「脊髄髄膜瘤」の胎児への子宮切開手術に成功、日本初の快挙! 大阪大学が発表
大阪大学は、「指定難病の脊髄髄膜瘤と診断された胎児の手術に成功した」と発表しました。母体の子宮を切開する手法で手術に成功したのは国内初の快挙です。このニュースについて馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
大阪大学が発表した内容とは?
大阪大学が発表した内容について教えてください。
馬場先生
研究グループが対象にした胎児脊髄髄膜瘤については、神経障害が軽度である妊娠中に治療をする「胎児脊髄髄膜瘤閉鎖術」がアメリカで開発されています。現在、海外の主要な胎児治療実施施設では標準治療の1つの選択肢として実施されているのですが、日本ではこれまで実施されていませんでした。実施されなかった理由について、研究グループは「妊娠早期での診断率が高くない」「母体に対して最小限の侵襲でおこなうことを目標にしている」「高度な周術期管理が必要」「技術的に難しい」といった理由を挙げています。
研究グループは今回、妊娠26週未満で診断された脊髄髄膜瘤の胎児に対して、母体開腹・子宮開放胎児髄膜瘤閉鎖術を実施しました。その結果、患者はキアリⅡ型奇形が改善し、下肢運動機能が改善したことで、生涯にわたる神経障害を軽減することができたとのことです。また、脳室腹腔シャントを必要とする患者さんの割合が減少したことも報告されています。
今回の結果について研究グループは「治療成果は胎児期における脊髄髄膜瘤治療の新たな道筋となり、生後のQOLの向上に寄与するとともに、同様の診断を受けたほかの胎児・家族への希望となることが期待されます」とコメントしています。さらに、「諸外国と比較して改善の余地がある日本の胎児診断率について、胎児手術が治療選択肢になることで、その胎児診断率が改善することにつながると考えられます」とも述べています。
脊髄髄膜瘤とは?
今回取り上げる脊髄髄膜瘤について教えてください。
馬場先生
脊髄髄膜瘤は難病に指定されており、胎児が母親の胎内で形成されていく過程で、腰やお尻の上の皮膚や骨などが閉じきれず、脳から続く脊髄が体表に出ている状態になっている病気です。患者の多くは、脳に髄液が貯留する水頭症や、脳の一部が脊柱管内に下垂するキアリⅡ型奇形なども伴っています。今回紹介した大阪大学の研究グループの成果でも、キアリⅡ型奇形が改善されたケースが報告されていたのは、こうした理由です。
患者によって症状に個人差がありますが、足が変形した状態で生まれたり、動きや感覚が鈍くなったりすることなどが挙げられます。また、成長するとともに、尿が上手く出なかったり、強い便秘に悩んだりすることもあります。水頭症の症状によっては、発達の問題も出てくるケースがあります。病気になる理由としては、栄養、遺伝、環境などが関与しています。妊娠前から葉酸を十分に内服すると、60~70%の確率で発生を予防できると言われています。
大阪大学が発表した内容への受け止めは?
今回、大阪大学が発表した内容についての受け止めを教えてください。
馬場先生
脊髄髄膜瘤は国内において、出生後早期に手術することがほとんどです。開放されている脊髄髄膜瘤からの感染を予防するため、赤ちゃんが生まれた後48時間以内を目安に、早期に脊髄髄膜瘤を閉鎖する手術がおこなわれます。
ただし、今回のような報告があるように、お腹の中に赤ちゃんがいる状態での「胎児治療」の場合は、「出生後治療」と比べて術後の運動機能の改善、水頭症に対するシャント手術が必要な割合が減少するなど、治療効果が良好です。そのため、諸外国では胎児治療が選択される場合が多い傾向にあります。
しかしその一方、脊髄髄膜瘤に対する胎児治療は、非常に難易度が高く、リスクの高い手術です。胎児治療の場合は、妊娠している女性への手術となるので、妊婦への専門的な周術期管理が必要となります。また、妊娠子宮に切開することになるので、早産、前期破水、胎盤早期剥離、子宮切開創の菲薄化や創部離開などのリスクがあります。手術リスクだけでなく、周産期リスクも伴うため、手術適応は慎重に判断される必要があると考えられます。
なお、脊髄髄膜瘤の日本での発生頻度は0.03~0.04%と、非常に稀な病気です。妊娠前から適切な量の葉酸を摂取することで予防効果が期待できるため、妊娠を希望されている女性はとくに葉酸の摂取を意識するようにしましょう。
まとめ
大阪大学は、「指定難病の脊髄髄膜瘤と診断された胎児の手術に成功した」と発表しました。母体の子宮を切開する手法で手術に成功したのは国内初めてのことになり、大きな注目を集めそうです。