

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
血栓性静脈炎の概要
血栓性静脈炎(けっせんせいじょうみゃくえん)は、静脈の中に血のかたまり(血栓)ができて、その部分に炎症が起こる病気です。特に足の静脈に起こることが多く、赤く腫れて熱をもったり、押すと痛みが出たりすることが特徴です。 「静脈」は心臓へ血液を戻す血管で、動脈と違って血液の流れがゆっくりしているため、血栓ができやすい構造です。この静脈の中に血のかたまりができて、そのまわりに炎症が起きることで、皮膚の表面に近い部分に赤いすじのような腫れが見えることもあります。 血栓性静脈炎は一見すると「単なる腫れや赤み」に見えることもありますが、まれに重症化して深部静脈血栓症や肺塞栓症といった命に関わる病気につながることもあるため、見逃してはいけない病気のひとつです。血栓性静脈炎の原因
この病気が起こる原因は、大きく分けて3つあります。ひとつは「血液の流れが滞ること」、ふたつめは「血管の壁が傷つくこと」、そして「血液が固まりやすくなる体質や状態」です。これらは「Virchow(ウィルヒョウ)の三徴」と呼ばれ、血栓ができる要因として知られています。 長時間動かずに座っていたり、立ちっぱなしの状態が続いたりすると、足の血液が停滞してしまいます。たとえば、飛行機の長時間移動(エコノミークラス症候群)や、デスクワーク中心の生活、ベッドで寝たきりの状態などは、血液の流れを悪くして血栓ができやすくなる状況です。 また、外傷や手術、点滴や注射の刺激などによって血管の内側が傷つくと、そこに血小板が集まり、血栓が形成されることがあります。静脈瘤(じょうみゃくりゅう)という血管がふくらんでしまう病気がある人は、もともと血管の壁がもろく、傷つきやすくなっています。 さらに、妊娠やピルの服用、がん、遺伝的な要因などによって血液が固まりやすくなる体質になっている人は、同じように血栓を作りやすくなります。これらが複雑に関係し合って、血栓性静脈炎が発症するのです。血栓性静脈炎の前兆や初期症状について
血栓性静脈炎の初期症状は、まず皮膚の表面に近い血管に沿って赤く腫れたような部分が現れることです。この部分は熱をもち、触れると痛みを感じることが多くなります。皮膚のすぐ下の血管に血栓ができることで、炎症が表面に出やすいのが特徴です。 場合によっては、赤みが帯状に広がったり、すじのように見えたりすることもあり、「虫刺されかな?」と思って見過ごしてしまうこともあります。しかし、日を追うごとに腫れや痛みが強くなってきた場合には、血栓性静脈炎を疑う必要があります。 深い静脈に血栓ができた場合(深部静脈血栓症)は、皮膚の表面には目立った変化がないこともありますが、足全体が腫れて重だるく感じたり、強い痛みを伴ったりすることがあります。もしこれらの血栓が血流に乗って肺に流れてしまうと、命に関わる肺塞栓症を引き起こすおそれがあるため、特に注意が必要です。血栓性静脈炎の検査・診断
診断は、まず医師の視診と触診によって行われます。赤く腫れている部分がどこにあるのか、硬さや熱感、痛みの有無を確認することで、ある程度の見当がつきます。 ただし、正確にどこに血栓ができているのか、どの程度深い部分まで炎症が及んでいるのかを把握するためには、超音波(エコー)検査が有効です。超音波で静脈の中を観察することで、血栓の有無や血液の流れの状態を確認できます。 また、血液検査で「Dダイマー」という数値を調べることもあります。Dダイマーは血栓が分解されるときに出てくる物質で、この数値が高いと、体内のどこかで血栓ができている可能性が高くなります。ただし、これだけでは確定診断にはならないため、画像検査とあわせて評価することが大切です。 深部静脈まで炎症が及んでいる疑いがある場合や、肺塞栓症の症状(息切れ、胸痛など)がある場合には、CT検査や血液の酸素濃度の測定が行われることもあります。血栓性静脈炎の治療
治療の第一の目的は、これ以上血栓を増やさず、炎症を抑えることです。軽症で表在の静脈にとどまっている場合には、足を少し高くして安静にし、炎症を和らげるために冷やしたり、消炎鎮痛剤を使用したりします。弾性ストッキングを使用して血流を改善するのも効果的です。 一方で、深部静脈まで血栓が及んでいる場合や、血栓が大きくなるおそれがある場合には、血液を固まりにくくする「抗凝固薬(こうぎょうこやく)」が使われます。代表的なものとして、ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)と呼ばれる薬があります。 抗凝固薬は、血栓がこれ以上大きくなるのを防ぎ、すでにある血栓が自然に溶けていくのを助ける働きがあります。薬の種類によっては、定期的に血液の状態を確認するための採血が必要になります。まれに、血栓を直接溶かす「血栓溶解療法」や、カテーテルによる治療が選択されることもありますが、これは重症例に限られます。 いずれの治療においても、再発を防ぐためには生活習慣の見直しや予防策がとても重要です。血栓性静脈炎になりやすい人・予防の方法
この病気になりやすいのは、まず長時間同じ姿勢で過ごす人です。デスクワークや飛行機・車での長距離移動が多い人は、足の筋肉が動かず血流が滞りやすくなるため注意が必要です。とくにエコノミークラス症候群のように、長時間足を動かさずに座っていることで発症するケースが知られています。 また、妊娠中や出産後、がんの治療中、ピルを使用している人など、血液が固まりやすい状態にある人もリスクが高くなります。高齢者や肥満のある人、喫煙習慣のある人も、血栓ができやすいとされています。 予防のためには、こまめに足を動かすことが非常に重要です。たとえば、長時間座っている場合でも、1時間に一度は立ち上がって歩いたり、足首を上下に動かすだけでも血流が改善します。飛行機や新幹線では、通路を少し歩いたり、つま先立ちをしたりする工夫が大切です。 水分を十分に摂ることも予防に役立ちます。脱水状態では血液が濃くなってしまい、血栓ができやすくなるからです。また、肥満や喫煙、高血圧などの生活習慣病の管理も、長期的に血栓のリスクを減らすうえで欠かせません。 一度血栓性静脈炎になったことがある人は、再発のリスクも高まるため、医師の指示のもとで再発予防の対策を続けることが大切です。特に弾性ストッキングや薬物療法が処方された場合は、自己判断で中断せず、継続的なフォローアップが望まれます。関連する病気
参考文献




