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「インフルエンザ感染拡大」が止まらない! 感染動向と今年のウイルス型を医師に聞く

 公開日:2025/12/13
インフルエンザ感染拡大が続く 感染動向と今年のウイルス型とは

厚生労働省の報告によると、2025年第47週の全国のインフルエンザ総報告数は196,895件、定点当たりの報告数も51.12となり、依然として高い流行状況が続いています。こうした状況を踏まえ、現在の感染動向や今年流行しているウイルス、感染者数増加への受け止めについて、吉野医師に伺いました。

吉野 友祐

監修医師
吉野 友祐(医師)

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広島大学医学部卒業。現在は帝京大学医学部附属病院感染症内科所属。専門は内科・感染症。日本感染症学会感染症専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医。帝京大学医学部微生物学講座教授。

インフルエンザの感染動向とは?

インフルエンザの感染動向とは?

編集部

インフルエンザの感染動向について教えてください。

吉野 友祐先生吉野先生

厚生労働省の発表によると、2025年第47週(11月17〜23日)のインフルエンザ定点報告では、全国の総報告数は19万6895件、定点当たり報告数は51.12となり、依然として高い流行状況が続いています。
都道府県別にみると、最も報告数が多かったのは東京都の2万1608件で、人口規模の大きさもあり全国最多となりました。続いて多かったのは神奈川県の1万5966件、埼玉県の1万3993件、千葉県の1万1180件、大阪府の1万1060件で、首都圏および大都市圏で多数の報告が確認されています。
一方、定点当たり報告数が特に高かったのは宮城県(89.42)、福島県(86.71)、岩手県(83.43)、栃木県(74.47)などで、東北や関東の一部地域で流行が強まっている傾向がみられました。全国的に感染が広がる中、地域によって状況に差はあるものの、引き続き注意が必要な状態となっています。

今年流行しているインフルエンザとは?

今年流行しているインフルエンザとは?

編集部

今年流行しているインフルエンザについて教えてください。

吉野 友祐先生吉野先生

今年、国内で流行しているインフルエンザは、主にA型のウイルスが中心です。インフルエンザウイルスはA型・B型などに分類されます。直近5週間(2025年第43〜47週)の検出状況を見ると、最も多いのは AH3亜型で、検出されたウイルスの約94%を占めています。次いでAH1pdm09が3%、B型が3%と続きます。
年や地域によって流行する型は異なりますが、今年は特にAH3亜型が国内の流行を主導している状況です。

インフルエンザ感染者数増加への受け止めは?

インフルエンザ感染者数増加への受け止めは?

編集部

最後に、インフルエンザ感染者数増加への受け止めを教えてください。

吉野 友祐先生吉野先生

今年の流行は、例年よりも早い時期から始まり、規模も大きくなっています。なぜここまで早く、そして強い流行になっているのかを一つの理由に絞ることはできませんが、いくつかの背景が重なっていると考えられます。COVID-19が流行していた数年間、マスクや行動制限の影響によるものかインフルエンザそのものがほとんど流行せず、多くの人がインフルエンザに触れないまま過ごしてきました。その結果、社会全体としてインフルエンザに対する免疫が下がっていた可能性があります。さらに、海外との往来やインバウンドが戻り、人の動きが活発になったことで、ウイルスが人の移動に乗って国内に入り、広がりやすい状況になっていると考えられます。インフルエンザウイルスは自分では動けず、人の体の中で増え、人と一緒に動いていく存在であり、人の流れが活発になるほど、どうしても広がりやすくなります。
現在の流行の主役はA型のH3N2(AH3亜型)というタイプで、その中でも「サブクレードK」と呼ばれる、これまで日本でよく見られていたタイプとは性質が少し異なるグループのウイルスが目立っています。インフルエンザウイルスは「抗原ドリフト」と呼ばれる連続的な変化を起こしながら、抗原性、つまり私たちの免疫やワクチンから見え方が少しずつ変わっていきます。そのため頻繁に流行する型が入れ替わります。今回流行しているサブクレードKは、従来のH3N2と比べて免疫との“相性”がやや異なる可能性があり、今季の強い流行と関係していると考えられます。
加えて、現在主に使われているインフルエンザワクチンの多くは、鶏卵の中でウイルスを増やしてから不活化して作る方式です。H3N2はもともと変化しやすいタイプですが、ワクチン製造の過程でウイルスを繰り返し卵の中で増やしていくと、卵の環境になじむ方向に変化する「卵馴化」が起こることがあります。その結果として、実際に人の間で流行しているウイルスと、卵で増やして作られたワクチン株の抗原性のあいだにわずかなずれが生じる場合があります。このずれが大きいシーズンには、特にH3N2に対して、感染そのものを防ぐ力が十分に発揮されにくいことがあり、今回のような流行規模の大きさの一因になっていると考えられます。
とはいえ、そのような条件が重なっているシーズンでも、インフルエンザワクチンには重症化や入院のリスクを下げるという大切な役割があります。今季は流行が強く、学級閉鎖なども目立ちますが、私たちが取るべき基本は変わりません。ワクチン接種や手洗い、場面に応じたマスク着用、具合が悪いときに無理をしないといった日常の感染対策を丁寧に続けること、そして気になる症状が出たときには受診のタイミングを逃さず、必要なときに適切な医療につながることが、今季の流行を乗り切るうえで何より重要です。

編集部まとめ

全国的にインフルエンザの流行が続いており、今後も注意が必要です。流行状況は地域差があるため、自治体や医療機関が発信する最新情報をこまめに確認し、体調管理や基本的な予防対策を心がけることが大切です。無理をせず、気になる症状がある場合は早めに医療機関へ相談しましょう。

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