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「認知症」はワクチン接種で防げる可能性 “帯状疱疹ワクチン”で発症リスク低下 研究で判明

 公開日:2025/05/02

アメリカのスタンフォード大学の研究員らは、「帯状疱疹ワクチンを接種することで、認知症のリスクが下がる可能性がある」という研究結果を発表しました。この研究は、ワクチンの接種データを活用して、約7年にわたって多くの人の健康データを調べたものです。この内容について五藤医師に伺いました。

【認知機能の維持向上につなげる】脳の健康度をチェック!

五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

研究グループが発表した内容とは?

アメリカのスタンフォード大学の研究員らが発表した内容を教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

アメリカのスタンフォード大学の研究者らは、帯状疱疹ワクチンの接種と認知症の発症リスクの因果関係を検証する自然実験をおこないました。

研究の結果、ワクチン接種の対象となったグループでは、7年間の追跡期間中に認知症と診断される確率が3.5ポイント、相対的には約20%低下していたことが明らかになりました。特にこの傾向は女性でより顕著でした。また、死亡診断書のデータを用いた検証においても一貫した結果が得られており、交絡因子の影響が少ない、信頼性の高い知見と評価されています。ただし、この研究が対象としたのは旧型の生ワクチン(ゾスタバックス)であり、現在広く使われている組換え型ワクチン(シングリックス)については検証されていない点に注意が必要です。

研究テーマになった認知症とは?

今回の研究テーマに関連する認知症について教えてください。認知症の前兆となるサインや予防法について教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

認知症は、一度正常に発達した認知機能が脳の障害によって低下し、日常生活に支障をきたす状態を指します。特に多いのはアルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性の3つのタイプです。

認知症の前兆としては、「もの忘れが目立つようになる」「食事をしたこと自体を忘れる」「同じ質問を何度もする」「今が何月か分からなくなる」などが挙げられます。また、「理解力や判断力の低下」「集中力が続かない」「趣味や身だしなみに対する興味が薄れる」など、性格や行動にも変化が表れます。こうした変化に家族がいち早く気づくことが、早期発見・早期治療の鍵となります。

認知症の予防法としては、生活習慣病(高血圧・糖尿病など)の管理、適度な有酸素運動、そして他者とのコミュニケーションが効果的とされています。特に社会活動や新しい人との交流は、脳への良い刺激となり、進行の抑制にもつながります。忘れっぽさや上述の変化などを感じたら、専門医や「もの忘れ外来」にできる限り早く相談することが大切です。

認知症に関する研究内容への受け止めは?

アメリカのスタンフォード大学の研究員らが発表した内容への受け止めを教えてください。

五藤 良将 医師五藤先生

今回のスタンフォード大学の研究は、自然実験として極めて洗練された手法を用いており、観察研究におけるバイアスを可能な限り排除した点で、非常に高く評価できます。特に、回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design)を活用して、政策導入のタイミングを境に比較している点は、疫学的な因果推論として信頼性の高いアプローチです。

ワクチン接種によって認知症の発症率が有意に低下したという結果は、感染症予防にとどまらず、神経変性疾患のリスク軽減という新たな視点にも光を当てるものです。とりわけ、炎症と神経変性との関連が以前から指摘されていた中で、帯状疱疹ウイルスの再活性化が中枢神経に与える影響を予防できる可能性は、今後の研究深化の重要な契機となるでしょう。ただし、今回の研究対象はゾスタバックスという旧型のワクチンであり、日本国内で現在使用されているのは生ワクチン(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)と不活化ワクチン(シングリックス)である点に注意が必要です。シングリックスでも同様の効果がみられるかどうかは、今後の前向き研究や大規模なデータベース解析が待たれます。

なお、ゾスタバックスは「弱毒生水痘ワクチン(ビゲン)」と同じOka株由来の生ワクチンですが、高齢者にも有効な免疫応答を誘導するために、約19倍のウイルス力価に調整されています。一方、シングリックスはウイルス成分を用いた組換え型サブユニットワクチンであり、ワクチンの効果を高めるアジュバントの作用によって免疫不全の人にも使用可能で、90%以上の高い予防効果が示されています。このように、それぞれのワクチンには対象年齢や接種目的、免疫誘導の仕組みに明確な違いがあるため、今後はシングリックスにおいても同様に認知症リスクを低減できるかどうかの検証が強く望まれます。

編集部まとめ

今回紹介した研究では、帯状疱疹ワクチンの接種が認知症の発症リスクを抑える可能性が示されました。認知症は生活習慣や日々の刺激の積み重ねでも予防が可能です。規則正しい生活、バランスの取れた食事、他者との交流を意識しながら、自身の健康を守っていきましょう。

この記事の監修医師