「いびき対策」を謳う市販の睡眠グッズは使ってもいいのかを解説、「効果があれば使用しても問題ない」
「医薬部外品」の指定を受けているものもあれば、効果が感じられるか不安があるものもある「いびき対策」を謳う市販品。いびきそのものは「病気」と言いきれないだけに、市販品で対処する手も考えられますが、はたして本当に効果があるのでしょうか。「吉祥寺睡眠メディカルクリニック」の服部先生が、睡眠グッズ類の是非について解説します。
監修医師:
服部 庸一郎(吉祥寺睡眠メディカルクリニック 院長)
北里大学医学部卒業。平塚共済病院勤務を経て、2011年、東京都武蔵野市に位置する「医療法人社団新洋和会吉祥寺睡眠メディカルクリニック」の院長に就任。睡眠時無呼吸症候群の治療に注力している。日本睡眠学会認定専門医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本医師会認定産業医。
「怖いいびき」を鑑別するためにも受診は必要
編集部
いびき防止を目的とした市販品が気になります。効果はあるのでしょうか?
服部先生
結論からすると、「医学的なエビデンスがないものもあるが、使ってみて効果があるのなら否定はしない」と考えています。ただし、大前提として、「健康上、問題のないいびき」と「病的で、治療を必要するいびき」の2種類があることを知っておいてください。
編集部
「病的で、治療を要するいびき」とは何でしょうか?
服部先生
具体的には「睡眠時無呼吸症候群」などで、血中の酸素濃度が一定以下になっているいびきのことです。病的かどうかは、クリニックなどで貸し出している簡易測定器を用いてみないとわかりません。したがって、市販品を使うか使わないかにかかわらず、事前に耳鼻咽喉科などで調べてもらった方がいいでしょう。また、酸素濃度とは別に、鼻炎や鼻の穴の形の異常が見つかることもあります。
編集部
その一方で、「健康上、問題のないいびき」もあるのですね?
服部先生
はい。普段はなんともないのに、疲れた後や飲酒後などに限ってみられるいびきなどが挙げられます。ある種の生理現象で、一定のリズムを伴っています。とはいえ、「一定のリズムを伴っているから問題ない」と鑑別するのは控えましょう。医師の診断に委ねてください。
編集部
「病的」という視点のほかに、「周囲が迷惑している」場合もありますよね?
服部先生
「いびきがうるさくて眠れないから、なんとかしてよ」と言われたケースなどですよね。この場合、検査してみて「健康上、問題のないいびき」とわかれば、自費診療になってしまうかもしれません。市販品が活躍するとしたら、このケースでしょうか。もちろん、「病気で、治療を必要とするいびき」の治療であれば健康保険が適用されます。
編集部
市販品といっても色々ありますよね?
服部先生
そうかもしれませんが、総じて「効けば問題ない」という印象なので、グッズの仕組みや中身までは問わないと考えます。なぜなら、いびきは心因的に困っている要素もあり、「睡眠グッズを使っていれば大丈夫」という安心感を得られるケースもあるからです。また、いびきがピタっとやまなくても、ご家族やパートナーが「以前ほどうるさくなくなったよね」というレベルで満足されるかもしれませんよね。そういった意味でも「効果があれば使用しても問題ない」ということです。
いびきに対して、医療機関でできること
編集部
マウスピースなど、医院で処方される治療装具もありますよね?
服部先生
はい、あります。まずは医院で睡眠の検査を受けて軽症と診断された場合、ご自身にあったマウスピースを歯科医院で作成できます。また、中等症と診断された場合は、医院で「CPAP」という医療機器で治療していくことも可能です。
編集部
手術などで根本治療をすることも可能なのでしょうか?
服部先生
喉の入り口が狭い人などに対して、レーザーで拡張する手術を用いることもあります。しかし、CPAPがありますから、手術単独で治療することは少なくなってきました。術後のリスクもそれなりに考えられますしね。
編集部
「太っている人」がいびきをかきやすいとも聞きます。
服部先生
はい。喉周りに付いた脂肪によって気管が細くなっているからです。細くなったところに舌が落ち込んで気道が狭まると、いびきをかきます。では、「ダイエットをすれば、いびきをしなくなるのか」というと、そうとも限りません。いびきの解消目的でダイエットをする前に、医師へご相談いただきたいですね。
寝具の工夫は、いびき改善に役立つのか
編集部
睡眠グッズに関連して、枕選びはいびきの解消と関係ありますか?
服部先生
一般的にですが、低い枕ほど顔が上を向いて「気道を拡げる」とされています。さらに、「いびきを感知すると枕の片側が持ち上がって横向きになる」商品もあるようです。使うことによるデメリットはとくにありませんが、正しい枕の位置で寝ていない限り、本来の効果は発揮されません。
編集部
ちなみに、いびきって自分の体に悪いことなのですか?
服部先生
「悪いことかもしれない」ということです。睡眠時無呼吸症候群は、循環器系の疾患リスクを大幅に上昇させます。いびきによって体内に取り入れられる酸素量が減るので、それを心拍出量の増加でカバーしようとして高血圧になると考えられています。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
服部先生
市販品を使ってみて息苦しさを感じるとしたら、別の病気が隠れているのかもしれません。例えば、鼻炎で鼻の通りが悪いのに「口をふさぐテープ」を使ったら、かえって息苦しい状態になりかねないでしょう。「うるさい音がやめばいい」のではなく、「十分に酸素を取り入れられているか」が問われますので、その点をご注意ください。
編集部まとめ
市販品に頼っていいのは、受診して「危険ないびきではない」と診察された場合に限るということでした。その一方で危険ないびきは、睡眠時無呼吸症候群の前兆とされています。循環器系の疾患リスクを抱えているとしたら、「CPAP」などの本格的な治療を検討すべきでしょう。また、購入したグッズの効き目があるかどうかは試してみる必要があります。
医院情報
所在地 | 〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-4-16 サンク吉祥寺4階 |
アクセス | JR・京王井の頭線「吉祥寺駅」 徒歩2分 |
診療科目 | 睡眠時無呼吸症候群、内科 |