急性ウイルス性肝炎

監修医師：
前田 広太郎（医師）

急性ウイルス性肝炎の概要

急性ウイルス性肝炎は、A～E型肝炎ウイルスに加え、様々なウイルスにより生じる肝障害・感染症です。ウイルスによる非特異的な症状に加えて、発熱、食思不振、悪心嘔吐、右上腹部痛などの消化器症状や、黄疸がしばしばみられます。自然治癒する場合もありますが、急性肝不全や慢性肝炎に進行する場合があります。血液検査では肝酵素の上昇を認め、原因ウイルスの同定するための血清学的検査を行います。治療は原因ウイルスにより支持療法、もしくは抗ウイルス薬の投与を行います。原因となるウイルスへの暴露を避けたり、一部の肝炎ではワクチンや免疫グロブリンによる暴露前・暴露後予防が可能です。

急性ウイルス性肝炎の原因

急性ウイルス性肝炎は、A～E型肝炎ウイルスによるものを示す場合が多いです。その他、単純ヘルペスウイルス（HSV）、水痘・帯状疱疹ウイルス（VZV）、エプスタイン・バーウイルス（EBV）、アデノウイルス、サイトメガロウイルス（CMV）など多様なウイルス感染により生じますが、頻度は少ないです。
A型肝炎ウイルス肝炎は世界中で最も頻度が高い肝炎ウイルスです。衛生環境が不良な地域・国で水や食品を介して糞口感染します。汚染された生貝の摂取が原因となることもあります。
B型肝炎ウイルス肝炎は2番目に頻度が高く、汚染された血液や血液製剤への暴露、性行為などの粘膜接触、母体からの垂直感染が原因となります。
C型肝炎ウイルス肝炎は、血液暴露による感染が最も頻度が高く、注射器の使いまわしや刺青、ボディピアスを介して感染する場合もあります。
D型肝炎ウイルス肝炎は血液暴露により伝播し、B型肝炎との同時感染で起こります。静注薬物使用者や、男性同士の性行為で感染することもあり、D型肝炎ウイルスの複製にはB型肝炎ウイルスの感染が不可欠です。
E型肝炎ウイルス肝炎は、水道の糞便汚染、糞口感染など途上国で発生しやすいゲノタイプ1型・2型と、加熱処理不十分な肉の摂取（豚、鹿）や、貝・甲殻類の摂取によるゲノタイプ3型・4型があります。

急性ウイルス性肝炎の前兆や初期症状について

ウイルス性肝炎は、感染直後の潜伏期は無症状であり、前駆期に非特異的な症状（食思不振、倦怠感、悪心嘔吐、発熱、右上腹部痛）や蕁麻疹や関節痛などが見られます。黄疸期に尿が暗色となり黄疸が出現し、肝腫大や脾腫が生じます。回復期の2~4週目で、黄疸が消失します。発症から4～8週で症状は自然消退しますが、黄疸の胆汁うっ滞による黄疸遷延や掻痒症が見られる場合もあります。Ｃ型肝炎やＡ型肝炎の小児では無黄疸性肝炎が見られることがあります。
A型肝炎では小児では無症状が多く、成人では70%以上で黄疸が生じます。2ヶ月程度で消失しますが、まれに劇症肝炎となる例もあります。
B型肝炎は無症候キャリアから劇症肝炎まで幅広い重症度が見られます。成人では5~10%がB型慢性肝炎となり、発症年齢が低いほど慢性化し、乳児では90%が慢性化します。
C型肝炎は急性期には無症候性であることが多く、劇症肝炎はまれです。75%が慢性化し、その20～30%が肝硬変に進行します。肝細胞癌の原因として最多です。
D型肝炎はウイルス保有率は地域間で大きく異なり、いくつかの国では風土病となっています。静注薬物使用者の感染リスクが比較的高いです。
E型肝炎は妊婦で重症化のリスクが高いとされます。

急性ウイルス性肝炎の検査・診断

血液検査でAST、ALT、ALP、ビリルビンをはじめとした肝胆道系酵素や、血小板、血清アルブミン、凝固系（プロトロンビン時間）を確認します。ウイルス血清学的検査としてIgM-HAV抗体、HBs抗原、IgM-HBc抗体、HCV抗体やHCV-RNAを検査します。B型肝炎ウイルスの感染が確認され、かつ重症例では、HDV抗体値を測定します。E型肝炎流行地域への渡航歴があればIgM-HEVも測定します。他のウイルスによる肝炎を疑う場合は他の血清学的ウイルス検査を追加します。

急性ウイルス性肝炎の治療

基本的には支持療法を行い、治療薬があるウイルスに関しては抗ウイルス薬などの薬剤を投与します。
A型肝炎では支持療法により自然軽快が望めます。
B型肝炎では経口抗ウイルス薬、ペグインターフェロンαで治療を行います。劇症化した場合は時に肝移植を要する場合があります。
C型肝炎では直接作用型抗ウイルス薬を投与することにより、慢性肝炎への移行を低減します。
D型肝炎は主に支持療法を行います。慢性D型肝炎に移行した場合はインターフェロンα、ペグインターフェロンといった治療を行う場合があります。
E型肝炎では支持療法を行い、慢性肝炎にはリバビリンを投与する場合もあります。

急性ウイルス性肝炎になりやすい人・予防の方法

A型肝炎は衛生状態の悪い水や食品、貝類を避けること、リスクの高い人に対しては暴露前のワクチン摂取も施行可能です。
Ｂ型肝炎はワクチン接種により予防可能です。暴露後に免疫グロブリンとワクチン接種を併用することで暴露後予防が可能です。また、注射針などでの血液暴露を避け、リスクの高い性行為を行わないようにすることも重要です。
C型肝炎は、静注薬物使用者が注射針を共有する際に起こることがあり、滅菌されていない器具による刺青やボディーピアスを避けるなどで暴露を予防します。
D型肝炎は、B型肝炎ワクチン接種によりB型肝炎の感染を予防することが予防に繋がります。
E型肝炎は不衛生な水場や食物、流行地域への渡航を避けること、標準予防策により糞口感染を防止し、食物を加熱や煮沸を行うことで予防できます。