老化はカロリー制限で遅らせることができるとの研究報告【医師による海外医学論文解説】
アメリカのコロンビア大学らの研究グループが、摂取カロリーを制限したグループは、制限なしのグループを比べると老化速度が2~3%低下したと学術誌で発表しました。この研究結果は、2023年2月9日に「Nature Aging」に掲載されました。この研究報告について中路医師に伺います。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
アメリカのコロンビア大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
中路先生
今回紹介する内容は、アメリカのコロンビア大学らの研究グループによって行われたもので、摂取するエネルギー量を制限することが長期的にどのような影響を与えるか包括的に評価する研究の一環のものです。対象になったのはアメリカの健康な成人男女で、かつBMIが22.0~27.9と普通体重からやや過体重気味の220人です。対象者は研究参加時点から25%摂取カロリーを減らすことを目標とされたカロリー制限グループとして145人、制限しないグループとして75人と、2グループに分類されました。ただ、実際にカロリー制限で介入した2年間での制限幅は12%程度にとどまったということです。この2つのグループに対して、老化速度に関連するDNAメチル化という現象を評価するバイオマーカーを利用して、カロリー制限グループと制限しないグループの老化速度を比較したところ、カロリー制限グループでは老化速度が2~3%低下していることが明らかになったということです。研究グループによると、2~3%という老化速度の差は、早期死亡のリスクを10~15%程度抑制するレベルだということです。研究グループは、「細胞内の老廃物を除去するメカニズムが、カロリー制限によって誘発される可能性があります。誰でも老化速度を変える力を持っているのではないのでしょうか」と述べています。研究グループでは、カロリー制限による介入を今後さらに10年間継続することも計画しているそうです。
研究結果の受け止めは?
アメリカのコロンビア大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
中路先生
カロリーを制限することで、老化の速度が遅くなり寿命が延びそうだという米国からの大変興味深い研究結果です。これまで動物での同様の研究発表は過去にもありましたが、人を対象とした研究発表は初めてであり、画期的な研究とも言えます。しかし、症例数は少なく、限られた集団(健常ボランティア)の米国の特定地域のみでの研究であり、まだ一般化は難しいと考えられます。また研究に関わった人たち(被験者)が本当に管理された食事のみを食べていたかも疑問です(お腹が空いて、隠れて間食をしていたかもしれません)。人を対象とした研究ですので、これ以外にも様々なバイアスが存在します。さらに、米国人と日本人は食生活や体格が異なることから、この研究結果をそのまま現在の日本人にあてはめて考えるのは難しいでしょう。したがって、さらなる研究の積み重ねが必要です。
今後追加で研究すべき点は?
今回の研究をめぐっては、アメリカのNBCニュースが米南カリフォルニア大学長寿研究所の研究者に取材したところ、「摂取カロリーの長期的制限は、確かにアンチエイジング効果を発揮する可能性があるかもしれないが、筋力、新陳代謝、免疫能などの低下をもたらしたり、フレイルのリスクを高めたりするのではないか」と話しています。今後、追加で研究すべき点はどのようなことがあるのか教えてください。
中路先生
この研究を、人での「カロリー制限」と「老化速度」をみるパイロット的な研究とすると、今後はさらに異なる地域や多施設での症例を検討することが必要と考えます。また、カロリーを制限することで、糖尿病・高脂血症・高血圧症の発症を抑えるなど、動脈硬化の予防効果などの交絡因子(調べようとする原因以外の原因で、研究の結果に影響を与えるもの)を除く解析や、指摘のようにカロリー制限により、筋力の低下をきたしてサルコペニアやフレイル、骨折などで最終的に寝たきり状態になり、かえって寿命が短くなってしまった症例の有無などについての追加研究が必要と考えます。日本でも同様の研究が行われ、エビデンスの集積が得られることを期待したいです。
まとめ
アメリカのコロンビア大学らの研究グループが、学術誌のNature Agingで、摂取カロリーを制限したグループと、制限なしのグループを比べると老化速度が2~3%低下したと発表しました。誰もが興味を持つ老化のスピードを遅くできる可能性についての発表なだけに、今後の研究にも注目が集まりそうです。
原著論文はこちら
https://www.nature.com/articles/s43587-022-00357-y