子どもの朝食抜きは糖尿病予備軍のリスクを増加させるとの研究報告【医師による海外医学論文解説】
東京医科歯科大学の研究グループは、都内中学生の朝食習慣と糖尿病予備軍のリスクの関係を調査した結果、朝食を食べるグループに比べて、食べないグループの糖尿病予備軍のリスクが約2倍になると発表しました。この研究結果は、2023年2月22日に「Frontiers in Endocrinology」に掲載されました。こちらの研究報告について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
東京医科歯科大学の研究グループが発表した研究内容について教えてください。
中路先生
今回紹介する内容は、東京医科歯科大学の研究グループによるものです。この研究は2023年2月22日にFrontiers in Endocrinologyに掲載されています。研究グループは、思春期に糖尿病予備軍になると、その後の人生において2型糖尿病を発症するリスクが高いことに着目し、思春期に朝食を抜くことと糖尿病予備軍との関連性を検討することを目的として研究に取り組みました。研究グループは2016年、2018年、2020年に日本の東京都足立区の小中学生対象に行われた「A-CHILD Study」の中学生のデータを用いて、朝食欠食と糖尿病予備軍リスクとの関連性を検討しました。朝食を毎日食べると回答したのは83.6%で、残りの16.4%は「時々食べる」、「ほとんど食べない」、「全く食べない」と回答しました。研究グループは、これら16.4%を朝食欠食グループと定義しています。糖尿病予備軍の割合は3.8%で、糖尿病の診断基準の生徒はいませんでした。糖尿病予備軍の有病率は、朝食を毎日食べるグループが3.5%、朝食欠食グループでは5.6%でした。多変量解析で性別、世帯収入、糖尿病の家族歴を調整後、朝食欠食グループは毎日食べるグループに比べて、糖尿病予備軍に該当する割合が2倍近く高いことが明らかになりました。研究グループは「我々の知る限り、本研究は、アジア人集団における青年期の朝食抜きと糖尿病前症との関連を調査した最初の研究です。今回の結果は、朝食抜きは、血糖値上昇との関連に加えて、HbA1c値で測定される糖尿病予備軍との関連も示唆するものでした。さらに、朝食抜きがグルコース代謝に及ぼす影響は、体重過多の学生でより大きいことが示唆されました。毎日朝食を摂取する習慣を確立するために、より早い時期に親をターゲットにした介入を行うことが重要です」と記述しています。
糖尿病の患者数などの現状は?
糖尿病の患者数など、日本における「糖尿病」の現状について教えてください。
中路先生
2016年の国民健康・栄養調査によると、糖尿病が強く疑われる人である糖尿病有病者は約1000万人、糖尿病の可能性を否定できない人である糖尿病予備群は約1000万人と推計されています。糖尿病に使われる年間医療費は2017年の国民医療費の概況によると1兆2239億円で、年間死亡数は2017年の人口動態統計の概況によると1万2969人になっています。
発表内容への受け止めは?
東京医科歯科大学の研究グループが発表した今回の研究を実際に臨床応用することへの期待感を教えてください。
中路先生
現在、若い人の4人に1人は朝食抜きの生活を送っていると言われ、若者の朝食離れはますます進んでいます。朝食を抜くことで、血糖値の変動が大きくなり、インスリン抵抗性が増して糖代謝に悪影響があることはよく知られています。本論文は既存のデータを用いた研究であることによる選択バイアスの存在や、両親を含めた血縁者の糖尿病の有無の情報がないなどその解釈には注意する点があると思われますが、若年者、特に肥満者と糖尿病前症との関連があることを発見したことで高く評価されると考えます。今後は若年者が朝食を抜く習慣をなくすように心がけることで、糖尿病の予防につながる可能性が示唆されます。そのためには、メディアなどを通じての若年年層への啓蒙活動が重要と考えます。
まとめ
東京医科歯科大学の研究グループは、都内中学生の朝食習慣と糖尿病予備軍のリスクの関係を調査した結果、朝食を食べるグループに比べて、食べないグループの糖尿病予備軍のリスクが約2倍になると発表しました。糖尿病は日本でも多くの患者がいる国民病の一つであり、今回の研究報告は糖尿病予防の観点からも注目を集めそうです。
原著論文はこちら
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fendo.2023.1051592/full