あなたの脳にも「スプーン1本分のマイクロプラスチック」が蓄積? 驚くべき新事実が研究で判明

アメリカのニューメキシコ大学を中心とする研究チームは、2016~2024年にかけてアメリカで収集された死後の人間の脳、肝臓、腎臓の組織サンプルを分析し、マイクロプラスチックの蓄積状況を調査しました。研究結果は、医学系学術誌「Nature Medicine」に掲載されています。この内容について五藤医師に伺いました。

監修医師:
五藤 良将(医師)
研究グループが発表した内容とは?
ニューメキシコ大学を中心とする研究チームが発表した内容を教えてください。

今回紹介する研究報告は、ニューメキシコ大学健康科学センターやデューク大学、ハーバード大学、オクラホマ州立大学などの研究機関が共同で実施したものです。2025年2月3日に公開された研究によると、マイクロプラスチック(MNP)が死後の人間の脳に蓄積していることが確認されました。
近年、環境中のマイクロプラスチック濃度が世界的に増加しており、人体への影響が懸念されています。今回の研究では、熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法や電子顕微鏡などの技術を用いて、肝臓、腎臓、脳の組織におけるマイクロプラスチックの分布が調査されました。その結果、脳組織には特に高い濃度のマイクロプラスチックが蓄積しており、主にポリエチレンが多く含まれていることが判明しました。また、2016年と2024年のサンプルを比較すると、脳と肝臓におけるマイクロプラスチック濃度が大幅に増加していたことも明らかになっています。さらに、認知症患者の脳では、マイクロプラスチックが血管壁や免疫細胞に沈着し、より多く蓄積している傾向がみられました。
今回の研究結果は、マイクロプラスチックが人間の脳に蓄積しやすいことを示唆しており、神経疾患への影響を含め、さらなる調査の必要性を強調しています。また、平均的な人間の脳に蓄積されたマイクロプラスチックは「プラスチック製のスプーン1本分に相当する」と説明しています。ただし、マイクロプラスチックの蓄積が健康にどのような影響を及ぼすのか、また因果関係があるのかについては、まだ明らかになっていません。環境中のマイクロプラスチック濃度が今後も増加し続けることを考えると、人体への影響をより詳細に分析し、適切な対策を講じる必要があると言えます。
マイクロプラスチックは人体に有害?
マイクロプラスチックは人体に有害ですか? 何に含まれているのでしょうか?

マイクロプラスチックは、人体に有害である可能性があります。具体的には、ナノサイズまで微細化したマイクロプラスチックが血液脳関門を通過し、脳に到達する可能性が指摘されています。また、マイクロプラスチックは環境中で有害化学物質を吸着しやすく、体内に取り込まれた際にそれらの化学物質が溶け出すリスクもあります。
マイクロプラスチックは、歯磨き粉や洗顔料のスクラブ剤、衣類の化学繊維、食品包装、ペットボトル、レジ袋、プラスチック容器など、私たちの身の回りの多くの製品に含まれています。特に、洗顔料や歯磨き粉に含まれる「一次マイクロプラスチック」は、微細なプラスチック粒子(マイクロビーズ)で、下水処理施設を通過し、環境中に流出する可能性があります。食品や飲料水を通じた人体への蓄積が懸念されており、長期的な健康リスクについてさらなる研究が必要です。
マイクロプラスチックに関する研究内容への受け止めは?
ニューメキシコ大学を中心とする研究チームが発表した内容への受け止めを教えてください。

今回の研究結果は、マイクロプラスチックが脳にまで到達し、蓄積する可能性を示唆しており、非常に重要な意義を持つものです。これまでの研究では、主に消化管や肺への影響が注目されてきましたが、脳に対する影響が確認されたことで、神経疾患との関連がより深く検討されるべき課題となりました。特に興味深いのは、認知症患者の脳においてマイクロプラスチックの蓄積が多くみられた点です。これは、炎症や酸化ストレスを引き起こし、神経変性疾患の進行に関与する可能性を示唆しています。
ただし、今回の研究は観察研究であり、因果関係を明確に示すものではありません。今後は、疫学研究や動物実験を通じて、マイクロプラスチックがどのように脳機能に影響を与えるのかを解明することが求められます。また、環境中のマイクロプラスチック濃度が増加している現状を考えると、食品や飲料水を介した人体への影響を評価し、規制や対策を強化することが重要です。日常生活においては、プラスチック製品の使用を減らすことや水道水の浄化対策などが、マイクロプラスチック曝露の軽減に寄与する可能性があります。
編集部まとめ
今回の研究では、私たちが日々使用するプラスチックが最終的に体内に入り、脳や臓器に蓄積する可能性が示されました。日常生活での対策として、ペットボトルやプラスチック製品の使用を減らし、環境に優しい選択を意識することが重要です。環境中のマイクロプラスチックを減らすことが、将来的な健康リスクの軽減につながるかもしれません。