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チェスをする・文章を書く・音楽鑑賞などが「認知症」リスク低下に【海外論文解説】

 公開日:2023/08/30
文章を書くなどの活動で認知症リスク減との研究報告

オーストラリアのモナシュ大学らの研究グループは、「認知症のリスク低下に役立つ要因について調べるコホート研究をおこなった結果、文章を書く、チェス・クロスワードパズル・ゲームをすることなどが認知症のリスク低下と関連していた」との研究結果を報告しました。この内容について、中路医師に伺いました。


中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

研究グループが発表した内容とは?

今回、オーストラリアのモナシュ大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

今回紹介するのは、オーストラリアのモナシュ大学らの研究グループが実施した研究で、比較的健康な高齢者のライフスタイルの充実が、学歴や健康状態とは無関係に認知症リスクに影響するかを検討しました。

研究の対象となったのは1万318人で、そのうち52.6%が女性でした。親しい親族がいなかった人は2.5%で、親しい友人がいなかった人は5.2%でした。余暇活動の中で最も多かったのは、テレビの視聴、音楽鑑賞/ラジオ聴取、本/新聞/雑誌を読むで、73.5%を超える人が「常にこれらの活動をおこなっている」と回答しました。また、コンピューターを日常的に使用している人は53.9%でした。こうした中、絵を描くことについては、75.8%の人が「おこなっていない」と回答しました。そして、外出先としてはレストラン/カフェが最も多く、71.4%が「時々行く」と回答しています。

活動スコアと認知症発症リスクの関係を検討したところ、手紙や日記を書く、コンピューターを使う、教養講座を受講するなどのリテラシー活動をより頻繁におこなうことと、認知症リスクの低下が関係していました。また、ゲームやカード遊び、チェスをプレイする、クロスワードパズルなどをすることも認知症リスクが低いことと関係していました。加えて、工芸/木工/金属細工、絵を描くといった創造や芸術活動や、本/新聞/雑誌を読む、テレビ視聴、音楽鑑賞/ラジオ聴取という受動的な精神活動も認知症リスク低下との間に小さいものの有意な関係を示したとのことです。逆に、交友関係と外出の要因は、認知症リスクとの間に有意な関係を示しませんでした。

これらの結果から、研究グループは「読み書き、創造的な芸術、能動的・受動的な精神活動への関与が、後期高齢者の認知症リスク軽減に役立つ可能性を示唆している。さらに、これらの知見は、高齢者ケアの政策や高齢者の認知症予防をターゲットとした介入を導く可能性がある」とコメントしています。

今回の発表内容の受け止めは?

オーストラリアのモナシュ大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

これまで認知症リスクの低下が生活習慣の改善に関係しているとの報告は多くありましたが、高齢者の社会活動と認知症との関連を研究した報告はほとんどありませんでした。それは、健康状態や教育水準などの高齢者の社会活動に強く影響する因子をうまく除外できなかったことが原因として挙げられます。

今回の研究が評価できる点は、健康状態や教育水準とは関係なく高齢者の社会活動が認知症リスクに影響するかを検討したことであると考えます。交友関係の充実よりも、むしろ読み書きなどの精神活動の充実が認知症のリスク低下につながる可能性があることは、大変興味深い知見であると思われます。ただし、研究の限界として、今回の研究の対象が比較的健康な高齢者に限られていることや、オーストラリアという限られた地域でのコホート研究であり、日本を含めアジアの文化圏の異なる地域にこの結果をそのまま当てはめるのには少々難があるかもしれません。そのため、今後同様の研究が日本を含めアジア圏でもおこなわれることを期待します。

日本における認知症の現状は?

日本での認知症の現状について教えてください。

中路 幸之助 医師中路先生

日本の65歳以上の認知症の発症者は、2020年のデータで約600万人と推計されており、2025年には高齢者の5人に1人にあたる約700万人が認知症になると予測されています。

認知症には脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による「血管性認知症」、幻視や歩幅が小刻みになって転びやすくなる「レビー小体型認知症」、スムーズに言葉が出てこない・言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなる「前頭側頭型認知症」が代表的です。

まとめ

オーストラリアのモナシュ大学らの研究グループが「文章を書く、チェス・クロスワードパズル・ゲームをすることなどが、認知症のリスク低下と関連していた」との研究結果を報告したことが今回のニュースでわかりました。高齢化社会が進むについて日本で、今回の認知症に関する研究は注目を集めそうです。

原著論文はこちら
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2807256

この記事の監修医師