「よく転ぶ」原因は何かご存じですか?大人・子供で考えられる病気を医師が解説!


監修医師:
神宮 隆臣(医師)
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熊本大学医学部卒業。熊本赤十字病院脳神経内科医員、熊本大学病院脳神経内科特任助教などを歴任後、2023年より済生会熊本病院脳神経内科医長。脳卒中診療を中心とした神経救急疾患をメインに診療。脳神経内科疾患の正しい理解を広げるべく活動中。診療科目は脳神経内科、整形外科、一般内科。日本内科学会認定内科医、日本神経学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳血管内治療学会専門医、臨床研修指導医の資格を有す
目次 -INDEX-
「よく転ぶ」症状で考えられる病気と対処法
大人の方が最近転びやすくなった、あるいは子どもがよく転ぶときには、多彩な原因が考えられます。最近よく転ぶ・転倒しやすくなったときに考えられる原因と対処法
最近になって以前よりも転ぶ回数が増えたときには、筋力やバランス感覚の低下、あるいは視力や聴力の衰えが原因かもしれません。しかし、パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの病気が隠れていることもあります。 また、睡眠薬の中にも転倒リスクを高めるものがあります。 転倒を繰り返す、手足の震えやしびれもある、歩行が不安定になるなどがあれば、脳神経内科や整形外科の受診をおすすめします。20代の大人がよく転ぶときに考えられる原因と対処法
若い方でも転倒しやすくなる状態になることはあります。例えば、長時間のデスクワークや運動不足による筋力低下、睡眠不足やストレスなどでの注意不足などです。また、20代の方では50代よりも少ないものの、労働災害の一つとしての転倒もあります。 普段からスクワットや体幹トレーニングなどで、特に下半身の筋力を保てるようにするとよいでしょう。ただし、通常の生活のなかで頻繁に転ぶ、ある時から急に転ぶようになったりするようであれば、脳神経内科で神経学的な異常がないかを確認してもらうことをおすすめします。50代の大人がよく転ぶときに考えられる原因と治し方
50代の方も、運動不足による筋力低下や足に合わない靴の装着などで転びやすくなることがあります。そのほか、パーキンソン病 や進行性核上性麻痺などの神経疾患は50歳以上の方に多く発症するようになります。そのため、50代の方でたびたび転ぶというエピソードが増えた際には、念のため脳神経内科や整形外科などを受診しましょう。60代の大人がよく転ぶときに考えられる原因と対処法
60代の方で転倒しやすくなる理由としては、運動や感覚機能の衰え、視力や聴力などの感覚や認知機能の低下などがあります。また、飲んでいる薬も見逃せません。 60代の方の半数以上が、高血圧に対する内服治療を受けているというデータもあります。 高齢者の方が降圧剤の内服を開始すると、起立性低血圧やめまいなどの症状が引き起こされることがあり、転倒や転落の可能性が高まります。薬を開始、変更したら転びやすくなったときは、主治医に相談してみることが大切です。自転車に乗っていてよく転ぶときに考えられる原因と対処法
自転車に乗っているときに転びやすくなるときは、歩いているときに比べて軽い症状が隠れているのかもしれません。バランスがうまく取れていなかったり、足に力が入っていなかったりしたことが理由かもしれません。例えば、筋力不足や、脳卒中の後遺症、パーキンソン病などの脳神経学的な要因、薬の副作用などが考えられます。 加えて、良性発作性頭位めまい症などの耳鼻科的な疾患も要因となりえます。 体の左右バランスがうまくとれない感覚がある際には、脳神経内科や耳鼻科の受診をおすすめします。子どもがよく転ぶときに考えられる原因と対処法
前提として、子どもが歩き始めるときは、歩く能力を獲得する練習期間ですので、よく転びます。そのほか、子どもがよく転ぶときには、視力が悪い、筋力が未発達、靴が合っていないといった理由が考えられます。注意欠陥多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)や発達性強調運動症(developmental coordination disorder:DCD)も可能性としてはあります。 そのほか、頻度は低いものの、Duchenne型筋ジストロフィーという進行性の骨格筋疾患の場合もあります。3〜5歳ごろから筋力低下による転びやすさや走れないという症状で発覚します。しかし、日本では乳幼児期の血液検査の異常によって発見される方が多いです。子どもの場合は同い年や月齢と比べて歩き始めるのが遅かったり、走ったりするのが極端に遅かったりすることが参考になります。すぐに病院へ行くべき「よく転ぶ・転倒」に関する症状
ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。 以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。頻繁に転びやすくて手足の震えがある場合は、脳神経内科へ
転ぶ頻度が増えた、歩幅が小さくなった、手足の震えがある場合、パーキンソン病などの神経変性疾患の可能性が示唆されます。また、ふらつきや頭痛・嘔吐などを伴う場合、脳腫瘍や脳卒中などを疑うことが必要なケースもあります。気になる場合は、脳神経内科を受診してください。病院受診・予防の目安となる「よく転ぶ・転倒しやすい」ときのセルフチェック法
・よく転ぶ以外に手足の震えがある場合・ふらつきや頭痛・嘔吐がある場合
・転倒の前後に意識の消失がある場合
これらの症状がある場合は、神経学的な問題が示唆されます。特に、意識消失がみられるときは、速やかに医療機関を受診しましょう。
「よく転ぶ」症状が特徴的な病気・疾患
ここではメディカルドック監修医が、「よく転ぶ」に関する症状が特徴の病気を紹介します。どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。パーキンソン病
手足の震えや筋肉のこわばり、動作の遅れなどが特徴の神経変性疾患です。歩行が小刻みになり、姿勢の反射が低下して転倒しやすくなります。進行とともに日常動作も困難になるため、早期診断と薬物療法・リハビリの組み合わせが重要です。脊髄小脳変性症(SCD)
小脳や脊髄の変性により、バランスを取る機能や運動の調整が障害され、ふらつきや転倒が目立ちます。歩行障害や構音障害が徐々に進行するのが特徴です。原因は多様で、現時点で根治療法はなく、リハビリや症状緩和治療が中心です。進行性核上性麻痺
後ろ向きに転ぶことが多く、特に階段での転倒が多いとされます。目の上下運動障害や体幹の硬直を伴います。50代以降に発症し、パーキンソン病と似ていますが薬の効きが乏しい点などで異なります。診断には神経学的所見やMRIが用いられます。根本的な治療法はまだなく、リハビリや転倒予防対策が重要となります。脳卒中
脳の血管が詰まる脳梗塞や破れる脳出血により、片麻痺や感覚障害、ふらつきが起こり転倒につながります。症状が現れた場合には救急受診が必須です。発症後はリハビリで機能回復を目指します。再発予防として生活習慣病の管理も欠かせません。認知症
注意力や判断力、空間認知の低下で段差や障害物に気付きにくくなり、転倒が増えます。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などタイプによって症状が異なり、歩行のぎこちなさやふらつきが見られることもあります。対策を早めにとることが、本人ならびに周囲の方にとっても大切です。そのため、早期診断が重要となります。骨粗しょう症
骨量の減少で骨がもろくなり、軽い転倒でも骨折しやすくなります。特に大腿骨頚部や脊椎の骨折は寝たきりの原因となりやすいです。骨密度検査による診断と、薬物療法・栄養管理・運動による予防が大切です。カルシウムやビタミンDを豊富に含む食材を積極的にとることがすすめられます。フレイル
加齢に伴う筋力や体力、認知機能の低下を含む虚弱状態で、転倒・骨折リスクが高まります。低栄養や運動不足が要因となりやすく、バランス訓練や筋トレ、十分なタンパク質摂取で予防・改善を目指します。ロコモティブシンドローム
運動器(骨・関節・筋肉)の機能低下で、立つ・歩くなどの移動能力が衰える状態です。歩行中のふらつきや段差でのつまずきが増えます。ロコモ度テストで判定でき、ロコトレなどの運動が改善に役立ちます。起立性低血圧
急に立ち上がったとき血圧が一時的に下がり、めまいやふらつきで転倒することがあります。高齢者や降圧薬服用者に多く、脱水や自律神経障害も原因となります。ゆっくり立ち上がる習慣や服薬調整で予防します。発達性協調運動障害
子どもに多く、手足の動きを滑らかに協調させることが難しい発達特性です。走る・跳ぶ・階段を降りる動作が苦手で、転びやすさや不器用さが目立ちます。作業療法や学校での運動サポートが有効です。「よく転ぶ・転倒しやすい」ときの正しい対策や運動習慣とは?
よく転ぶときは、転びにくくなるような生活の工夫をしてみましょう。日常生活で対策できることはあるか?
足に合わない靴は、転倒のリスクを高めます。また、滑りやすい床なども特に高齢者の場合には転びやすくなる要因となります。住環境などを整えることも大切です。たくさんの薬を飲んでいる方は、睡眠薬などが転倒の原因となっていることもあるため、主治医に相談してみるようにしましょう。運動習慣は何を行えばよいか?
転倒予防のためには、バランス感覚を鍛え、筋力を保つことが重要です。片脚立ちやスクワット、軽い筋トレなど、運動習慣をもつようにすることも転倒予防対策となります。「よく転ぶ」症状についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「よく転ぶ」についてよくある質問に、メディカルドック監修医がお答えします。
よく転んでしまう人の特徴はありますか?
神宮 隆臣(医師)
筋力やバランス感覚の低下、視力や聴力の衰え、薬の副作用、神経や脳の病気などが背景にあることが多いです。また、高齢者の場合はフレイルやロコモティブシンドロームが関係することもあります。
若いのに以前よりつまずきやすくなりました。運動不足なのでしょうか?
神宮 隆臣(医師)
はい、その可能性はあります。長時間のデスクワークや運動不足は、体幹や下肢の筋力低下につながり、転びやすくなる原因になります。ただし、頻繁な転倒が続く場合は、神経疾患などの病気も考慮し、医療機関で相談しましょう。
親が転倒しやすくなったのですがパーキンソン病かどうか見分ける方法はありますか?
神宮 隆臣(医師)
転倒に加えて「手足の震え」「動きが遅い」「小刻み歩行」「表情が乏しくなる」といった症状があれば、パーキンソン病の可能性があります。早期発見が大切な病気なので、脳神経内科での受診をおすすめします。
高齢者が一ヶ月に何度も転ぶのは一般的な老化の状態でしょうか?
神宮 隆臣(医師)
老化によるバランス機能の低下だけでなく、隠れた病気が原因となっている場合もあります。骨粗しょう症やフレイル、脳卒中後遺症、薬の副作用も要注意です。まずは医師に相談し、原因をはっきりさせることが大切です。
子供が不注意でよく転んでしまいます。何科の病院で相談できますか?
神宮 隆臣(医師)
まずは小児科や発達外来、小児神経科を受診するとよいでしょう。視力や靴の問題、DCDやADHDなどの可能性もあるため、専門家の評価が必要です。
まとめ よく転ぶ・つまずきやすくなったら早めに対処しよう
転びやすさは年齢を問わず起こりうる症状で、単なる不注意だけでは説明できない背景疾患が隠れていることもあります。とくに頻繁に転倒する、手足の震えやふらつきがあるなどのケースでは、脳神経内科や整形外科の受診をためらわないでください。 早期に原因を把握し、生活環境や運動習慣を見直すことで、転倒のリスクを下げることができます。高齢者の場合は、骨折や寝たきりの引き金にもなるため、家族や周囲のサポートも重要です。「よく転ぶ」症状で考えられる病気
「よく転ぶ」から医師が考えられる病気は14個ほどあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからメディカルドックの解説記事をご覧ください。脳神経内科系の病気
- パーキンソン病
- 脊髄小脳変性症(SCD)
- 進行性核上性麻痺
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)
- 認知症(アルツハイマー型、レビー小体型など)
- 脳腫瘍
耳鼻咽喉科系の病気
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
筋・骨格・運動器の病気
- 骨粗しょう症
- フレイル
- ロコモティブシンドローム
- サルコペニア(加齢による筋肉量減少)
循環・自律神経の病気
- 起立性低血圧
- 降圧薬による副作用
小児・発達系の病気
- 発達性協調運動障害(DCD)
- ADHD(注意欠如・多動症)
- Duchenne型筋ジストロフィー
薬剤性による転倒リスク
- 睡眠薬の副作用