「膵臓がん」が悪化する仕組みはご存じですか? 研究で示唆された“進行抑制の方法”も医師が解説

京都大学の研究グループは、膵臓がんが悪化する分子レベルの仕組みについて新たな知見を得ました。 研究によると、「PBRM1」というタンパク質の発現が低いと膵臓がんは分化度が低くなり、転移しやすく、抗がん剤が効きにくいタイプへと進行しやすいことがわかりました。PBRM1が欠損すると、「Vimentin」という上皮間葉転換（EMT）に関与するマーカーの発現が増加し、細胞同士の結びつきが弱まり、がん細胞がより自由に移動・転移しやすくなります。実際にマウスを使った実験でも、PBRM1を欠いた膵臓がんは転移が増え、治療に対する反応も鈍くなり、生存期間が短くなる傾向が確認されました。しかし、Vimentinの働きを薬剤などで抑えることで、がんの分化度が高まり、転移が抑えられる可能性も示されました。

膵臓がんは発見が難しく、進行するまで自覚症状が表れにくいがんで、主な原因としては家族歴、糖尿病、慢性膵炎、肥満、喫煙、大量飲酒などが挙げられます。糖尿病を発症して間もない時期には、膵臓がんのリスクがより高くなることも指摘されています。 初期には特有の症状はなく、腹痛や体重減少、黄疸、背中の痛みなどが進行とともに出現します。また、糖尿病の急な発症や悪化がきっかけで見つかることもあります。膵臓の奥深くに位置するため、検査を受けなければ見つかりにくいのが特徴です。 早期発見と予防のためには、生活習慣の改善と、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することが重要です。日々の体調変化を見逃さず、健康管理を心がけましょう。

この研究の強みは、分化度が低く悪性度の高い膵臓がんに対して、新たな治療標的の可能性を示した点にあります。さらに今後、PBRM1やVimentinの機能を指標とした膵臓がんの悪性度評価や治療法の開発、さらには既存薬の応用展開へと発展することが期待されます。一方で、現在の課題としては、ヒト膵臓がん患者に対するVimentin阻害剤の有効性および安全性を臨床試験で検証する必要があること、さらにPBRM1やVimentinを活用した新たな分子標的治療法の確立が求められる点が挙げられます。