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寒冷凝集素症
山本 佳奈

監修医師
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

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滋賀医科大学医学部 卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

寒冷凝集素症の概要

寒冷凝集素症(かんれいぎょうしゅうそしょう)は、自己免疫性溶血性貧血という病気の1つで、高齢者に多く発症します。自己免疫性溶血性貧血とは、本来なら異物を排除するためにはたらく抗体が、誤って自分の正常な赤血球を「敵」だと認識して攻撃することで起こる貧血の総称です。

寒冷凝集素症の特徴は、低温にさらされることをきっかけとして症状があらわれることです。体が冷えると、「寒冷凝集素」と呼ばれる抗体が正常な赤血球を攻撃します。攻撃を受けた赤血球同士はくっつきやすくなり、最終的に破壊されてしまいます。
その結果、赤血球が減少して貧血となり、さまざまな症状を引き起こします。体が冷えることが症状の引き金になることから、自己免疫性溶血性貧血のなかでも「冷式」に分類されています。

また、似ている病気として「二次性寒冷凝集素症(寒冷凝集素症候群)」もあります。ただし二次性寒冷凝集素症は、マイコプラズマ肺炎やインフルエンザなどの感染症に続いて免疫が反応して発症する病気で、寒冷凝集素症とは明確に区別されています。

寒冷凝集素症

寒冷凝集素症の原因

寒冷凝集素症の原因は、自己免疫の異常です。寒冷凝集素は健康な人にも存在することがあります。しかし、寒冷凝集素は4℃で最大活性化するため、普通の生活をしている限り、体温が4℃以下まで下がることは考えられず、健康な人では寒冷凝集素が体に影響を及ぼす心配はありません。

しかし、寒冷凝集素症の患者の場合は、状況が異なります。体内にある寒冷凝集素は、体の中心部よりも少し低い30℃程度で活性化してしまいます。

出典:熊本大学病院 輸血・細胞治療部「寒冷凝集素症」

そして、活性化した寒冷凝集素が何らかの原因で自分の正常な赤血球を攻撃することで、赤血球同士がくっつき、その後破壊されることで貧血を起こします。

なぜ一部の人に異常な寒冷凝集素が生まれるのか、なぜ正常な赤血球を攻撃してしまうのかといった点については、まだ解明されていません。

寒冷凝集素症の前兆や初期症状について

寒冷凝集素症では、赤血球の凝集(赤血球同士がくっつくこと)と破壊によって貧血症状と末梢循環障害の症状が生じます。

具体的には、寒さにさらされると、赤血球の凝集で血液の流れが滞るために、手足の先や耳の先端などの皮膚が青紫色に変色したり、冷たく感じたりします。

また、同様の理由から全身に酸素が行きわたらず、体が疲れやすくなったり、軽い運動でも倦怠感(だるさ)を感じやすくなります。また、末端の部位では、痛みやしびれがあらわれることもあります。これらの症状は、冷水で手を洗う、冷水を飲むといったことでも生じるのが特徴です。

寒冷凝集素症の症状は、寒さを避け、温めることで落ち着きます。反対に、長時間寒さにさらされると症状が強くなり、痛みやしびれが続くこともあります。

寒冷凝集素症の検査・診断

寒冷凝集素症は、自己免疫性溶血性貧血の診断基準に基づいて診断が下されます。診断基準を満たすかどうかを調べるために、血液検査や寒冷凝集素試験を中心とした検査を行います。

血液検査

血液検査では、赤血球の数や形態、血液の流れが正常に流れているかを調べます。

体が冷えた状態で血液検査を行うと、赤血球がくっついた状態を調べることになるため、赤血球の数値など、一部の数値に影響が出ます。そのため、体を温めてから検査を行う場合があります。

寒冷凝集素試験

採取した血液を冷やし、低温下で赤血球が凝集するかを確認します。寒冷凝集素症の場合は、寒冷凝集素が周りの赤血球に反応して凝集が起こるため、この反応が出るかどうかを確認します。寒冷凝集素試験は、寒冷凝集素症の診断に欠かせない検査です。

直接クームス試験

直接クームス試験では、血液中に自分の正常な細胞や組織を攻撃する抗体が存在するかどうかを確認します。寒冷凝集素症の場合、寒冷凝集素が赤血球に付着していることが確認され、直接クームス試験では陽性反応が出ます。

画像検査

血液検査や寒冷凝集素試験で寒冷凝集素症が疑われ、レントゲンやCTで肺炎が確認された場合は、マイコプラズマ肺炎による二次性寒冷凝集素症(寒冷凝集素症候群)である可能性が高いと判断されます。その場合、治療方針が大きく異なってきます。

寒冷凝集素症の治療

寒冷凝集素症では、現時点だと根治可能な薬物療法はないため、症状の軽減と進行予防を目的として治療が行われます。

体温管理

重篤な症状のない寒冷凝集素症の基本的な治療は、体温管理です。
冷えた環境を避け、冬場や冷え込みの強い場合は、徹底的に保温します。具体的には、手袋やマフラー、帽子を使って、手足や耳、鼻先などが冷えないように保護します。また、室内では暖房器具を積極的に活用したり、就寝している際に冷えないように寝具を調整したりなど、体温が下がらないようにすることが重要です。

薬物療法

重症例では、ステロイド薬が用いられることがあります。自己免疫反応を抑え、赤血球が攻撃されるのを抑制することが目的です。
しかし、生命の危険を脅かすような状態を除いて、寒冷凝集素症に対するステロイド薬の投与は推奨されていません。理由としては、有効性が低いとされているうえ、ステロイド薬は糖尿病や気分障害、高脂血症などの副作用を引き起こすリスクがあるためです。

また、冷えた環境を避けて、体を温めても貧血症状がみられる場合は、その症状を抑える薬剤を服用することがあります。

輸血

重症例にて、薬剤での治療の効果があらわれるまで救命を目的として輸血も行われます。ただし、寒冷凝集素症の場合、体温が下がると赤血球が凝集しやすくなるため、輸血を行う際には、患者とドナーの手足に加え、血液も温めながら行います。

寒冷凝集素症になりやすい人・予防の方法

寒冷凝集素症は、高齢者に発症しやすい傾向があります。また、体温が下がったときに、血液中の赤血球が凝集し、さまざまな症状が生じるため、寒い環境で長時間過ごすことが多い人は注意が必要です。

寒冷凝集素症の発症を防ぐことは困難ですが、ある程度、症状が出るのを防ぐことは可能です。寒い場所にいる際は、手袋やマフラー、帽子などを使い、手足や耳、鼻先といった末端部分が冷えないようにしましょう。
また、室内でも暖房を適切に活用し、冷え込まないよう工夫をする、冷水での手洗いを避け、ぬるま湯や温水で手を洗うようにすることが予防につながります。


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