高齢者の認知症リスク 1日10時間以上座っていると増加
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループは、「60歳以上の高齢者の座位行動時間が長いほど、全認知症発症率が有意に高くなった」と発表しました。この内容について田頭医師に伺いました。
監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
田頭先生
今回紹介するのはアメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループが実施した研究で、学術誌「JAMA」に掲載されています。
研究グループは、加速度計装着時に60歳以上であった4万9841人を対象に解析をおこないました。その結果、1日の平均座位行動時間の中央値9.27時間/日に対する認知症のハザード比は10時間/日で1.08、12時間/日で1.63、15時間/日で3.21と、平均座位行動時間が長くなるにつれて、ハザード比が高くなる結果となりました。また、1000人あたりの認知症発症頻度は、9.27時間/日で7.49、10時間/日で8.06、12時間/日で12.00、15時間/日で22.74という結果が出ました。
1日の平均座位時間と1日の最大座位時間は、認知症発症リスクの増加と有意に関連していましたが、1日の平均座位回数は認知症発症リスクの増加とは関連していませんでした。なお、感度分析では、座位行動時間を調整後、1日の平均座位時間および1日の最大座位時間は、認知症発症と有意な関連は認められませんでした。
研究グループは論文で「高齢者の座位行動に費やす時間が長いほど、全認知症発症率が高いことと有意に関連していた。座位行動と認知症リスクとの関連に因果関係があるかどうかを明らかにするためには、今後も研究が必要である」と締めくくっています。
日本での認知症の現状は?
日本での認知症の現状について教えてください。
田頭先生
認知症は歳をとるほど発症しやすくなり、日本における65歳以上の認知症の患者数は2023年7月25日で964万人と推計されています。2070年には2828万人にまで増加すると予測されています。
認知症には脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程で起きる「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなる「レビー小体型認知症」、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮することから起こる「前頭側頭型認知症」などの種類があります。とくに前頭側頭型認知症の発症年齢は若い傾向にあり、じっと我慢できない、怒りっぽくなる、その場にそぐわない身勝手な行動をとるなど、反社会的行動の増加が特徴です。
今回の発表内容への受け止めは?
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループの発表に対する受け止めを教えてください。
田頭先生
今回の研究における座位時間は、腕時計のようなウェアラブルデバイスを用いて「覚醒時において30秒間の時間幅が2回以上連続し座位行動として分類されたもの」と定義されています。そのため、まず睡眠時間は除かれており、厳密には座っていなくても例えば床に寝っ転がった状態でも座位時間としてカウントされます。つまり、「1日24時間の中で、睡眠時間を除く16時間のうち10時間以上で動きが少ないと認知症のリスクが上がる傾向がある」という結果を意味しています。ただ同じじっとしている状態でも、読書や手芸などの知的活動をおこなうと認知症のリスクを下げるという研究結果もあるので、一概に座っていることだけが悪いわけではありません。
その一方、適度な運動をすることが認知症のリスクを下げるということは、ほかにも多くの研究が支持しています。散歩やストレッチなどの簡単な運動でもいいと思います。年を重ねても健やかな人生を過ごし続けるためにも、運動習慣を取り入れていきたいですね。
まとめ
アメリカの南カリフォルニア大学らの研究グループは、「60歳以上の高齢者の座位行動時間が長いほど全認知症発症率が有意に高い結果が出た」と発表しました。「座位行動と認知症リスクとの関連に因果関係があるかどうかを明らかにするためには、今後の研究が必要である」と研究グループは指摘しており、今後の更なる研究に期待が集まります。
原著論文はこちら
https://pmc.carenet.com/?pmid=37698563&keiro=journal