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「入浴中の死亡リスク」最も高い“都道府県”が研究で判明 11万件超データで見えた地域差

 公開日:2025/10/01

奈良県立医科大学の研究員らは、屋外気温と入浴中の死亡リスクの関連を分析した調査結果を発表しました。調査は全国11万件以上のデータを対象におこなわれ、特に高齢者や男性で高いリスクが示されました。今回は研究の内容や寒くなるこれからの時期に注意すべき入浴時のポイントについて、医師の眞鍋先生に解説していただきました。

眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

入浴中の死亡リスクに関する研究内容とは?

奈良県立医科大学の研究員らが発表した内容を教えてください。

眞鍋 憲正 医師眞鍋先生

奈良県立医科大学の研究員らは、1995~2020年までの日本全国における入浴関連溺死11万件超を対象に、屋外気温との関連を分析し、地域(都道府県)別の差異を明らかにすることを目的とした研究を実施しました。解析には気象庁の気温データや統計局のデータを用い、一般化加法混合モデル、さらには都道府県レベルの修飾因子をメタ回帰分析で検証しました。

その結果、日平均気温が1.8℃のときに入浴関連の溺死リスクが最も高く、最低リスクである30.3℃を1としたとき、相対リスクは9.7(95%信頼区間9.5–9.9)となりました。この関係は特に男性や65歳以上の高齢者で顕著でした。また、地域差も明らかになり、鹿児島県では相対リスク19.6と最も高く、北海道では3.8と最も低い結果でした。さらに、二重窓の普及率が低いことや年間平均気温が高いことがリスク上昇に寄与していることが示されました。

以上の結果から「温暖な南部地域においては、寒冷な北部よりも入浴関連死亡のリスクが高い」という逆説的な傾向が確認され、地域特性に応じた予防介入の重要性が強調されました。

寒くなるこれからの時期の入浴中の注意点

寒くなるこれからの時期、入浴中に注意すべきことを教えてください。

眞鍋 憲正 医師眞鍋先生

寒さが厳しくなるこれからの季節は、入浴中の事故に特に注意が必要です。冬場は脱衣所や浴室と居間との温度差が大きくなり、急激な血圧変動を引き起こす「ヒートショック」の危険が高まります。そのため、入浴前には脱衣所や浴室を暖め、寒暖差をできるだけ少なくすることが大切です。また、湯温は41℃以下に設定し、長湯を避けてお湯につかる時間は10分程度までとしましょう。かけ湯をして体を慣らし、浴槽からはゆっくり立ち上がることも重要です。さらに、空腹時や食後すぐ、飲酒後や薬の服用後の入浴は体調を崩す原因となるため避けましょう。入浴前には家族にひと声かけ、入浴中は家族が様子を気にかけることも事故防止につながります。

誰にでも起こり得ることとして、日々の入浴を安心して楽しむために、これらのポイントを意識して安全に過ごしましょう。

入浴中の死亡リスクに関する研究の受け止めと対策

入浴中の死亡リスクに関する研究への受け止めを教えてください。

眞鍋 憲正 医師眞鍋先生

今回の研究は、長期にわたり各都道府県のデータを用いて、外気温と入浴関連溺死の関係およびそれに影響を与える要因を調査した点で初の試みです。従来とは異なる統計手法を採用することで、より柔軟なモデル構築が可能となり、外気温よりも住居内の気温が入浴関連溺死に深く関与していることが示唆されました。

一般に、ヒートショックによる溺死が寒冷地域では多いイメージがありますが、断熱性の高い住居が多いため屋内の温度差は小さくなります。一方、南部の温暖地域では断熱性の低い住居が多く、屋内で急激な温度変化が起こりやすいため、入浴関連溺死のリスクがむしろ高まる可能性が考察されています。特に寒冷ではない地域で古い家屋や断熱性の低い家に住む高齢者は、より一層の注意が必要です。

編集部まとめ

今回の研究では、屋外気温と入浴中の死亡リスクに密接な関係があること、そして地域ごとに差があることが明らかになりました。特に冬の寒暖差によるヒートショックは、誰にでも起こり得る危険です。安全に入浴を楽しむための工夫を今日から意識して実践しましょう。

この記事の監修医師