

監修医師:
眞鍋 憲正(医師)
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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。
目次 -INDEX-
高カリウム血症の概要
カリウム(K)は、私たちの身体の中でとても大切な役割を果たしています。カリウムは、筋肉や心臓の働きを助けるために必要なミネラルです。身体の中には体重1kgあたり50mEqのカリウムがあり、そのうち98%は細胞の中に、2%は細胞の外にあります。 高カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が異常に高い状態を指します。通常、カリウムは体内の細胞内液に多く存在し、細胞外液中のカリウム濃度はとても低く保たれています。カリウムは神経伝達や筋収縮、心筋の機能維持に重要な役割を果たしており、そのバランスが崩れると深刻な健康問題を引き起こすことがあります。具体的には、血清カリウム濃度が5.0 mEq/Lを超えると高カリウム血症と診断され、7.0 mEq/Lを超えると致命的な状態となることがあります。高カリウム血症の原因
高カリウム血症の原因はさまざまであり、主に以下の要因が考えられます。 1.腎機能の低下 腎臓はカリウムの排出を担う重要な器官です。腎不全や慢性腎臓病などで腎機能が低下すると、体内にカリウムが蓄積しやすくなります。 2.薬剤の影響 ACE阻害薬やカリウム保持性利尿薬など、一部の薬剤はカリウムの排出を抑制し、血中濃度を上昇させる可能性があります。 3.カリウムの過剰摂取 カリウムサプリメントの過剰摂取やカリウムを多く含む食事を続けると、高カリウム血症を引き起こすことがあります。 4.細胞の破壊 重大な外傷ややけど、横紋筋融解症などの状況では、大量のカリウムが細胞内から放出され、血中濃度が急上昇します。高カリウム血症の前兆や初期症状について
高カリウム血症の初期症状は、軽度の場合ほとんど自覚症状がないことが多いですが、カリウム濃度が上昇すると以下のような症状が現れることがあります。 1.筋力低下 手足の筋力が低下し、重だるさや疲労を感じることがあります。 2.感覚異常 手足のしびれや刺すような痛みを感じることがあります。 3.心血管系の症状 動悸や不整脈、胸痛などが現れることがあり、重度の場合は心停止に至ることもあります。 4.消化器系の症状 吐き気、嘔吐、腹痛などが見られることがあります。 高カリウム血症は基本的に軽症時は無症状であり、症状が出たとしても特異的なものではありません。症状だけで高カリウム血症を疑うことは難しいので、それまでみられなかった症状が出た際には、まず内科、またはかかりつけ医を受診するようにしましょう。高カリウム血症の検査・診断
高カリウム血症の診断は、主に血液検査によって行われます。具体的には、血清カリウム濃度の測定が最も重要です。正常なカリウム濃度は3.5〜5.0 mEq/Lであり、これを超えると高カリウム血症と診断されます。また、電解質バランスの崩れや腎機能の低下を評価するために、その他の血液検査や尿検査が行われることがあります。 血清カリウム値が5.5~6.5 mEq/Lを超えると、心電図に異常が出やすくなります。 1.初期の変化 PR間隔の延長: 心臓の電気信号が伝わる時間が長くなります。 QT間隔の短縮: 心臓の電気信号が戻る時間が短くなります。 T波の増高: 心電図のT波が高くなります。 2.進行した場合の変化 QRS幅の拡大: 心電図のQRS波が広がります。これは心臓の電気信号の伝わり方に異常があることを示します。 P波の消失: 心電図のP波が見えなくなります。これは心臓の上部が正常に動いていないことを示します。 3.重症の場合 心室細動: 心臓が不規則に震え、正常に血液を送り出せなくなります。 心停止: 心臓が完全に止まり、命に関わる緊急事態です。 これらの異常が起こると、心臓のリズムが乱れて命に関わる状態になることがあります。早期に発見し、治療を行うことが重要です。高カリウム血症の治療
治療の第一は原因の除去・軽減です。程度と状況に応じて血清 K 濃度下降が必要な場合には 介入を行います。緊急対応
高カリウム血症が緊急事態となる場合、迅速な対応が必要です。以下のステップに従って治療を行います。 細胞膜の安定化 カリウムが高いと心筋の興奮性が増し、不整脈を引き起こすリスクが高まります。これを防ぐために、カルシウムグルコネートを静脈注射します。カルシウムは心筋細胞膜を安定化させ、不整脈のリスクを低減します。 細胞内へのカリウム取り込み促進 インスリンとブドウ糖の投与により、カリウムを細胞内に移動させることができます。インスリンはカリウムを細胞内に取り込み、血中カリウム濃度を低下させます。ブドウ糖を同時に投与することで、低血糖を防ぎます。また、β2刺激薬(通常は吸入薬)も使用され、これもカリウムを細胞内に移動させます。 体外へのカリウム排泄 カリウムを体外に排出するために、以下の方法が使用されます。 ループ利尿薬: 尿の量を増やし、カリウムを排出します。 透析: 腎臓が正常に機能しない場合、透析を用いて血液中のカリウムを直接除去します。慢性高カリウム血症の管理
慢性的な高カリウム血症の場合、以下の方法で管理します。 食事制限 カリウムの摂取を制限することで、血中カリウム濃度を管理します。カリウムが多く含まれる食品(バナナ、ほうれん草、じゃがいもなど)を控えるようにします。 腎からの排泄促進 腎機能がある程度保たれている場合、ループ利尿薬やサイアザイド利尿薬が使用されます。これらの薬は尿の量を増やし、カリウムを排出します。 代謝性アシドーシスの治療 代謝性アシドーシスが併発している場合、重炭酸ナトリウムを投与します。これにより、血液の酸性度を調整し、カリウムの排出を促進します。 陽イオン交換樹脂 他の治療法で効果が不十分な場合、陽イオン交換樹脂を使用します。これにより腸管でのカリウム吸収が抑えられ、便として排出されます。ただし、便秘や腸管壊死などの副作用があるため、使用には注意が必要です。 高カリウム血症の治療は、個々の患者さんの状態に応じて適切な方法を選択し、迅速かつ効果的に行うことが重要です。特に緊急の場合は、医療機関での迅速な対応が必要です。高カリウム血症になりやすい人・予防の方法
高カリウム血症になりやすい人は、以下のような特徴があります。 1.腎機能に問題がある人 慢性腎臓病や腎不全の患者さんは、カリウムの排出が不十分になりやすいです。 2.特定の薬剤を服用している人 カリウム保持性利尿薬やACE阻害薬などを使用している人は注意が必要です。 3.カリウムを多く含む食品を摂取する人 バナナ、アボカド、ほうれん草などカリウムが豊富な食品を大量に摂取する人はリスクが高まります。 予防のためには、以下の対策が有効です。 1.定期的な健康診断 特に腎機能のチェックは重要です。早期発見と管理が高カリウム血症の予防に繋がります。 2.バランスの取れた食事 カリウムの摂取量を適切に管理し、偏った食生活を避けることが大切です。 3.医師の指導に従う 特定の薬剤を使用している場合、医師の指示に従い、自己判断での薬の増減は避けましょう。 高カリウム血症は適切な管理と治療によって予防と改善が可能です。日常生活での注意と定期的な医療チェックを欠かさずに行うことで、健康を維持しましょう。参考文献
- 臨床雑誌内科 119巻 2号 pp. 323-328(2017年02月)
- medicina 58巻 4号 pp. 198-201(2021年04月)




