ブタ腎臓を移植された男性が死亡、病院側「因果関係ない」 残された家族がその思い語る
アメリカのマサチューセッツ総合病院は、生きた患者に対する世界初のブタの腎臓移植手術を受けた男性が死亡したことを発表しました。この内容について中路医師に伺いました。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
マサチューセッツ総合病院が発表した内容とは?
アメリカのマサチューセッツ総合病院が発表した内容について教えてください。
中路先生
今回、マサチューセッツ総合病院が発表したのは、2024年3月に遺伝子編集されたブタの腎臓を世界で初めて移植された腎臓病の男性患者、リチャード・リック・スレイマンさんが亡くなったという内容です。マサチューセッツ総合病院は、公式SNSで「突然の逝去に深い悲しみを覚える」と述べた上で、スレイマンさんの死亡については「最近の移植の結果であったという兆候はない」とコメントしています。
スレイマンさんは、2018年に人体腎臓移植を受けていましたが、病状は悪化していました。異なる種からの移植を試みるため、「同情的使用」規則に基づいた手術の承認をFDA(アメリカ食品医薬品局)から得ていました。この同情的使用の承認は、患者が重篤、あるいは直ちに生命を脅かす病気や状態で、代替治療がない場合に与えられるものです。
スレイマンさんの家族は、メディア各社への声明で「最愛のリックの突然の逝去に深い悲しみを覚えるが、彼が多くの人々にインスピレーションを与えたことを知り、大きな慰めとなっている」と述べるとともに「医療スタッフたちはリックに2度目のチャンスを与えるために、本当にできる限りのことをしてくれた」と医師たちに感謝の意を語っています。
ブタの腎臓移植については「異種移植を導いた彼らの多大な努力のおかげで、私たち家族はリックと7週間も多く一緒にいることができた。その間に作られた思い出は、私たちの心の中に残り続けるだろう」と評価しています。マサチューセッツ総合病院は「世界中の数え切れないほどの移植患者の希望の光として、彼の名は永遠に残るだろう」と述べています。
男性が受けたブタの腎臓移植とは?
今回亡くなったことが発表されたスレイマンさんが受けた、ブタの腎臓移植について教えてください。
中路先生
世界初の事例となった生きている患者へのブタの腎臓移植は、マサチューセッツ総合病院の研究グループがおこないました。移植されたブタの腎臓は、アメリカのバイオ企業であるイージェネシス社が提供し、拒絶反応を起こす遺伝子が取り除かれ、感染症を引き起こす恐れのある特定のウイルスを不活性化させるなど、移植に際したリスクを抑制するようにされていました。
2024年3月16日、研究グループは当時62歳の腎臓病の男性患者であったスレイマンさんに、この遺伝子操作したブタの腎臓を移植しました。スレイマンさんは手術後、順調に回復し、3月16日の手術から数日で歩けるようになり、4月3日に退院しています。
研究グループの1人で移植を担当した河合達郎医師は、手術成功直後のメディア取材に対して「患者に移植した腎臓が機能し始めたのを見て、手術室にいた全員が拍手した」とコメントを残しました。また、別のメディアからの取材では「臓器移植が容易になり、将来的に人工透析が不要になるかもしれない」とも語りました。また、スレイマンさん本人は、手術を受けたことへの思いについて「移植を必要とする多くの人の希望になる」と考えて手術に合意したと明かしていました。
ブタの腎臓移植を受けた男性が亡くなったことへの受け止めは?
世界初となるブタの腎臓移植を受けた男性が亡くなったことへの受け止めを教えてください。
中路先生
現在、移植臓器の不足が指摘されており、アメリカでは年間数千人の人が移植を受けられないまま死亡しています。動物の臓器を人に移植すること(異種移植)が可能になれば、移植臓器の不足の解消につながり、多くの移植を待つ人の命を救うことが可能になります。今回の患者さんの死因と移植との因果関係は低いとのことでした。今後、異種移植を推進していくためには、どのようにして移植後の生存期間を伸ばしていくかが課題となりそうです。
まとめ
アメリカのマサチューセッツ総合病院は、ブタの腎臓移植手術を受けた男性が死亡したことを発表しました。世界で初めての生きた患者への移植手術だった今回の事例は、大きな注目を集めそうです。