コーヒーを飲むと筋肉が若返る!? “コーヒー豆”に含まれる成分の効果が新たに判明!
シンガポール国立大学らの研究グループは、コーヒーなどに含まれる天然化合物「トリゴネリン」が、筋肉の機能を改善に役立つという論文を発表しました。この内容について甲斐沼医師に伺いました。
監修医師:
甲斐沼 孟(上場企業産業医)
研究グループが発表した内容とは?
シンガポール国立大学らの研究グループが発表した内容について教えてください。
甲斐沼先生
今回紹介する研究は、シンガポール国立大学らの研究グループによるもので、研究成果は学術誌「Nature Metabolism」に掲載されています。
骨格筋の老化とサルコペニア、つまり加齢や疾患によって筋肉量が減少して筋力の低下などを起こすことの特徴として、ミトコンドリアの機能不全とNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)レベルの低下が知られています。研究グループは、ニコチン酸と構造が似ているトリゴネリンの循環レベルと、NAD+レベル、筋肉の健康状態と関連を調べました。
研究グループは、線虫、マウス、健常な人、サルコペニア患者を対象に研究をおこないました。その結果、線虫、マウス、健常な人、サルコペニア患者の一次筋管において、トリゴネリンがNAD+プールに取り込まれ、NAD+レベルを増加させることを証明しました。また、「線虫の場合、トリゴネリンはミトコンドリアの呼吸と生合成を改善し、加齢に伴う筋肉の衰えを軽減して、寿命と運動能力を向上させる」と論文では説明されています。さらに、雄マウスにトリゴネリンを摂取させると、筋力が増強され、加齢に伴う疲労が抑制されたとのことです。
研究グループは、このような研究の結果から「トリゴネリンの栄養補給は、加齢に伴う筋力低下を治療できる可能性がある“NAD+増強戦略”であることが明らかとなった」と総括しています。
トリゴネリンとは?
今回の研究テーマとなったトリゴネリンについて教えてください。
甲斐沼先生
トリゴネリンはアルカロイドと呼ばれる種類の分子です。様々な植物に含まれている分子ですが、特にコーヒー豆に多く含まれていることが知られています。スパイスのフェヌグリークや大麦、トウモロコシ、大豆、タマネギ、トマトなどにも含まれています。
トリゴネリンを巡っては最近様々な研究がおこなわれており、筑波大学らの研究グループがトリゴネリンの記憶と空間学習に及ぼす影響の研究結果を昨年に発表しています。マウスを使った実験では、30日間トリゴネリンを経口投与したマウスは、投与していないマウスと比べて空間学習記憶能が有意に改善されたことが明らかになっています。さらに、神経炎症を抑制し、神経伝達物質の放出に関連する経路を活性化することも発表されています。
研究グループが発表した内容への受け止めは?
今回、シンガポール国立大学らの研究グループが発表した内容についての受け止めを教えてください。
甲斐沼先生
コーヒー豆や植物に含まれる天然化合物であるトリゴネリンが、筋肉の健康や機能を改善するのに貢献することが今回の研究で判明しました。トリゴネリンは「世界で最も好まれている飲み物」とも言われるコーヒー豆に含まれる成分であるため、今回の研究結果を受けてコーヒーの健康効果が見直されるかもしれません。
また、研究発表を通じて、NAD+の前駆体としてトリゴネリンが新たに発見されたことによって、NAD+代謝に関する理解が深まりました。健康長寿や加齢にともなう疾患へ応用できる可能性があり、NAD+産生ビタミンを用いた介入を確立する期待感が高まっています。
一般的に、NAD+濃度が低下すると、認知機能の低下や代謝性疾患、がん(悪性腫瘍)、虚弱体質(サルコペニア)や筋力低下を引き起こす場合があります。コーヒー豆などに含まれるトリゴネリンを摂取して、NAD+濃度を回復させることで、様々な疾患に関連する症状を改善できる可能性があると考えられます。
まとめ
シンガポール国立大学らの研究グループは、コーヒーなどの植物に含まれる天然化合物トリゴネリンが、筋肉の機能を改善に役立つという論文を発表しました。私たちにとって身近な存在であるコーヒーに含まれる成分ということもあり、今後も注目を集めそうです。