監修医師:
伊藤 喜介(医師)
膵炎の概要
膵臓は胃の裏側に位置している臓器で、リパーゼやアミラーゼなどの消化酵素(膵液)を膵管を通して十二指腸に分泌したり、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを産生したりして、食事の分解と血糖値のコントロールを行う働きがあります。
膵炎は膵臓に炎症が起きている病態を指しますが、急性膵炎と慢性膵炎があり、それぞれ病態、原因や治療は異なります。
ここからはそれぞれに分けて解説をしていきます。
急性膵炎の概要
急性膵炎は何らかの原因でアミラーゼなどの膵臓の消化酵素が活性化して膵臓自身を消化(自己消化)してしまう病気のことです。
さらに消化酵素や炎症が膵臓の外部に広がり、周囲の臓器までダメージを与えることがあります。
慢性膵炎の概要
膵臓に小さな炎症が繰り返しおこった場合、膵臓の組織は徐々に破壊されます。
正常の細胞が壊れると、膵臓の組織は線維へと置き換わっていきます(線維化)。線維化が進行した膵臓は正常な組織が少なくなっていくので膵臓の機能が低下してしまい、このような状態を慢性膵炎と呼ばれます。
膵炎の原因
急性膵炎の原因
急性膵炎の原因としては以下のようなものがあります。
アルコール多飲
急性膵炎の原因の中で最も多く約40%の原因となります。
胆石(総胆管結石)
胆石が膵臓の中の胆管に詰まってしまい、その胆石が膵管を圧迫することで膵液が詰まってしまい炎症を起こします。胆石性膵炎とも呼ばれます。
膵がん
膵がんが原因で膵管が閉塞してしまった場合、膵炎を引き起こすことがあります。
医原性
内視鏡検査や手術が原因となり、膵炎を引き起こすことがあります。
その他
上記以外にも、腹部外傷や感染症などで膵炎を引き起こすことがあります。また、膵炎のうち20%は特発性(原因不明)とされています。
慢性膵炎の原因
慢性膵炎は原因から以下の2つに分けられます。
アルコール性
慢性膵炎の主な原因としては急性膵炎と同じくアルコール多飲となります。
非アルコール性
アルコールによらない慢性膵炎を指しますが、このほとんどが特発性(原因不明)です。
また、慢性膵炎で痛みを生じる原因としては膵液が流れる膵管の中に石(膵石)ができて、膵液の流れが滞ることで発生します。
膵炎の前兆や初期症状について
急性膵炎の症状
急性膵炎となった場合、最も多い症状は膵臓が存在する部位であるみぞおち〜おへそ周囲に広がる突然発症する急激な上腹部痛と背部痛です。
腹痛はほぼ全ての患者さんで、背部痛は半数程度の患者さんで診られます。また、発熱や嘔吐がみられる場合もあります。重症化した場合は意識障害やショック状態となり、最悪の場合は死に至ることもあります。
慢性膵炎の症状
慢性膵炎は長い期間をかけて起こる疾患となりますので、段階を踏んで症状が変わっていきます。
早い時期(代償期)には、急性膵炎と同じようなみぞおちからおへそ付近の腹痛や背部痛といった症状が出ます。
その後慢性膵炎が進行してくると、膵臓の働きが低下していき(移行期)、最終的には膵臓がほとんど働かなくなってしまいます(非代償期)。
進行していくにつれて腹痛は軽くなってきて、患者さんによっては腹痛自体が無くなってしまうこともあります。
また、膵臓の働きが低下することによって、脂肪の分解ができず脂肪便や下痢になったり、糖尿病によって喉の渇きや頻尿となったりします。
気になる症状がある場合は消化器内科を受診しましょう。
膵炎の検査・診断
膵炎を疑った場合には以下のような検査を行います。これら検査によって膵炎の程度を軽症〜重症まで判定し、それぞれに対し治療をしていきます。
血液検査
採血で、膵臓の酵素であるアミラーゼ(膵アミラーゼ)値やリパーゼ値を測定します。
発症早期の膵炎では上昇することが多いですが、慢性膵炎の場合は正常な膵臓の細胞が少ないため上がらないこともあります。
また、特に急性膵炎の場合には重症度を判断するために、クレアチニン(Cre)、尿素窒素(BUN)、LDH、総蛋白(TP)や、カルシウム(Ca)、血小板(Plt)、ヘマトクリット(Ht)などの値を調べます。
腹部超音波検査(腹部エコー検査)
体への負担が少ない検査であるため、お腹の中の状態を見るためにまず行います。
膵臓の腫大や周囲への炎症が及んでいた場合の腹水などを観察することができます。
また、胆石や総胆管結石の評価を行うこともできます。
腹部造影CT検査
採血や超音波検査で膵炎が疑われた場合、CT検査を行います。
CTでは膵炎の確定診断をつけることができます。
また、膵炎の程度を評価することができ、重症度判定や予後の評価ができます。
MRI検査(MRCP)
MRIを用いて膵管や胆管の構造を観察することができます。
総胆管結石の確認や、膵管の拡張、閉塞、狭窄などを確認することができます。
内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
慢性膵炎の場合に行われることが多い検査です。
内視鏡(胃カメラに似た口から挿入するカメラ)を用いて、胆管の出口である十二指腸乳頭部から造影剤を用いて膵管の形や閉塞の程度を評価することができます。
急性膵炎でも、総胆管結石がある胆石性膵炎では治療目的で行われます。
膵炎の治療
急性膵炎の治療
急性膵炎の治療は以下を行います。
- 補液、輸液(点滴)
- 疼痛コントロール
- 絶食と栄養投与
- 内視鏡検査や手術(必要があれば)
膵炎程度によって治療の強度は異なりますので、治療を軽症〜中等症急性膵炎、重症急性膵炎に分けて説明していきます。
① 軽症〜中等症急性膵炎の治療
軽症急性膵炎でも入院を要する場合がほとんどです。治療としては絶食、点滴、鎮痛剤の投与を行います。
また抗生剤を投与する場合もあります。
症状が落ち着いていれば脂肪分の少ない食事から開始していきます。
② 重症急性膵炎の治療
重症急性膵炎であった場合は重篤な経過を呈すこともあるため集中治療室などで治療を行います。
ショック状態であった場合は血圧を上げる薬を用いたり、呼吸不全となり人工呼吸器が必要となったりする場合もあります。
また、栄養摂取が難しいことも多く、太ももや首の太い静脈から点滴を行う(中心静脈栄養)場合もあります。
慢性膵炎の治療
慢性膵炎の治療で最も大切なことは原因の除去です。
多くの場合は飲酒が原因ですので、まず断酒していただくことが必要です。その上で失ってしまった膵臓の働きを補う必要があり、消化酵素薬の内服や、インスリン注射を行う必要があります。
また、膵石によって痛みが出ていると考えられる患者さんについては、内視鏡で膵石の除去やステントという管を留置し膵液の流れをよくする処置をします。
まれではありますが、手術を行う場合があります。手術としては膵臓を膵管に沿って切り開いて石を除去し小腸をつなげてしまうという手術でFrey手術とよばれます。
膵炎になりやすい人・予防の方法
膵炎になる方の多くはアルコールが原因です。
特に1回でもアルコールによって膵炎を引き起こした方については断酒をお勧めします。
アルコールがやめられない方も多く、膵炎を繰り返し、糖尿病となり時に膵がんとなってしまう患者さんもいますので注意が必要です。
参考文献
- 急性膵炎診療ガイドライン2021
- 慢性膵炎診療ガイドライン2021
- 医学書院 専門医のための消化器病学 第3版