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新型コロナのパンデミックは子どもの発達にポジティブな影響もあった トロント大学の報告

 公開日:2024/01/04
新型コロナによる社会的交流遮断 小児の発達にポジティブな影響もあったとの報告

カナダのトロント大学らの研究グループは、「新型コロナウイルスのパンデミック前とパンデミック中に生後24カ月と54カ月を迎えた時点の小児の発達状況を調べた結果、新型コロナウイルスによる社会的交流の遮断が、小児の発達にネガティブな影響だけでなくポジティブな影響も与えた」と報告しました。この内容について、武井医師に伺いました。


武井 智昭

監修医師
武井 智昭(高座渋谷つばさクリニック)

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【経歴】
平成14年慶應義塾大学医学部を卒業。同年4月より慶應義塾大学病院 にて小児科研修。平成16年に立川共済病院、平成17年平塚共済病院(小児科医長)で勤務のかたわら、平成22年北里大学北里研究所病原微生物分子疫学教室にて研究員を兼任。新生児医療・救急医療・障害者医療などの研鑽を積む。平成24年から横浜市内のクリニックの副院長として日々臨床にあたり、内科領域の診療・訪問診療を行う。平成29年2月より横浜市社会事業協会が開設する「なごみクリニック」の院長に就任。令和2年4月より「高座渋谷つばさクリニック」の院長に就任。

日本小児科学会専門医・指導医、日本小児感染症学会認定 インフェクションコントロールドクター(ICD)、臨床研修指導医(日本小児科学会)、抗菌化学療法認定医
医師+(いしぷらす)所属

研究グループが発表した内容とは?

今回、カナダのトロント大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

武井 智昭 医師武井先生

カナダのトロント大学らの研究グループは、新型コロナウイルスによる社会的交流の遮断が小児の神経認知機能の発達にどのような影響があったのかを調べました。研究成果は、学術誌「JAMA Network Open」に掲載されています。

研究グループは、2022年6月までに生後24カ月と54カ月の発達状況評価を受けていた小児を対象に評価をおこないました。24カ月時点の神経発達状況の評価には、0~60のスコアがつけられる「ASQ-3(乳幼児発達検査スクリーニング質問紙)」と、0~2は低リスク、3~20は高リスクとする「M-CHAT-R(乳幼児期自閉症チェックリスト)」を適用し、54カ月時点の神経認知機能と社会情緒的能力の評価には「National Institutes of Health Toolbox」を用いています。評価の結果、生後24カ月時点で評価を受けた小児は、ASQ-3の構成要素のうちの問題解決困難のリスクは低く、個人的-社会的困難のリスクは高くなりました。M-CHAT-Rのスコアには有意差はみられませんでした。一方、生後54カ月時点で評価を受けた小児はパンデミック中の方が理解できる語彙が多く、視覚的順序記憶力は高く、認知能力全体も高くなりました。なお、社会情緒的発達には差はみられなかったとのことです。

研究グループは、今回の結果について「新型コロナウイルスのパンデミックと小児の認知的および情緒的な発達の間に、正の関係と負の関係の両方がみられた」と結論づけています。その上で「小児に対する支援策を構築する場合には、発達が遅れている領域を見定め、そこに焦点を当てる必要がある」としています。

今回の発表内容への受け止めは?

カナダのトロント大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。

武井 智昭 医師武井先生

新型コロナウイルスによってもたらされた社会的交流の低下による情緒への影響は限定的であったこと、これに加えて問題解決能力に関しては維持できたというポジティブな側面があったことは意外でした。ネガティブな面が注目されがちだったため、今回のカナダのトロント大学らの研究は、大変興味深い結果となりました。

新型コロナウイルスと小児の発達に関する日本の研究は?

カナダのトロント大学らの研究グループは、カナダの小児を対象にした今回の研究で、新型コロナウイルスによる社会的交流の遮断はプラスとマイナスの両面で影響が出ていたことを明らかにしましたが、日本ではどのような研究結果が発表されているのでしょうか?

武井 智昭 医師武井先生

新型コロナウイルスの流行による生活の変化が小児の発達に与えた影響に関する研究は、2023年7月に京都大学らの研究グループが発表しています。

研究グループは、2017年~2019年に1歳と3歳だった首都圏の認可保育所に通う子ども約890人を対象に追跡調査をおこないました。その結果、コロナ禍を経験した5歳の子どもはコロナ禍前に5歳になった子どもと比べて、発達が全体で平均4.39か月遅いことが明らかになりました。特に「大人への社会性」という領域や言葉での表現などの領域で遅れが目立っていました。研究グループは「5歳頃の発達に重要な人との交流が、コロナ禍で制約を受けたことで発達の遅れにつながった」と指摘しています。

一方、3歳の子どもについては、コロナ禍を経験していた方が「善悪などの概念を理解する領域」で、3.79カ月発達が早くなっており、全体でもほぼ違いは出ませんでした。研究グループは「在宅勤務で親との接触が増えたことなどが要因」と推察しています。全体の結果として、カナダでの評価と同様に、日本でもプラスとマイナス両面の影響がみられた形となっています。

まとめ

カナダのトロント大学らの研究グループは、「新型コロナウイルスのパンデミック前とパンデミック中に生後24カ月と54カ月を迎えた時点の小児の発達状況を調べた結果、新型コロナウイルスによる社会的交流の遮断が、小児の発達にネガティブな影響だけでなくポジティブな影響もあった」と報告しました。子どもの発達にも影響があったという研究結果は注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2811939

この記事の監修医師