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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

下肢静脈瘤の概要

下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)とは、下肢の静脈が異常に膨らんで瘤(こぶ)状に浮き出る病気です。下肢の血流の逆流を防ぐ役目をしている静脈の弁が機能不全を起こし、静脈が伸展、屈曲、蛇行、拡張の状態になり、瘤を作ります。
下肢静脈瘤は自然には治りにくく、時間とともに進行する傾向があります。中年期以降の女性に多く見られ年齢とともに増加し、小さいものであれば日本人の10人に1人が持つ病気といわれています。主な症状は、血管が浮き出る、足のだるさや重さ、かゆみ、痛みなどがあり、進行すると皮膚炎や潰瘍を引き起こすこともあります。さらに、特徴的な見た目に、精神的な苦痛を感じている方もいます。
また、下肢静脈瘤は伏在(ふくざい)型静脈瘤、側枝(そくし)型静脈瘤、網目状静脈瘤、クモの巣型静脈瘤の4つのタイプに分けられます。
伏在型静脈瘤は、足の表面の太い幹となる伏在静脈の血管で起こり、太ももからふくらはぎにかけて血管が浮き出てきます。手術による治療が必要になることが少なくありません。側枝型静脈瘤は、伏在静脈から枝分かれした細い血管で起こり、局所的に血管が浮いたりコブが出てきます。網目状静脈瘤は、太さ2-3mmの細い静脈で起こり、青っぽい網目のように見えます。クモの巣型静脈瘤は、太さ0.1-1.0mmの細い血管で起こり、赤色や青色、赤紫っぽい糸のように見え、多くは太ももに出現します。これらの症状に対処するためには、早期の診断と治療が重要です。

下肢静脈瘤の原因

下肢静脈瘤の主な原因は、静脈の逆流を防ぐ弁が機能しなくなることで血液が逆流しやすくなり、足の静脈に血液が溜まり、血管が拡張します。その具体的な要因は、以下のとおりです。
まず、遺伝的要素が挙げられます。両親がともに下肢静脈瘤を持っている場合は、その子どもの約90%が発症するとされています。片方の親が持っている場合は約25〜62%、両親とも持っていない場合は約20%の発症率とされています。
また、妊娠中は、ホルモンの影響、血液量や体重の増加、大きくなった子宮による静脈の圧迫により、静脈にかかる負担が増し、発症リスクが高まります。出産経験のある女性の2人に1人が発症するともいわれています。また、出産回数が多い程、発症や悪化のリスクが高まります。
その他、長時間の立ち仕事やデスクワークも原因のひとつと考えられています。長時間の立ち仕事は、重力の影響を受けて身体の水分が足にたまりやすく、ふくらはぎのポンプ機能が低下し血流が滞りやすくなっています。1日に10時間以上、特にあまり動かないまま立っている人、座りっぱなしで仕事をしているデスクワークの方も下肢静脈瘤が重症化しやすいため、注意が必要です。
さらに、肥満や便秘も下肢静脈瘤に関与しています。肥満になる要因である運動不足が影響しており、筋肉のポンプ機能が低下して、下肢静脈瘤を起こしやすくなります。便秘は、便の滞留と排便時の強いいきみにより静脈に負担がかかり、下肢静脈瘤を悪化させやすくなります。そして、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の後遺症で、下肢静脈瘤が起こるケースもあります。

下肢静脈瘤の前兆や初期症状について

下肢静脈瘤の初期症状として、足の血管が浮き出て見える、足が重く感じる、むくみ、だるい、かゆみ、痛みなどがあります。症状は膝から下のふくらはぎに多く見られる傾向にあります。
これらの症状が進行すると、血管がさらに膨らみ、こぶのようになります。また、夜間のこむら返りや湿疹、血栓性静脈炎、皮膚潰瘍、色素沈着、皮膚硬結が見られることもあります。
症状が表れた場合は、血管外科や心臓血管外科、循環器内科などで治療が受けられます。

下肢静脈瘤の検査・診断

下肢静脈瘤の診断には、ドプラー血流計、カラードプラー検査、容積脈波検査などの検査が用いられます。
ドプラー血流計は、血管に超音波を当てて血液の流速を音で確認し、血液の逆流を調べます。カラードプラー検査は、超音波(エコー)を利用して血液の流れをカラー画像で表示し、視覚的に逆流を確認します。血管の内径、血流の流速を測定できます。容積脈波検査は、足にカバーを巻いてつま先立ち運動をし、静脈の機能を詳しく調べます。
また、近年は造影剤を使わずに、単純CT検査にて下肢静脈瘤の病気の進行度を判定できます。

下肢静脈瘤の治療

治療法には、保存的療法、硬化療法、手術などがあります。

保存的療法(圧迫療法)

保存的療法とは、弾性ストッキングを用いて静脈瘤の悪化や再発を予防するための治療法です。弾性ストッキングは、足首部分に強い圧力がかかり、心臓に向かうにつれて圧力が弱くなる設計になっています。この圧迫により、血液の逆流や停滞を抑制します。弾性ストッキングを履くことで、足のむくみや重さ、だるさ、痛みなどの症状を軽減します。

症状を軽快するには有効な治療方法ですが、静脈瘤を消失させることはできないため、ほかの療法と併用で用いられます。
また、弾性ストッキングの治療を専門的に指導する、弾性ストッキングコンダクターが在籍している病院もあります。

硬化療法

静脈に硬化剤を注射し、血管を閉塞させる方法です。入院をせずに外来で治療が行え、痛みや出血もほぼないため、身体への負担が少ない療法です。色素沈着を残すケースもあります。

体外照射レーザー治療

体外照射レーザー治療は、下肢静脈瘤の一種である青や赤の細かい血管拡張、具体的には網目状静脈瘤やクモの巣状静脈瘤に対して行われる治療法です。従来は静脈瘤に対して硬化療法が主に用いられてきましたが、特に赤い血管拡張に対しては、近年では体外からレーザーを照射する治療法が用いられることも増えてきました。

手術

下肢静脈瘤の手術には、ストリッピング術、高位結紮術(こういけっさつじゅつ)、血管内焼灼術(ラジオ波、レーザー)などの方法があります。

ストリッピング術は、皮膚を小さく切開して拡張または瘤化した静脈を、引き抜いて取り除く方法です。病状の進行した患者さんに対して実施されており、再発率が低いとされています。リスクは低い手術であり、日帰りまたは一泊入院でおこなわれます。

高位結紮術は、逆流を防ぐために血管を縛る手術です。静脈瘤の部位により、その血管の高位(頭側)を縛って、瘤になっている血管に血流を流れなくする手術です。高位結紮術は、その病変によりストリッピング術と同時に行われる場合もあります。

血管内焼灼術は、超音波で血管の位置を確認しながらカテーテルを挿入し、高周波やレーザーで静脈の内壁を焼灼する治療法です。治療により、血管の内腔を閉鎖し、血液の逆流を防ぎます。この手術は局所麻酔や大腿神経ブロックなどの麻酔方法を使用して行われます。

これらの治療は、症状や病状に応じて選択されます。

下肢静脈瘤になりやすい人・予防の方法

下肢静脈瘤になりやすい人は、長時間の立ち仕事をする人(調理師・美容師・販売員など)、デスクワークなどであまり足を動かさない人、肥満、妊婦、高齢者、遺伝的要因を持つ人などが挙げられます。

予防は、以下のような方法が挙げられます。
①適度な運動を行い、長時間立ち続けることを避けましょう。
②仕事や作業の合間にかかとの上げ下げ、ふくらはぎのストレッチやマッサージを行いましょう。お風呂でのマッサージもおすすめです。
③弾性ストッキングの着用は、血液の滞留を防ぎます。
④足を高くして休むことで、足から心臓へ血流が流れやすくなります。
⑤食事面では、繊維質の多い食事を摂り、便秘を防ぐことが推奨されます。
⑥定期的に医師の診察を受けることも、予防につながります。

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