作用の管理が必要です。また、新しい薬剤の開発も進んでおり、効果的かつ副作用の少ない治療法が求められています。

下垂体腫瘍が原因の場合、放射線治療が選択されることがあります。手術が困難な場合や、手術後に腫瘍が再発した場合に有効とされます。放射線治療は、腫瘍の成長を抑制し、コルチゾールの過剰分泌を抑える効果が期待できますが、効果が現れるまでに時間がかかることがあります。

医原性クッシング症候群は、長期間のステロイド薬の使用によって引き起こされます。この場合、ステロイド薬の使用量を徐々に減らすか、中止で症状が改善されます。しかし、急激に減量すると副腎不全を引き起こすリスクがあるため、医師の指導のもとで慎重に行う必要があります。 治療に加えて、生活習慣の改善も重要です。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが、症状の緩和や治療効果の向上に寄与します。また、ストレス管理も重要であり、心理的サポートやリラクゼーション法の導入が推奨されます。

クッシング症候群になりやすい人・予防の方法

なりやすい方は以下の傾向があります。 ステロイド薬は多くの炎症性疾患や免疫疾患の治療に使用されますが、長期間にわたる使用はクッシング症候群のリスクを高めます。主に高用量のステロイドを使用している方は注意が必要です。 下垂体腺腫や副腎腫瘍(副腎皮質腺腫や副腎癌など)がある場合、コルチゾールの過剰分泌が引き起こされ、クッシング症候群を発症する可能性が高まります。 また、家族にクッシング症候群の既往がある方は、家族にクッシング症候群を患った方がいる場合、その遺伝的要因によりリスクが高まることがあります。

予防の方法としては以下が挙げられます。 ステロイド薬の適切な管理は医師の指示に従い、ステロイド薬の使用を少なく抑えることが重要です。長期間使用する場合は、定期的に医師と相談し、少ない用量を維持するよう努めます。 定期的な健康診断が必要です。特にステロイド薬を使用している方や、家族にクッシング症候群の既往がある方は、定期的な健康診断を受けることが推奨されます。早期発見により、早期治療が可能となります。 また、ストレス管理も大切です。コルチゾールはストレスホルモンとして確認され、過度なストレスがその分泌を助けることがあります。リラクゼーション法やストレス管理の技術を身につけることが予防に役立ちます。 健康的な生活習慣の維持も推奨されます。バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけることが、全体的な健康維持とともにクッシング症候群の予防にも寄与します。

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