

監修医師:
林 良典(医師)
消化器内科
呼吸器内科
皮膚科
整形外科
眼科
循環器内科
脳神経内科
眼科(角膜外来)
目次 -INDEX-
アルコール性肝疾患の概要
アルコール性肝炎は、長期間の過剰な飲酒によって引き起こされる肝臓の炎症性疾患です。初期には症状が乏しいため気づきにくい一方で、進行すると肝硬変や肝臓がんに至る可能性があります。
アルコール性肝疾患の原因
アルコール性肝炎は、主にアルコールの代謝過程で生じる肝細胞へのダメージによって発症します。
主な原因
- エタノール代謝による肝細胞障害
飲酒によって摂取されたエタノールは肝臓で代謝されます。この過程で生じるフリーラジカルが肝細胞を傷つけ、酸化ストレスを引き起こします。 - 腸内環境の変化と免疫系の過剰反応
過剰な飲酒は腸内細菌のバランスを崩し、腸管のバリア機能を低下させます。その結果、毒素が肝臓に流れ込み、炎症を引き起こします。 - 性別や遺伝的要因
女性は男性よりも少量の飲酒で肝炎を発症しやすい。アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)活性欠損者は、少量の飲酒でも肝臓へのダメージが大きくなります。 - その他のリスク要因
肥満や糖尿病などの基礎疾患があると、アルコール性肝炎の発症リスクが高まります。
アルコール性肝疾患の前兆や初期症状について
初期症状
アルコール性肝炎の初期段階では、自覚症状が乏しく、以下のような軽度の症状が見られることがあります。
- 無症状(アルコール性脂肪肝の段階)
- 吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振
- 全身倦怠感
- 微熱
進行後の兆候
病気が進行すると、以下のような症状が現れます。
- 黄疸:皮膚や白目が黄色くなる。
- 肝腫大:右上腹部に腫れや痛みを感じる。
- 腹水:お腹に水がたまる。
- 浮腫:顔や足がむくむ。
- 意識障害:重症化すると肝性脳症が起こる。
症状が現れた際は消化器内科を受診しましょう。
アルコール性肝疾患の検査・診断
アルコール性肝炎の診断は、問診や血液検査、画像診断、必要に応じて肝生検を組み合わせて行います。診断の正確さを高めるためには、ほかの肝疾患との鑑別も重要です。
診断基準
日本では、「JASBRAアルコール性肝障害診断基準(2011年版)」が用いられています。この基準では以下の条件を満たす場合にアルコール性肝障害と診断されます。
- 長期的な過剰飲酒
通常、5年以上にわたり1日平均純エタノール60g以上の飲酒を続けていることが条件です。女性やALDH2活性欠損者では40g程度でも発症する可能性があります。 - 禁酒による改善
禁酒を継続すると、血清AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP値が改善すること。 - ほかの慢性肝疾患の除外
肝炎ウイルスマーカー(B型肝炎、C型肝炎など)や抗ミトコンドリア抗体、抗核抗体が陰性であることを確認します。
検査項目
アルコール性肝炎の診断を補助するために、以下の検査が行われます。
血液検査
- 肝酵素の上昇
AST、ALT、γ-GTP値が上昇します。アルコール性肝障害ではAST優位(AST:ALT比が2:1に近いことが多い)が特徴です。 - MCV(平均赤血球容積)の増加
長期飲酒による影響を反映します。 - IgAの上昇
アルコール性肝障害でよく認められる特徴的な所見です。 - 血清フェリチンやPIVKA-IIの上昇
肝細胞のダメージや線維化の進行を反映します。 - 糖鎖欠損トランスフェリン(%CDT)
過剰飲酒のマーカー。ただし、保険適用外のため利用は限られています。
飲酒量の聴取
詳細な飲酒歴(飲酒頻度、量、パターン)を聞き取ります。家族からの情報も診断に役立つことがあります。
画像診断
- 腹部超音波検査
肝臓の脂肪化や形態変化を確認しますが、軽度の変化では診断が難しい場合もあります。 - CTやMRI
脂肪肝や肝硬変の有無を評価するために有用です。
肝生検
必要に応じて肝臓の組織を採取し、顕微鏡で観察します。肝障害の進行度や病態を正確に把握できますが、侵襲的な検査のため慎重に判断されます。
重症度判定
アルコール性肝炎の重症度を評価するために、いくつかのスコアが使用されます。
- Japan Alcoholic Hepatitis Score(JAS)
年齢、白血球数、プロトロンビン時間、血清クレアチニン値、総ビリルビン値などの項目を総合的に評価します。
10点以上:重症と判定され、積極的な治療が必要です。
8~9点:重症化のリスクが高く、注意深い経過観察が求められます。 - mDF(modified discriminant function)スコア
- MELDスコア(model for end-stage liver disease)
- GAHS(Glasgow Alcoholic Hepatitis Score)
- ABIC(Age, Bilirubin, INR, Creatinine)
- Lilleモデル
これらのスコアを用いることで、患者の状態に応じた適切な治療方針を決定します。
アルコール性肝疾患の治療
アルコール性肝疾患の治療では、禁酒が最も重要です。また、アルコール中心の生活により栄養状態が悪化したり、ミネラルバランスが崩れている患者さんが多いため、栄養療法を並行して行います。
栄養療法では、高タンパク質・高カロリーの食事を基本とし、必要に応じてビタミン剤やミネラル剤を補います。さらに、肝臓を保護する効果のあるウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤などの肝庇護薬を補助的に投与する場合もあります。
症状が進行して肝性脳症などが発生した場合は、これらの症状に対する治療も行います。重症化し末期肝硬変に至った場合には、肝移植が選択肢となることもありますが、その際には禁酒を継続していることが前提となります。
アルコール性肝疾患になりやすい人・予防の方法
アルコール性肝炎は、長期間にわたる過剰な飲酒が主な原因ですが、個人の体質や生活習慣もリスクに大きく影響します。ここでは、アルコール性肝炎になりやすい人の特徴と予防法を解説します。
アルコール性肝炎になりやすい人
以下の特徴を持つ人は、アルコール性肝炎を発症するリスクが高まります。
- 大量飲酒者
1日平均純エタノール60g以上の飲酒を続ける人は、アルコール性肝障害のリスクが高くなります。これは、350mlの缶ビール(アルコール度数6%)約3.5本に相当します。 - 女性
女性は男性よりも少ない量の飲酒で発症しやすく、肝硬変への進展リスクも高いです。体格差や性ホルモン(エストロゲン)の影響が関与しているとされています。 - ALDH2活性欠損者
アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)の活性が低い人は、少量の飲酒でも発症リスクが高いです。日本人の約4割がALDH2活性欠損者とされています。 - 肥満者
肥満は肝臓への負担を増やし、1日純エタノール60g未満の飲酒でも発症リスクを高めます。
アルコール性肝炎の予防法
アルコール性肝炎を予防するためには、飲酒量の管理と生活習慣の改善が重要です。
- 飲酒量を減らす
飲酒の目安
健康日本21では、1日あたり純エタノール摂取量を20g以下としています。ただし、体質や健康状態に応じてさらに減らすべき場合もあります。
休肝日を設ける
毎日飲酒している人は、週に1~2日の休肝日を作り、肝臓を休ませましょう。
ビンジドリンキングの回避
短時間に大量に飲む「ビンジドリンキング」は、肝臓に大きな負担をかけるため、避けるべきです。 - 栄養バランスの取れた食事
肝臓の回復を助けるために、栄養バランスの良い食事を心がけましょう。ビタミンやミネラル、たんぱく質を十分に摂ることが肝臓の健康維持に役立ちます。 - 定期的な健康診断
健康診断で肝機能検査を受けることで、早期に肝障害を発見できます。飲酒習慣がある人は、定期的な血液検査や画像診断を受け、肝機能の状態をチェックしましょう。 - 医療機関への相談
飲酒量が多い、または飲酒を減らせない場合は、医療機関でアルコール依存症のスクリーニングや相談を受けることをお勧めします。
その他の注意点
アルコール性肝炎は、放置すると肝硬変や肝不全に進行する可能性があります。飲酒習慣がある人は、自身の飲酒量や飲酒パターンを見直し、必要に応じて専門家の指導を受けることが重要です。
関連する病気
- アルコール性脂肪肝
- アルコール性肝炎
- アルコール性肝硬変
- 肝がん
- アルコール性膵炎
- 肝性脳症
- アルコール依存症
- メタボリックシンドローム
- 肝腎症候群
参考文献
- アルコール性肝障害診断基準2011年版(初版).アルコール医学生物学研究会(編),2012
堀江義則,山岸由幸,海老沼浩利,他:本邦におけるアルコール性肝炎の重症度判定のための新しいスコア




