脱臼の処置を自己判断で行うのは危険! 症状と治療法について柔道整復師が解説
転倒して手をついてしまったり、スポーツをしたりするうえで発生することがある「脱臼」。慌てて患部を引っ張ることで脱臼を悪化させてしまい、靭帯や血管、神経などに損傷を生じさせてしまうこともあります。また、自己判断で対処してしまうと、その後の生活に支障をきたしてしまうような二次障害や合併症のリスクが高まります。脱臼の症状や治療法、正しい処置を行わなかった場合のリスクについて柔道整復師の小森さんに詳しく伺いました。
監修柔道整復師:
小森 崚司(柔道整復師)
目次 -INDEX-
脱臼とは?
編集部
脱臼とはどんな状態ですか?
小森さん
私たちの身体は骨で支えられており、その骨と骨は関節で繋がっています。本来関節は靭帯や関節包などの組織によって安定性が保たれているのですが、通常の範囲を超えて関節が本来あるべき位置から逸脱することを「脱臼」と言います。
編集部
どのような症状がおきますか?
小森さん
見た目は、骨がずれるので関節の変形が起きます。ほとんどの場合、脱臼が起きると靭帯や関節包には損傷が併発するため、患部の痛みや腫れ、内出血等の症状があらわれます。骨折を伴うと、出血量が多かったり、骨折している部位を押すと痛みを強く感じたりします。
編集部
自分で骨を戻しても大丈夫でしょうか?
小森さん
医療機関で適切な処置を受けることを強くお勧めします。中には、驚いてご自分で骨を整復される方がいらっしゃいますが、間違った方向に引っ張ってしまうと二次転移を起こし、外科手術が必要な脱臼に移行してしまうケースもあります。また、力づくの整復は骨折の危険性や神経、血管を傷つけてしまう可能性があります。その結果、固定期間が伸びて可動域制限が出てしまったり、変形性関節症や感覚障害などを引き起こしてしまったりするリスクもあります。
脱臼の検査や治療法
編集部
脱臼にはどんな検査があるのですか?
小森さん
まず身体診察に加えて、脱臼が発症した前後の状況を問診で確認します。脱臼が疑われる関節に対してはレントゲン撮影が検討されます。筋肉、神経等への損傷が疑われる場合は、さらに詳細な評価をするために、CTやMRI検査といった画像検査が検討されることもあります。
編集部
脱臼の治療法について教えてください。
小森さん
脱臼を発症したときは、まず応急処置として「脱臼部位の安静」「氷水が入った袋などで冷却」を行い、早期に整形外科などの医療機関を受診することが大切です。医療機関においては、検査に基づき関節の位置を元に戻すための「整復」が行われます。状況によっては、麻酔をかけないと処置できない場合もあります。整復後は、関節の安定を保つために、2~3週間ほど包帯やテーピングで固定し、保存的に回復するのを待ちます。固定期間中には、関節が固まらないよう脱臼の再発に注意しながらリハビリが行われます。
編集部
手術が必要になるのは、どのような状態ですか?
小森さん
皮膚を開かなければ整復できないような状態の骨折や、骨が皮膚を突き破ってしまっている状態、骨折が関節の内側にまで及んでおり不安定な関節になってしまうリスクが高い場合などは手術が必要になる可能性があります。それ以外は、一般的に手術を行わない保存療法が選択されます。
固定が外れた後の注意点
編集部
ずっと固定していると、関節は固まってしまうのでしょうか?
小森さん
固定期間中、まったく動かさないと関節は固まってしまいます。拘縮(こうしゅく)といって、筋肉や筋膜、脂肪細胞の萎縮や繊維化などが起き関節が硬くなり、その結果関節の動きが制限された状態になってしまいます。個人差はありますが、靭帯や軟骨、関節包といった関節を構成する組織の繊維化の進行が早いと、完全に可動域を回復させることが難しくなってしまうことがあります。固定期間中のリハビリはこのような拘縮を予防するために、とても重要です。
編集部
固定を外して、自分で動かしてしまってもいいのでしょうか?
小森さん
安静にすべき期間から無理に動かしてしまうと、関節の不安定性が残り再脱臼のリスクが高くなるケースもありますので、医師の指示通りの固定期間を守ることが大切です。また、自己流でリハビリを行うと、脱臼再発や可動域制限などのリスクがありますので、専門家の指示のもと適切なリハビリを継続することが重要です。
編集部
脱臼はクセになるというのは本当ですか?
小森さん
クセになる可能性はあります。一度損傷した関節包や筋肉、靭帯といった関節を構成する組織は、損傷した部位と損傷していない部位で微妙に柔軟性や弾力性、強度が違ってくる傾向にあります。いわば切れた布を繋ぎ合わせているような状態なのです。そのため、脱臼再発予防として患部への負担を減らすように筋力をつけて補っていくことがとても重要になります。また、脱臼の再発リスクを軽減させることを目的として、手術療法が選択されることもあります。手術を行うかどうかは、患者さんの年齢や職業、スポーツを行うかどうかなど、生活環境に合わせて最終的に決定されます。
編集部まとめ
脱臼は自己判断で処置を行うことで、悪化させてしまう可能性が高いことがわかりました。「これくらい大丈夫かな」と思うような症状でも医療機関を受診し、医師や柔道整復師など専門家の診断をうけたうえで治療を進めていきましょう。