1日4~5分の高強度運動で「がん」の発症リスクが低下する【海外論文解説】
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループは、「定期的に運動する習慣がない人でも、1分以内の高強度運動を1日に合計4~5分おこなうだけで、がんの発症リスクが有意に低下する」と報告しました。この内容について、中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介するのは、オーストラリアのシドニー大学ら研究グループが実施したもので、「JAMA Oncology」の電子版に掲載されています。研究グループは、ウェアラブルデバイスを用いて、VILPA(日常生活の中で断続的におこなう高強度の運動)とがん発症の間の関係を検討しました。
対象となったのは、運動習慣がないと自己申告した成人2万2398人です。対象者のVILPAは利き腕の手首に付けた加速度計により測定し、最長1分まで、または2分までのVILPAの実施時間を1日あたりで合計しVILPA時間としました。
1分以下のVILPAと2分以下のVILPAのそれぞれのデータを用いて、横軸を1日の総VILPA時間、縦軸を全般的な癌または運動不足関連のがんの1万人/年あたりの発症率として、用量反応曲線を描いたところ、線形に近い逆相関関係が認められました。同じように、縦軸をハザード比にして用量反応曲線描くとさらに線形に近づき、全般的ながんと比べて運動不足関連のがんの方がVILPA時間の延長に対するリスク低下の割合が大きいことが明らかになりました。
VILPAなしの人々と比べて1分以下のVIPLA時間の合計が中央値に相当する4~5分だった人では、全般的ながんの調整ハザード比は0.80で運動不足関連のがんの調整ハザード比は0.69になりました。2分以下のVIPLAの合計が中央値に相当する4~5分だった人では、全般的ながんのハザード比が0.79、運動不足関連のがんのハザード比は0.68でした。
研究グループは、「運動習慣がない人でもわずかなVILPAによって、がんの発症リスクが有意に低下することが示唆された」と結論付けています。
発表内容への受け止めは?
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
中路先生
毎日の定期的な運動習慣は生活習慣病の予防のみならず、大腸がんなどの発がん予防に有効であることは以前よりよく知られています。しかし、そうは理解していてもそれを続けていくことは根気が必要で、多くの人は3日坊主となってしまうことが多いと考えられます。
今回のオーストラリアでの研究は、日頃運動をしない人でも散発的な(思い立った時の)ほんの1~2分の早歩き・階段登りのなどの強度の高い運動が、がんの発症予防効果につながる可能性を定量的(加速度計でのデータ)に指摘した点でエクサイティングな報告と考えられます。しかし、実際は対象の「運動をしていない人」の定義は難しく、また強度の高い運動は短時間でも心肺への負担が大きくそれなりのイベントのリスクもあり、これから試してみようと考えている人で高血圧などの合併症のある人はかかりつけ医への相談が必要です。
そして、体格・生活環境・食生活の異なるオーストラリアでの研究であり、この結果をそのまま日本に当てはまるのにはさらなる検証が必要です。今後、日本での同様の研究がおこなわれることを期待します。
VILPAの健康効果への追加情報は?
今回紹介された論文でVILPAとがんの発症についての関係が示されましたが、VILPAについての健康効果について詳しく教えてください。
中路先生
VILPAについては、先ほど紹介した論文のほかにも「Nature Medicine」に掲載された論文で、中央値で1日3回のVILPAが計測された参加者は、VILPAがなかった人と比べて、総死亡とがん死亡リスクが38~40%減少し、心血管死亡リスクは48~49%減少したことが示されています。また、1日あたりのVILPA持続時間は中央値で4.4分でしたが、総死亡とがん死亡リスクは26~30%減少し、心血管死亡リスクは32~34%減少していたそうです。
Nature Medicineに掲載された論文では、運動習慣のない人のVILPAは運動ができない人や運動が苦手な人でも、身体活動目標として利用できると結論付けています。
まとめ
オーストラリアのシドニー大学らの研究グループは、「定期的に運動する習慣のない人でも、1分以内の高強度運動を1日に合計4~5分おこなうだけで、がんの発症リスクが有意に低下する」と報告しました。VILPAに挑戦してみてもいいかもしれません。
原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamaoncology/fullarticle/2807734