

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
腹水の概要
腹水とは、腹部の臓器と腹壁との間(腹腔)に、液体が異常に多量に蓄積した状態のことを言います。腹腔内には正常な人でも少量の腹水があり、臓器の滑らかな動きを助けています。しかし、さまざまな病気や病態により、腹水が過剰に蓄積することがあります。腹水の量が増えると、腹部の膨満感や痛み、呼吸困難などの症状が現れることがあります。
腹水の原因
腹水の原因は多岐にわたりますが、主なものとして以下が挙げられます。
肝硬変
腹水の最も一般的な原因の一つです。肝硬変とは、さまざまな原因によって肝臓が硬くなることであり、それによって肝臓への血流が阻害され、肝臓の周りである腹腔に液体が漏れ出します。肝硬変の原因には、慢性的なアルコール摂取やウイルス性肝炎(特にB型肝炎やC型肝炎)などが主な原因です。最近では、生活習慣病が原因となる脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も肝硬変の原因として増加しています。
心不全
心不全とは、全身に血液を送る心臓の機能が著しく低下した状態のことです。心不全により血液の循環が悪化すると、血管や臓器から水分が漏れ出して腹水となることがあります。特に右心不全では、静脈系の血液がうまく戻らず、腹部や下肢に液体が溜まることが多くなり、その結果、腹水が溜まることがあります。
腫瘍
腹部や骨盤内の悪性腫瘍(主にがん)が原因で腹水が貯留することがあります。特に卵巣がんや胃がん、膵臓がんなどの頻度が高くなっています。腫瘍が腹膜を刺激することで腹膜炎を引き起こし、その結果、腹水が発生します。また、リンパ管が腫瘍によって圧迫されたり詰まったりすることで、リンパ液の流れが阻害され、腹水が溜まることもあります。腫瘍を原因とした低栄養状態も腹水の一因となります。
腎不全
腎機能が低下した腎不全の状態になると、ナトリウムや水分の体外への排出が不十分となります。そのため、体内に余分な水分が溜まりやすくなり、腹水が溜まることがあります。
感染症
腹膜に菌が感染して生じる結核性腹膜炎や細菌性腹膜炎なども腹水の原因となることがあります。これらの感染症は腹膜に炎症を起こし、その結果として腹水が発生します。特に免疫力が低下している場合や、既存の疾患がある場合にリスクが高まります。
腹水の前兆や初期症状について
腹水の初期症状や前兆には以下のようなものがあります。
体重増加
突然の体重増加や理由のはっきりしない体重の増加は、体内に液体が溜まっているサインかもしれません。特に食生活や運動習慣に大きな変化がないにもかかわらず体重が増加した場合、腹水の可能性があります。
腹部の膨満感
腹部、特にへそ周りが膨らんだり、張ったりする感覚がある場合、腹水の初期症状である可能性があります。これは腹腔内に液体が溜まり、内臓が圧迫されたり、腹壁を圧迫したりするためです。
呼吸困難
腹水が大量に溜まると、横隔膜が圧迫され、呼吸が困難になることがあります。特に横になったときに呼吸が苦しくなる場合は、腹水の可能性があります。腹水が溜まる場合、胸部にも胸水が溜まることがあり、その場合はより症状が強くなります。
食欲不振
腹部の膨満感や不快感により、食欲が低下することがあります。これは内臓が腹水によって圧迫されることで胃腸の働きが低下するためです。
腹痛
腹水が原因で腹痛が生じることもあります。特に腹膜炎が原因の場合、腹痛が顕著になることがあります。
腹水の前兆や初期症状が見られた場合は、内科や消化器内科を受診してみましょう。
腹水の検査・診断
腹水の診断にはいくつかの検査が行われます。
身体診察
医師が腹部を触診し、腹水の有無や程度を確認します。腹部の膨満や圧痛がみられる場合があります。また、打診によって腹水の存在を確認することもあります。腹水が多量に溜まっている場合、腹部全体が腫れているようにみえることがあります。
画像検査
超音波検査(エコー)やCT、MRIなどの画像検査により、腹水の量や分布が確認できます。また、原因となる病変の精査にも用いられます。超音波検査は痛みもなく、腹水の有無を迅速に簡単に確認できるため、広く使用されています。CTやMRIは、より詳細な画像を提供し、腫瘍やほかの異常を検出するのにも役立ちます。
腹水穿刺
お腹に針を刺して腹水を採取し、その性状を分析するための手技・検査です。腹水の成分や細胞、細菌の有無を調べることで、原因の特定に役立ちます。例えば、腹水中にがん細胞がみつかると悪性腫瘍の可能性が考えられます。感染症が原因の場合、腹水中に細菌や結核菌、炎症細胞などが検出されることがあります。
血液検査
肝機能、腎機能、電解質などの評価として血液検査が行われます。肝硬変が疑われる場合、肝機能を示す指標(AST、ALT、アルブミンなど)の測定が重要です。腎機能を評価するためにはクレアチニンやBUNの測定が行われます。
腹水の治療
腹水の治療は、溜まった腹水を減らす治療と腹水の原因となっている疾患の治療があります。原因に対する治療は、原因に応じて異なります。一般的な治療法として以下のものがあります。
利尿薬
利尿薬で水分を体外に排出し、腹水の量を減らします。主に使用される利尿薬にはフロセミドやスピロノラクトンがあり、これらを併用することもあります。
塩分制限
食事の塩分を制限することで、体内に水分が貯留することを減らします。
腹水穿刺
腹水が大量に溜まっている場合、針を刺して腹水を抜く腹水穿刺が行われることがあります。それにより一時的に腹部の圧迫感や呼吸困難が緩和されます。しかし腹水が再び貯留することが多く、定期的な穿刺を行うこともあります。
アルブミン補充療法
アルブミンを静脈から注射し、血液中のアルブミン濃度を上昇させることで、腹水となっている水分を血管の中に再吸収させます。
腹腔−静脈シャント(例えばデンバーシャントなど)
腹腔−静脈シャントは、腹水を静脈に流し込むチューブを埋め込む手術です。この手技は、ほかの治療が効果を示さない場合に適用されることが多い治療法です。
原因疾患の治療
肝硬変、心不全、腫瘍など、腹水の原因となっている疾患を治療することで、腹水の改善を図ります。例えば、肝硬変が原因の場合、肝機能を改善するための治療(例:抗ウイルス療法、アルコール摂取の制限など)が行われます。また、腫瘍が原因の場合、手術、化学療法、放射線療法などの治療が検討されます。
腹水になりやすい人・予防の方法
腹水になりやすい人としては、以下の疾患を持つ人が挙げられます。
- 肝硬変の患者
- 心不全の患者
- 腎不全の患者
- 悪性腫瘍の患者
肝硬変は腹水の主要な原因の一つです。特に慢性的なアルコール摂取やウイルス性肝炎により肝硬変が進行した人ではリスクが高くなります。
心臓のポンプ機能が低下している心不全の患者さんも、腹水のリスクが高まります。
腎機能が低下していると、体液のバランスが崩れやすくなり、腹水が発生する可能性があります。
特に卵巣がんや胃がん、膵がんなどの悪性腫瘍がある場合、腹水が発生しやすくなります。
予防の方法としては以下が挙げられます。直接的に腹水を予防するというよりは、腹水の原因となる疾患の予防が重要です。
- 健康的な生活習慣の維持
- 定期的な健康診断
- 適切な治療とその継続
バランスの取れた食事、適度な運動、アルコールの摂取を控えるなど、健康的な生活習慣を維持することが重要です。特に肝硬変のリスクを低減するために、アルコールの摂取を控えることが推奨されます。
原因となる疾患の早期発見・早期治療が重要です。定期的に健康診断を受け、肝臓や心臓、腎臓の状態を確認しましょう。具体的には、血液検査による肝機能検査や腎機能検査、心電図、超音波検査などがあります。
既存の慢性疾患(肝硬変、心不全、腎不全など)に対する適切な治療を継続することで、腹水のリスクが減少します。例えば、肝硬変の治療として、肝臓保護薬の服用や生活習慣の改善が行われます。
参考文献




