「片手だけ手に力が入らない」のは「脳梗塞」が原因?医師が徹底解説!
片手だけ手に力が入らないとき、身体はどんなサインを発している?Medical DOC監修医が主な原因や考えられる病気・何科へ受診すべきか・対処法などを解説します。気になる症状は迷わず病院を受診してください。
監修医師:
中川 龍太郎(医療法人資生会 医員)
「片手だけ手に力が入らない」症状で考えられる病気と対処法
片手だけ力が入りにくくなった経験はないでしょうか。すぐに回復するものから症状が長く続くもの、そして力が入らない症状の程度もさまざまです。どのような疾患が考えられるか解説していきます。
片手だけ手に力が入らない症状で考えられる原因と治し方
片手だけ手に力が入らない症状のことを指します。この場合、手根管症候群の可能性が考えられます。この病気は「手根管」という手首の部分にある狭いトンネル構造の部分を通る神経が、圧迫されることで起こる神経障害の病気です。かなり頻度が多く、特に手のしびれや力が入らない症状(脱力)が見られる病気の中では最も多く見られます。
40歳以降の中年女性に多く、また手をよく使う職業やライフスタイルに多いとされています。ただ詳しいメカニズムは不明です。
症状は、手のひら側の指にジンジンしたしびれや痛みが出現し、夜や早朝に強くあらわれて起きてしまうこともしばしばです。進行すると手の筋力低下につながり「すし屋の湯呑みを持とうとすると倒してしまう」というようなエピソードも聞かれます。
治療には手術と内服、注射などの使用した保存的治療に分かれます。どんな治療方法を選択するかは専門の医師と相談することをお勧めします。専門科は整形外科、脳神経内科です。
一時的に片手だけ手に力が入らない症状で考えられる原因と治し方
一時的に片手に力が入らない症状の場合、一過性脳虚血発作(略称 TIA)の可能性が考えられます。TIAについては後に詳しく説明しますが、端的に言えば「脳梗塞の一歩手前の状態」です。
症状は、突然の手足のしびれ、片方の手に力が入らない、うまく話せない、といった症状があり、脳梗塞の症状に似ています。
TIAの定義は、脳梗塞には至っていないもののその症状が24時間以内に消失するもの、とされているので放置していたら自然に治ったからと受診されない方がおられます。
ただTIAを発症した人はその後に脳梗塞を発症するリスクが極めて高いことがわかっており、症状が治ったとしても放置せずに医療機関を受診することが重要です。
もし上記の症状を感じたら、早急に医療機関を受診してください。専門科は脳神経内科や脳神経外科です。
片手だけ手に力が入らなくて震える症状で考えられる原因と対処法
片手だけ手に力が入らずに震えてしまう状態のことを指します。このような場合、パーキンソン病の可能性が考えられます。パーキンソン病の特徴は、
- 運動が遅く少なく緩やかになる(無動)
- 止まって安静にしている時に、手足や顔、首が小刻みに揺れること(静止時振戦)
- 関節が歯車のように引っかかって、滑らかに動かなくなること(筋強剛)
- 安定した姿勢を保てず、すぐに倒れてしまう(姿勢保持障害)
- 足がすくんで滑らかに前に出ず、小刻みに、そして突進するように歩く(すくみ現象)
などが挙げられます。このうち、震戦という症状が強く表れている状態と考えられます。病気が進行すると、徐々に左右対称に症状が見られますが、初期では片方だけに出る場合もあります。
生活習慣の改善などで治る疾患ではありませんので、脳神経内科の医師の診断・治療を受ける必要があります。力が入っていない、震えているといった症状や、よく転ぶようになった、とても動きが遅くなった、と感じられたら医療機関を受診しましょう。専門科は脳神経内科です。
すぐに病院へ行くべき「片手だけ手に力が入らない」に関する症状
ここまでは症状が起きたときの原因と対処法を紹介しました。
応急処置をして症状が落ち着いても放置してはいけない症状がいくつかあります。
以下のような症状がみられる際にはすぐに病院に受診しましょう。
急に片手の麻痺が見られた場合は、脳神経内科・脳神経外科科へ
突然に、全然力が入らない程度のしびれや脱力が見られた時は、脳梗塞の可能性があります。脳梗塞については後に詳しく記載しますが、症状は片側の手足のしびれや力が入らない状態、言葉がうまく話せない、顔の歪みといったものが代表的です。
脳梗塞で損傷を受けた部位のダメージは元には戻らないため、できるだけ早く治療を開始する必要があります。上記の症状を突然感じられた際は、すぐに救急要請をするなどして脳神経内科や脳神経外科のある医療機関を受診しましょう。
受診・予防の目安となる「片手だけ手に力が入らない」ときのセルフチェック法
- 片手だけ手に力が入らない以外に首の痛みがある場合
- 片手だけ手に力が入らない以外にうまく話せない症状がある場合
- 片手だけ手に力が入らない以外に震えがある場合
「片手だけ手に力が入らない」症状が特徴的な病気・疾患
ここではMedical DOC監修医が、「片手だけ手に力が入らない」に関する症状が特徴の病気を紹介します。
どのような症状なのか、他に身体部位に症状が現れる場合があるのか、など病気について気になる事項を解説します。
一過性脳虚血発作
一過性脳虚血発作(TIA: Transient Ischemic Attack)とは、脳への血流が一時的に低下し、脳の一部に酸素や栄養が十分に供給されなくなることで生じる症状のことを指します。TIAは「一時的」なものなので、症状は通常1時間以内に消失しますが、定義上は24時間以内に解消するものとされています。
TIAの症状は脳梗塞と似ており、突然の手足のしびれ、脱力、うまく話せない、聞いた内容を理解できない、視界がぼやける、といった症状が挙げられます。
TIAは脳梗塞の前兆となることが多いです。そのため、症状が一時的であっても、放置せずに医療機関を受診することが重要です。
原因には、動脈硬化による血管の詰まりや心臓からの血栓が脳の血管に詰まることなどが考えられます。発症を高めるリスク因子は、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症などであり、これらを管理することで、TIAや脳梗塞のリスクを減少させることが可能です。
もし上記の症状を感じたら、緊急性が高い疾患ですので早急に医療機関を受診してください。専門科は脳神経内科や脳神経外科です。
手根管症候群
手根管症候群とは、手首の部分にある「手根管」という狭いトンネルの中の神経が圧迫されることで起こる症状のことを指します。この病気の主な原因は、繰り返しの手の動きや怪我、関節の腫れなどです。症状の特徴は、最初に指先のしびれや痛みとして感じられることです。特に、親指、人差し指、中指、薬指の先がしびれることが一般的です。夜に症状が強くなることもあります。進行すると、手の筋力が低下して物を掴むのが難しくなることもあります。日常の動作、例えばスマートフォンの操作やキーボードの入力など、繰り返しの手の動きが原因となることが多いです。休憩を取る、手のストレッチをするなどの予防が大切です。手のしびれや痛み、筋力の低下を感じたら、早めに受診することをお勧めします。専門科は整形外科や脳神経内科です。緊急性はありませんができるだけ早い日程で受診しましょう。
脳梗塞
脳梗塞とは、脳の血管が詰まることで、その部分の脳組織が十分な酸素や栄養を受け取れずに壊死してしまう病気です。血管が詰まる原因には、血の塊(血栓)や動脈硬化などが考えられます。
基本的に症状は突然起こり、片側の手足のしびれや力の入らない状態、言葉がうまく話せない、顔の歪みなどが起こることがあります。また、立ちくらみやめまい、急な視覚の変化などが起こる場合もあります。
脳梗塞のリスクを高める要因には、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症などがあります。健康な生活習慣を心がけ、定期的な健康診断を受けることで、脳梗塞になるリスクを下げることができます。
もし、上記のような症状を感じた場合は、直ちに(場合によっては救急要請も検討して)医療機関を受診することが重要です。脳梗塞は「時間が命」であり、いかに早く治療を開始できるかが回復の鍵となります。早さの目安は、発症から4.5時間以内には病院で治療開始するのが望ましい、という程度です。
適切な治療を迅速に受けることで、後遺症を最小限に抑えることが可能となります。
頚椎症
頚椎症とは、頚部(首の部分)の脊椎やその周囲の組織が、外からの力や老化により変形し、症状が現れる疾患のことを指します。特に頚部の脊椎や椎間板(脊椎の骨と骨の間にあるクッションのような組織)が変性し、それが神経や脊髄に影響を与えることで症状が生じます。
初期の段階では、首の痛みやこり、疲れやすさといった軽い症状で現れることが多いです。しかし、病状が進行すると、手や腕のしびれや痛み、腕の脱力、さらには歩行が難しくなったり、排便が上手くできなくなる、といった症状が現れることがあります。
頚椎症の進行は老化に伴うものが一般的ですが、重い荷物の持ち運びや長時間のデスクワーク、不適切な姿勢なども要因に挙げられます。定期的な休憩やストレッチ、適切な姿勢の維持が予防に繋がります。
頚部に違和感や痛みといった上記の症状を感じた際は、脳神経外科や整形外科、脳神経内科を受診することをおすすめします。早い段階で頚部を診断、評価して適切な生活習慣改善や治療を行うことで、症状の進行を遅らせることができます。
頚椎椎間板ヘルニア
頚椎椎間板ヘルニアとは、首の部分にあたる頚椎の椎間板が、異常に突出し、近くの神経や脊髄を圧迫する状態のことを指します。椎間板は、脊椎の骨と骨の間にあり、クッションのような役割を果たしています。しかし、怪我や老化などの原因で椎間板が外に飛び出ることがあります。初期の段階では、症状は非常に軽いか、全くないことも多いです。
しかし、状態が進行すると、首あたりの痛みやしびれ、手や腕へ走るような痛み、手の筋力が弱くなる、といった症状が出現します。
脊髄への圧迫が重度の場合は、歩行困難、膀胱直腸障害(排便がうまくできなくなる)、などの症状が起こることもあります。
長引く首の痛みや、手や腕に走る痛みやしびれを感じている方、またはそのような症状が急に強くなった方は、早めに医療機関を受診しましょう。専門科は脳神経外科、整形外科や脳神経内科です。緊急性はありませんので日中に受診してください。
「片手だけ手に力が入らない」の正しい対処法は?
片手だけ手に力が入らない場合、基本的にはすぐに医療機関を受診する必要があります。
ただ特に手根管症候群が疑われる状態では、一部ご自身での対処が可能な時のもありますのでご紹介します。
ご自身でできる対処法には、症状の出ている手を休める(使わないようにする)、ビタミン剤を内服する、非ステロイド系消炎鎮痛薬(ロキソニン)を内服するといった方法があります。
ただしこれらも根本的な治療法というわけではありませんので、まずは一度医療機関を受診することをお勧めします。
「片手だけ手に力が入らない」症状についてよくある質問
ここまで症状の特徴や対処法などを紹介しました。ここでは「片手だけ手に力が入らない」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
片手だけ手に力が入らないときは何科に行けばいいですか?
中川 龍太郎(医師)
整形外科や脳神経内科、脳神経外科を受診しましょう。
ストレスが原因で片手だけ手に力が入らないことはありますか?
中川 龍太郎(医師)
過度なストレスから高血圧が続き、そして脳梗塞を発症する、という流れは考えられますが、ストレス単体が原因でそのような症状が出現するというのは、考えにくいです。
片手だけ手に力が入らないのは自律神経が乱れているのでしょうか?
中川 龍太郎(医師)
女性の更年期障害では、自律神経が乱れることがあります。そして更年期の当たる女性では手根管症候群がしばしば見られます。
しかし自律神経の乱れが、手に力が入らないという症状に直結するとは考えにくいです。自律神経の乱れ(自律神経失調症)はそこまで重篤な病気ではありませんが、今回取り上げた病気はいずれも適切な治療をしないと後遺症が残る重い病気です。自律神経のせいと安易に判断してしまうと大変危険ですので、早めに医療機関を受診しましょう。
まとめ 片手だけ手に力が入らないは脳梗塞の可能性あり
片手だけ力が入らない時に重要なことは、「まず脳梗塞でないか疑う」ことです。脳梗塞の場合、本当に「時間が命」になりますので、最初は間違っていてもいいから脳梗塞を疑って、それから別の疾患の可能性を考えることが重要です。
脳梗塞ではないだろうと自己判断せず、まずは病院を受診してください。
「片手だけ手に力が入らない」症状で考えられる病気
「片手だけ手に力が入らない」から医師が考えられる病気は6個ほどあります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
片手だけ手に力が入らない場合、これだけの疾患の可能性が考えられます。なかなか一般の方には判断が難しいものも多いので、一度病院でしっかり精査をすることをお勧めします。
「片手だけ手に力が入らない」に似ている症状・関連する症状
「片手だけ手に力が入らない」と関連している、似ている症状は3個ほどあります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
関連する症状
- 手が痺れる
- 脱力してしまう
- まっすぐ歩けない
片手だけ手に力が入らない症状以外に、これらの症状がある場合も「脳梗塞」「頚椎症」「パーキンソン病」などの可能性はあります。複数認める場合は、早めに病院を受診しましょう。