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胸部大動脈瘤
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

胸部大動脈瘤の概要

胸部大動脈瘤とは「胸郭内にある大動脈が何らかの原因で膨らんだ状態」のことです。一般的に、胸部大動脈の太さは3cmと言われており、4.5cmを超えたものを胸部大動脈瘤と呼びます。

胸部大動脈は、動脈瘤がある部位によって以下のように分類されます。

  • 胸部大動脈瘤
  • 胸腹部大動脈瘤
  • 腹部大動脈瘤

動脈瘤の形態による分類では、大動脈全体が大きくなる紡錘状動脈瘤(ぼうすいじょうどうみゃくりゅう)と大動脈の片側だけがふくれる嚢状動脈瘤(のうじょうどうみゃくりゅう)、大動脈の内膜や中膜に亀裂ができて広がる解離性大動脈瘤の大きく3つに分けられます。

胸部大動脈は、全身に血液を供給する動脈であり、動脈瘤が発生すると深刻な合併症を引き起こす可能性があります。

通常は、胸部大動脈瘤は無症状のことが多いです。

ただし、動脈瘤のサイズや位置により呼吸困難や胸痛、動悸などの症状が現れることがあります。治療は、動脈瘤の大きさや進行度、患者さんの全身状態にもとづいて決定します。

胸部大動脈瘤

胸部大動脈瘤の原因

胸部大動脈瘤の主な原因は、動脈硬化です。動脈硬化により、動脈壁がもろくなることで動脈瘤が形成されやすくなります。

ほかにも、胸部大動脈瘤を発症する原因は以下の通りです。

  • 感染症
  • 各種の血管炎
  • 外傷
  • 遺伝性

細菌感染や真菌感染によって大動脈の壁が損傷して、異常な組織が増殖することが原因になります。

また、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群など、組織に影響する遺伝性の疾患が大動脈に瘤を形成するリスクを高めます。

胸部大動脈瘤の前兆や初期症状について

胸部大動脈瘤の約60%は無症状で進行するため、発見が遅れるケースも少なくありません。また人間ドックや別の検査をした際に、偶然発見されることも多いです。

しかし、病状が進むにつれて動脈瘤が大きくなると、動脈瘤が周囲の臓器を圧迫して反回神経麻痺(声のかすれ)や食道圧迫(飲み込みにくさ)などの症状が引き起こされることがあります。

ほかにも、動脈瘤が気管や肺に圧力をかけることで、息苦しさや咳が出る場合もあります。

動脈瘤が破裂すると、激しい痛みが生じたりショック状態が起きたりします。このケースで治療が遅れると死に至ることもあるため、異常の発見と早期治療が重要です。

胸部大動脈瘤の検査・診断

胸部大動脈瘤の主な検査はCT検査であり、胸部大動脈の断層画像によって動脈瘤の大きさや位置、周囲組織への影響などを評価します。

また、MRI検査によって動脈瘤の性質や血流の状態をより詳しく確認します。経食道心エコー検査や血管造影検査、血液検査を行う場合もあります。

全ての検査結果をもとに診断し、外科的な手術が必要か、もしくはどの手術の方法を選択すべきか判断します。

胸部大動脈瘤の治療

胸部大動脈瘤の治療法は、主に次の3つです。

  • 外科手術
  • ステントグラフト内挿術
  • 内科治療

治療の目的は、動脈瘤の破裂を防ぐことです。

破裂しやすい動脈瘤の特徴は「最も太い部位が5.5cmを超えている」「半年で5m以上拡大している」「嚢状の形である」です。これらの状態のときに、外科手術やステントグラフト内挿術を検討します。

(出典:一般社団法人 日本循環器学会 「2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン」

外科手術

外科手術は、動脈瘤を直接取り除き人工血管に置き換える方法で、特に動脈瘤が破裂する危険性が高い場合や、症状を引き起こしている場合に選択します。

ヘミアーチ置換術や部分弓部置換術、全弓部置換術などがあります。

外科手術では、血流を一時的に止めなければならないため、人工心肺装置を使用して血液を循環させながら行う場合が多いです。

手術後は脳梗塞や下半身麻痺などの合併症が起こる可能性があります。
また、動脈瘤が破裂する前に手術した場合は手術による死亡率が1.2〜8.8%とされていますが、動脈瘤が破裂した後での緊急手術では、死亡率が19.4〜50%と高くなります。

(出典:日本血管外科学会 「血管の病気(血管病)について 胸部大動脈瘤って?」

ステントグラフト治療

ステントグラフト治療は、カテーテルを用いてステントと人工血管を組み合わせた器具(ステントグラフト)を血管内に挿入し、動脈瘤の拡大を防ぐ治療法です。

外科手術に比べて、ステントグラフトでの治療は身体への負担が少なく、回復が早いのが特徴です。

しかし、完全に動脈瘤を取り除くわけではないため、定期的な検査が必要になります。術後はエンドリーク(血液漏れ)の有無や、動脈瘤の大きさの変化を確認する必要があります。

内科治療

胸部大動脈瘤が小さい場合や手術のリスクが高い場合には、内科的な治療が選ばれることがあります。

血圧を下げる薬を飲んだり、生活習慣を改善したりして動脈瘤の拡大の進行を抑えることが目的です。

胸部大動脈瘤になりやすい人・予防の方法

胸部大動脈瘤は、破裂すると死に至る可能性があるため、早期発見と予防が重要です。

胸部大動脈瘤になりやすい人の特徴は、以下の通りです。

  • 高血圧や動脈硬化がある人:高血圧は血管に対する圧力を増加させ、動脈瘤の破裂のリスクを高める。特に、血圧管理が不十分な場合、動脈瘤の形成が促進される
  • 喫煙者: 喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を進行させる
  • 家族歴のある人: 大動脈瘤や心血管疾患の家族歴がある場合、リスクが高まる
  • 高齢者: 加齢に伴い、血管が弾力を失い、動脈瘤が発生しやすくなる

高血圧がある人は、定期的に血圧を測定し、医師の指示に従って治療を行うことが重要です。生活習慣の見直しや薬物療法を通じて、血圧を正常に保つようにする努力が欠かせません。

また、喫煙を続けることは、心血管系に悪影響を及ぼすため、禁煙することでリスクを大幅に減少させることができます。病院や市区町村で実施されている禁煙支援プログラムを利用することも効果的です。

ほかにも、バランスの取れた食事や定期的な運動、ストレス管理は、動脈瘤のリスクを減少させます。

定期的な健康診断を受けたり、必要に応じて医療機関を受診したりして、医師に相談しながら胸部大動脈瘤を予防することが重要です。


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