「糖尿病」治療でインスリン注射が不要な未来へ iPS細胞を用いた治験を開始
京都大学医学部附属病院の研究グループは、免疫異常などで発症すると言われる「1型糖尿病」について、iPS細胞を用いた治験を始める方針を公表しました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
研究グループが発表した内容とは?
京都大学医学部附属病院の研究グループが発表した内容を教えてください。
中路先生
今回発表された研究は、京都大学医学部附属病院の研究グループが2024年9月2日に開いた会見で明らかにされたものです。
京都大学医学部附属病院の研究グループは、免疫の異常などで発症するとされる1型糖尿病について、健康な人のiPS細胞からインスリンを分泌するすい島細胞の塊を作り、それをシート状に形成したものを患者の腹部に移植する計画を明らかにしました。すでに研究計画は国に届け出されているそうです。すい島細胞のシートは、20歳以上65歳未満の患者3人に対してが移植され、移植手術は京都大学病院でおこなわれるとのことです。
研究グループは「国の調査を受けた後、早ければ2025年2月にも安全性を確認する治験を進めていきたい」としています。今回の治験で使われるすい島細胞シートは、京都大学と武田薬品工業の共同研究から生まれた「オリヅルセラピューティクス」というベンチャー企業が製造します。研究グループは、今回発表した知見について「将来的には、インスリンの注射回数が減ること、そしてベストケースとしては注射しなくてもいい世界が見えてくることを期待している」とコメントしています。
1型糖尿病とは?
今回の治験の対象となった1型糖尿病について教えてください。
中路先生
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを出すβ細胞が壊れることで起きる病気です。β細胞からインスリンがほとんど出なくなることが多く、治療にはインスリン製剤が使われることになります。糖尿病と聞くと、生活習慣が関わる「2型糖尿病」をイメージする人が多いと思いますが、1型と2型では原因や治療が大きく異なります。
世界的に見ると、糖尿病全体の約5%が1型糖尿病と言われています。1型糖尿病でβ細胞が壊される原因はよくわかっていませんが、「免疫反応が正しく働かないことで自分の細胞を攻撃する」「自己免疫が関係している」などが考えられています。自己抗体の血液検査は、1型糖尿病の診断の際に用いられています。β細胞の破壊は一般的には進行性で、病気が進んでいくとインスリンがほとんど出せない状態となります。1型糖尿病は、進行のスピードによって「劇症」「急性発症」「緩徐進行」の3つに分類されます。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
京都大学医学部附属病院の研究グループが発表した内容への受け止めを教えてください。
中路先生
本研究が実用化されれば、1型糖尿病患者に対するインスリンの注射回数が減り、場合によってはインスリン注射フリーな状態となり、患者のQOLの向上につながる可能性があります。また、現在おこなわれている、重症患者へのすい島細胞移植のドナー不足の問題の解決につながることも期待されます。今後の課題として、移植後のすい島細胞シートの体内での長期的な安全性の検討が必要と思われます。
まとめ
京都大学医学部附属病院の研究グループは、1型糖尿病の治療について、iPS細胞を用いた治験を始める方針を公表しました。アメリカでは「バーテックス」という企業が、人の幹細胞から作ったすい島細胞を用いた治験を実施しており、2024年6月には投与された患者12人全てで細胞が定着し、インスリンが出ているのを確認したと発表しています。今回の治験の結果にも大きな注目が集まりそうです。