

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
目次 -INDEX-
D型肝炎の概要
D型肝炎は、D型肝炎ウイルス(HDV)によって引き起こされる肝臓の炎症性疾患です。
このウイルスは、B型肝炎ウイルス(HBV)が存在しないと複製されないため、HBVに感染している方のみがHDVに感染する可能性があります。
一般のウイルスは外殻(capsid)またはエンベロープが、遺伝情報(DNAまたはRNA)を包み込むような構造をしています。ウイルスは自身の設計図である遺伝情報を持っていますが、自分自身を複製する仕組みはないため、ほかの生物の仕組みを利用して増殖します。
しかしD型肝炎ウイルスはエンベロープの材料としてB型肝炎ウイルスのパーツを必要としますが、それは自身の遺伝情報であるRNAに記載されていません。つまりB型肝炎ウイルスとその構成要素がある環境でないと複製ができないため、ウイルスとしても不完全であるとして、欠損ウイルスまたはサテライトウイルスなどと呼ばれています。
HDVの感染様式としては、HBVの同時感染(共感染)や、既存のHBV感染者が後からHDVに感染する重複感染のいずれかです。世界的にはHBs抗原陽性者の5%がHDVにも重複感染していると推定されていますが、有病率は地域によって異なります。地中海、中東、パキスタン、中央、アフリカの一部地域で有病率が高いとされますが、日本においてはD型肝炎はHBs抗原陽性者の0.6%と報告されており、他地域との比較では低頻度とされています。
D型肝炎の原因
D型肝炎の原因は、HDVの感染です。ただしHDVは単独では増殖できず、HBVの助けを借りて複製します。そのため、HBVに感染していない方はHDVに感染できません。
HDVの感染経路はHBVと同様で、主に感染した血液や体液を介して伝播します。具体的には、注射器の共有、輸血、母子感染、無防備な性行為などが挙げられます。特に、医療行為における不適切な器具の使用や、衛生管理が不十分な環境でのタトゥーやピアスの施術もリスク要因となります。
D型肝炎の前兆や初期症状について
D型肝炎の症状は、ほかのウイルス性肝炎と類似しており、感染後3〜7週間で現れることが一般的です。主な症状としては以下となります。
- 発熱
微熱から高熱まで、個人差があります - 全身の倦怠感
強い疲労感やだるさを感じることがあります - 食欲不振
食事をとる気が起きず、体重減少を伴うこともあります - 吐き気や嘔吐
胃の不快感や実際に嘔吐することがあります - 尿の色の変化
尿が濃い茶色や赤褐色になることがあります - 便の色の変化
通常よりも薄い色や白っぽい便が出ることがあります - 黄疸
皮膚や眼球が黄色くなる現象で、肝機能の低下を示します
これらの症状は急性肝炎の典型的なものであり、通常は数週間で回復します。
しかし、B型肝炎との同時感染である共感染をした一部の方では、劇症肝炎と呼ばれる重篤な状態に進行することがあります。劇症肝炎は、正常の肝臓が短期間で広汎に壊死を起こし、進行性の黄疸や出血傾向、そして肝性脳症と呼ばれる意識障害など重篤な肝機能不全が出現し死亡率も高い病態です。
一方、慢性的なHBV感染者がHDVに重複感染した場合、深刻な肝機能低下をきたす肝硬変へ進行しやすくなり、肝硬変は肝臓がんのリスク因子となるため、D型肝炎は重篤な肝疾患の要因となります。
D型肝炎は急性肝炎を疑う状況から診断される疾患であり、急性肝炎を疑わせる症状があった場合は内科を受診してください。
D型肝炎の検査・診断
D型肝炎は急性肝炎であり、まずは医師が問診や診察で肝炎の可能性を確認します。
1. 病歴の確認
最近の活動や、感染の可能性がある状況(性行為、入れ墨、薬物注射など)について詳しく尋ねます。
2. 身体検査
皮膚や粘膜の視診による黄疸の確認、腹部触診による肝臓や脾臓の腫れ、などを確認します。
3. 画像検査
急性肝炎が疑われる場合、超音波検査で肝臓や胆嚢の状態を確認します。
4. 抗体測定
急性肝炎を疑う場合、通常はA・B・C型ウイルスそれぞれについて血液検査を行います。
- A型肝炎ウイルス:IgM-HAV抗体
- B型肝炎ウイルス:HBs抗原、IgM-HBc抗体
- C型肝炎ウイルス:HCV抗体およびHCV -RNA PCR検査
B型肝炎が検出され、かつ臨床像が重篤でD型肝炎の感染が疑われた場合、HDVに対するIgM抗体を追加することでD型肝炎と診断できます。
しかし、HDVの診断に必要な検査キットは広く普及しておらず、また、HDV RNAの測定方法も標準化されていないため、検査環境によっては診断が難しい場合があります。そのため、専門の医療機関での検査が推奨されます。
D型肝炎の治療
現時点ではHDVに対する特効薬は存在せず、治療選択肢も限られています。現在、D型肝炎の治療には主に以下の方法が用いられます
ペグインターフェロンα療法
ウイルスの増殖を抑える効果がある薬剤で、少なくとも48週間の投与が推奨されています。ただし、治療効果は個人差があり、副作用も報告されています。特に、肝硬変が進行している患者さんや、精神疾患を持つ患者さん、自身の免疫が過剰に働く自己免疫性疾患を持つ患者さんには適さない場合があります。
新規治療薬の開発
近年、ブレイブチド(Bulevirtide)という新しい薬剤が開発され、HDV治療において有望視されています。この薬剤は、HDVの細胞への侵入を阻害する働きがあり、治療効果が期待されています。しかし、さらなる研究と臨床試験が必要とされています。
D型肝炎は、特効薬が存在せず治療選択肢も限られるため、感染予防が重要です。
D型肝炎になりやすい人・予防の方法
HDVはHBVが存在しないと感染できないため、HBV感染がHDV感染のリスクです。
HDVの感染予防には、HBVの予防が不可欠です。HBVワクチンの普及により、HDV感染のリスクを大幅に低減することが可能です。
D型肝炎の感染リスクが高い方
- HBV感染者
HDVはHBVが存在しないと感染できないため、HBV感染者はHDV感染のリスクが高くなります。 - 薬物の静脈注射を行う方
注射器の共有によって血液を介した感染リスクが高まります。 - 無防備な性行為を行う方
感染者との性的接触によってHDVが伝播する可能性があります。 - 輸血や医療処置を受ける機会の多い方
特に適切な感染予防対策が行われていない環境ではリスクが高まります。 - 衛生管理が不十分な場所でタトゥーやピアスを施術する方
不衛生な器具を使用すると、感染の危険性が増します。
予防の方法
HBV感染がHDV感染のリスクであることから、予防もHBV感染予防と同じです。
- B型肝炎ワクチンの接種
HBVに感染しなければHDVにも感染しないため、B型肝炎ワクチンを接種することが有効な予防策です。 - 清潔な注射器を使用する
薬物の静脈注射を行う場合は、清潔で使い捨ての器具を使用することが重要です。 - 安全な性行為を行う
コンドームの使用などで性感染症のリスクを減らすことができます。 - 信頼できる医療機関で医療処置を受ける
輸血や手術を受ける際は、適切な感染対策が施されている施設を選びましょう。 - 衛生的なタトゥー・ピアス施術を受ける
器具の消毒が徹底されている施設を利用することが重要です。




