妊娠中の「つわり」の原因を特定、治療や予防につながる可能性 英研究
イギリスのケンブリッジ大学らの研究グループは、「妊娠中のつわりについて、胎盤を通じて胎児から受けとる特定のホルモンが関連している」との研究結果を発表しました。この内容について馬場医師に伺いました。
監修医師:
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)
目次 -INDEX-
研究グループが発表した内容とは?
イギリスのケンブリッジ大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
馬場先生
ケンブリッジ大学らの研究グループは、妊娠中のつわりとGDF15(成長化因子15)というホルモンの関係を調べました。研究成果は、科学誌「Nature」に掲載されています。
研究グループが発表した論文によると、つわりの重症度には、胎児が作り出すGDF15の量と、母親がGDF15が起こす吐き気作用に対してどれだけ敏感かが関係していると示しています。GDF15は人間の体内で作られるホルモンで、食欲や吐き気を感じる脳の部位に信号を送るタンパク質です。胎盤に多く含まれることが知られています。また、研究グループは、マウスを用いた実験で、GDF15を注射する前にGDF15を長期投与されていたマウスでは、対照群と比較して、強い吐き気によるとみられる食欲不振の発症リスクが50%近く低下したことを示しました。
研究グループはGDF15の長期的な投与によって、つわりが重症化して妊娠悪阻を発症するリスクを低減できると考えており、現在は糖尿病治療薬のメトホルミンを用いて妊娠前の女性のGDF15値を上昇させる臨床試験を進めています。研究グループを主導しているケンブリッジ大学のスティーブン・オライリー教授は「子宮内で成長する赤ちゃんは、母親が慣れていないレベルのホルモンを分泌している。母親がこのホルモンに敏感であればあるほど、母親は病気になる。このことが分かれば、つわりを防ぐその手がかりを得ることができます。また、GDF15が母親の脳にある非常に特異的なレセプターにアクセスするのを阻止することが、最終的につわりを治療する効果的で安全な方法の基礎になる」と語っています。
つわりとは?
イギリスのケンブリッジ大学らのグループによる研究テーマになった、つわりについて教えてください。
馬場先生
つわりとは、妊婦に見られる吐き気、嘔吐、食欲不振などの不快な症状のことです。妊娠初である5~6週頃からみられ始め、妊娠12~16週頃にはよくなることが多いとされています。妊婦のうち50~80%が何らかのつわり症状を経験すると言われていますが、ほとんど症状がない人もいれば、吐き気がひどくて食事をとることができなくなる人もいます。つわりによる体重減少が5%以上に至った場合は、妊娠悪阻と呼ばれ、頻回な嘔吐と著しい食思不振が生じることで脱水や栄養代謝障害が出ている状態になります。つわりは治療が必要になることがほとんどない一方で、妊娠悪阻は適切な治療を受けないと脳や肝臓に障害を引き起こすなどの重篤な合併症を生じることも少なくないので注意が必要です。
今回の発表内容への受け止めは?
イギリスのケンブリッジ大学らの研究グループが発表した内容について、受け止めを教えてください。
馬場先生
これまで、つわりの原因として様々な原因が考えられてきました。とくに妊娠に伴うホルモンバランスの変化、黄体ホルモンである「プロゲステロン」による消化管運動の低下、妊娠性ホルモンである「hCG」、卵胞ホルモンである「エストロゲン」などによる嘔吐中枢の刺激などが原因ではないかと言われてきました。ほかにも、ビタミン不足、血糖値の変化、妊娠に伴う環境の変化、心理的なストレス、疲労などがつわりの原因と考えられていました。
つわりの治療として、妊娠中の安全に使用できる薬剤は限られており、ビタミン製剤や吐き気止め、点滴などで予防・治療などおこなうことが主流です。しかし、劇的な治療効果はなく、妊娠週数とともにつわりが自然に軽快するのを待つ場合がほとんどです。今回の研究結果によって、つわりの新たな治療薬の開発、つわりの詳細なメカニズム解明に寄与することが期待されるでしょう。
まとめ
イギリスのケンブリッジ大学らの研究グループは、妊娠中のつわりについて、胎盤を通じて胎児から受けとる特定のホルモンに関連しているとの研究結果を発表しました。多くの妊婦が経験するつわりについての研究は、大きな注目を集めそうです。